第11話 応芽の決断

 おそろしく巨大な蟻地獄の巣。

 すり鉢状になった地面。


 その斜面の途中に、アサキとカズミの身体が、半ば埋まった状態になっている。


 ぜいはあ、苦しそうな表情で、肩を大きく上下させている二人。


 二人だけではない。

 少し離れたところに、はるなるおうせいの四人が、やはり同じように埋まっている。


 上空には黒い雲と、

 再び浮上した、ザーヴェラーの巨体。


「み、みんな、だ、大丈夫かあ……」


 カズミが、埋まっている地面から、なんとか自身の上半身を起こした。


「生きてるよーっ」


 顔が完全に埋まっていた成葉、すぽんっと頭を地面から引き抜くと、ぶるぶるぶるっと左右に激しく振った。


「無事です」

「死ぬかと思ったけえね」


 正香、そして治奈が、めり込んだ地面から上半身を起こした。


「ったくどいつもこいつも、バカな真似をしやがってよ」


 激痛をこらえながら、言葉を吐き出すカズミ。

 その顔には微笑が浮かんでいる。


 寸前、彼女たちになにがあったのか、説明しよう。


 ザーヴェラーの、自らの巨体をただ落下させるという、シンプルかつ破滅的なこの攻撃に、アサキは逃げなかった。

 足の大怪我で逃げられないカズミを守ろうと、いちかばちかの魔法障壁を張ったのだ。


 それ自体、桁外れに巨大な魔法陣であったが、さらに治奈たちも強力して、各々魔法障壁を張って、巨体落下の衝撃を受け止めたのである。


 それでもこの破壊力だ。

 一人分でも障壁が欠けていたならば、誰かが、または全員が、生命を落としていたかも知れない。


「あのザーヴェラー、最初の方でも急降下を仕掛けてきよったけど……」


 治奈が、ぶるぶると身体を震わせながら、なんとか立ち上がった。


「その時のそれは単に『なりたて』で未熟だったというだけかも知れん。ほじゃけど、今の攻撃はきっと意図的じゃろな。うちらを倒せる、と踏んでおるんじゃ」


 額の汗を袖で拭いながら、苦々しげな表情で空を見上げる。


「つまりは、すぐにまたくる、ということです。少しだけ様子を見てから、次は完全に仕留めにくるでしょうね」


 正香が補足する。


「去年の時のよりずーっと強いのに、こっちはこっちで人数が半分だしさあ。……未熟なザーヴェラーだから倒せるとかあ、いってたの誰だあ! ナルハもう動けないよー。……あーあ、先輩たちがいればなあ」

「おらん人のこといっても仕方ないじゃろ!」


 心に余裕がなくなっているためだろうか、いつも飄々としている治奈が珍しく声を荒らげた。


 それで逆に落ち着いた、というわけではないだろうが、とにかく反対に余裕の笑みを浮かべたのは、おうである。


「はん。その先輩たちとやらを合わせた以上のスペシャルが、ここにおるやろ」


 親指で自分の顔を差しながら、ふふん、と済まし顔で鼻を鳴らした。


「はあ?」


 まだ下半身を地面に埋もれさせたままのカズミ、顔に縦線がびっしりだ。


 応芽はすぐ真顔になると、ゆっくりと、はっきりと、口を開いた。


「頼みがあるんやけど」


 仲間たちの顔を見回し、ひと呼吸置くと言葉を続けた。


「みんなの、残りの魔力を、すべてあたしに預けてくれへんか?」

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