第10話 島が落ちてきた

 地上で、自身の負傷を治癒しつつ上空を窺っていたせいが、


「様子、おかしくありませんか?」


 訝しげな表情を浮かべた。


 肩を組むようにザーヴェラーの背中から飛び降りたおうとカズミであるが、その降下速度に全然ブレーキが掛かっていないのである。

 それでも状態が万全ならば、自身の魔力と魔道着の能力とで、どんな高さから落ちたとしても問題はないはずだが、もし魔力をほとんど使い果たしている状態だとしたら、無事では済まないだろう。


「あ、あれっ、ほんとだっ!」


 アサキも空を見上げ、思わず叫んでいた。


 きっと浮遊魔法を使う余裕もないんだっ。


 そう判断したその瞬間、アサキは大きく地を蹴って、落下してくる応芽たちへ向かって飛んでいた。


 ぼおっと青白く光る両手を頭上へと向けると、その光が大きく膨れて球状になり、落下してくる応芽とカズミを、迎え入れるように、包み込んでいた。


 ぐん、と球状の光に引っ張られるように、地へ落ち始めるアサキであるが、空中を泳いで、なんとか応芽とカズミの腕に触れて、引っ張り、身体を抱くと、非詠唱で浮遊魔法を発動させた。


 すーっと、落下の速度が緩やかになり、アサキ、応芽、カズミはゆっくりと着地した。


「助かったわ、りようどう。おおきにな」


 応芽が、アサキの肩をぽんと叩いた。


 怪我はなさそうだ。

 だけど、一緒にいるカズミが、ぐうっと呻いて、地に倒れてしまった。


「だ、大丈夫? カズミちゃん! ああ、足の怪我が酷いよっ!」


 アサキは、ごっそりとえぐり取られ、なおもどくどくと血を吹き出している太ももに気が付くと、両膝を地に落とし、両手のひらを、深い傷へと翳した。


「いいから、自分を治せよ!」


 倒れたまま、カズミが怒鳴り声を張り上げるが、


「わたしなんか、カズミちゃんに比べたらかすり傷だよ!」


 アサキも引かない。


「ったく、しょうがねえな。治されてやるよ……うああっ!」


 苦笑を浮かべようとするカズミの顔が、急に激痛に歪んだ。


「大怪我してるのに余計なこといってるからだよ! わたしなんかと違って、カズミちゃんは欠かせない戦力なんだ! だから、黙って治癒を受け入れてよ」

「分かったよ。……お前、なんだかしっかりしてきたな」

「だから余計なこといわない!」

「はい……」


 怒った顔のアサキと、受けてしゅんとしたカズミ、二人の表情が変化して、お互いに微笑み合った、その時であった。

 空が薄暗く、

 いや、薄白く陰ったのは。


「あ、あれっ!」


 成葉の絶叫に、全員が驚愕の表情を空へと向けた。

 驚愕も当然である。遥か上空に浮いていたザーヴェラーの巨体が、こちらへと、急降下しているのだから。


 こちらへ向かって飛んでいる、というよりは、浮遊をやめて重力に引かれるまま巨体を任せているかのよう。

 ぶーん、と低い音を立てて。


 まるで、落下する超巨大な爆弾である。


 加速がついて、地面に広がる白い影が、どんどんどんどん大きくなる。


「逃げろアサキ!」


 カズミの怒鳴り大声に、アサキはびくり身体を震わせた。


「で、でもっ」


 一人でならば、簡単に逃げられるだろう。

 だけど、足に酷い怪我を負っているカズミを引っ張りながらでは、間に合わない。


 そう判断したアサキは、躊躇うことなく立ち上がり、躊躇うことなく両手を天へと翳していた。


 ぼおっと光る両手の、その光が広がり、形を作り、青い魔法陣が出来ていた。

 その魔法陣は、一瞬にして大きく、直径数十メートルという常識外れに巨大なものへと膨れ上がっていた。


 次の瞬間、


 どおおおおおおん、


 鼓膜の破れそうなほどの爆音が轟いて、地が、足元が、ぐらりぐらりと揺れた。


 ザーヴェラーの、桁外れに巨大な身体が、彼女たちの頭上へと落ちたのである。

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