第06話 カズミちゃんへのプレゼント
「うええ、まだ顔が痛いよお」
「ああ、そういやそれどうしたの? 鼻の頭が擦り剥けてるけど」
義母、
「あ、いやっ、なんでもないよ。転んだだけっ」
「そうなの? どんだけ派手に転んだんだよお」
「えへへえ」
恥ずかしそうに笑いながら、後ろ頭を掻いた。
そして心に呟いた。
いえるわけないからな。
怪物……ヴァイスタと戦ったなんてさ。
いつどこでパニックが広がって、世界がメチャクチャになってしまうか分からないから、誰にも存在を話してはいけない。そういわれているからな。例え家族であろうとも。
まあ、この顔の怪我はヴァイスタ関係なく自爆ですけどお。
「それよりもチケットチケット、っと」
ここは令堂家自宅マンションの居間である。
テーブルに置かれたリストフォンから、空中にモニター画面、テーブルの上にキーボードが、それぞれ画像投影されている。
ソファに腰を下ろして、リストフォンをクラシックパソコンモードにして操作しているところだ。
磁界層相違認識という技術を利用したもので、空間投影された画面やキーボードを、タッチしたりタイプしたりして操作するのだ。
キーボード操作という昔のパソコンライクな点がクラシックというだけであり、空間認識入力の技術自体は最先端のものであるが。
「ダメだなあ」
アサキは、ふーっとため息を吐いた。
直美も、ため息こそ吐かないが腕を組んで難しい顔になって、
「こっちも同じだよ。そもそもページに繋がらなかったり、繋がっても混雑してますのしばらく時間をおけと表示される」
「うーん。超人気のアイドルだからなあ」
アサキは、渋い顔で自分の赤毛をぐしゃぐしゃっと掻き回すと、またため息を吐きながら、切っても切っても何故か直らないアホ毛を人差し指に巻き付けた。
現在、二人でなにをしているのかというと、
苦戦中である。
小遣い前借り覚悟で買おうと思ったのに、そもそもどうやってもゲット出来ない。
途中から、義母の直美も手伝ってくれているというのに、二人掛かりでも超人気による超混雑の壁を超えらない。
「どうにか入手して、カズミちゃんにプレゼントしてあげたいんだけどなあ」
アサキは腕を組んだまま、また難しい表情を作った。
「カズミちゃんて、あたしも駅で会ったことある面白い娘だよね。そんな星川絵里奈が好きなの?」
「わたしが歌ったら、下手だってダメ出しされたよお。見本とかいってまあノリノリで歌っちゃって。あ……」
そこまでの熱狂的なファンというよりは、純粋に憧れてるような感じだったよな。
もしかしたら、
いや、たぶん間違いない……
……カズミちゃん、アイドルになりたいんだ。
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