第01話 時は西暦3823年

 西暦3823年のことである。

 地球における人類の文明や科学において、約二千年ぶりに、大きな転換期とも呼べる変化が訪れたのは。


 これまでの主流であった量子コンピューティングを、天文学的規模で上回る超高性能コンピュータが、実用化されたのである。

 グラティア・ヴァーグナーというドイツ人女性が、日本の研究所で開発したものだ。


 日本で開発されたこと自体は、特筆すべきものでもない。

 資源に乏しく、先進国となるや早くからテクノロジー大国としての道を歩いていた日本。優秀な人材は日本に集まり、最新技術は日本から生まれるのが、当たり前だったからである。


 今回、むしろ珍しきは、開発者の人物の方であろう。


 グラティア・ヴァーグナー。

 純粋なドイツ人であるというのに、絵に描いたような赤毛。

 それだけでも珍しいが、さらには女性であり、さらには性格もユニークであった。


 小柄な身体に似合わない、男まさりの豪放磊落。

 しかし、普通の女性以上に細やかな気遣いが出来て、なのにおっとりしたところや、抜けたところも多い。

 この時代の科学者や技術者には珍しく、困っている人を放っておけない、誰からも愛される優しい性格であった。

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