第01話 一枚の、写真
煎餅を片手に、
「ええっ、また合宿うう?」
なんとも素っ頓狂な声を上げた。
「うん。今度はの、学校でやるんじゃて」
「ウメにゃんが加入したことだし、あらためてチーム作りを、ってことかにゃあ? ああくそ、やられたあ! ボンバーユニットなのに攻撃弱い!」
「あんな輪を乱す性格が、合宿くらいでマトモになるわけねえのにな。あいつだけ、寺に修行に出せばいいんだよ。頭ツルッパゲにしてさあ」
ははっ、と
「そうやって、人の中身を決め付けるのは、よくありませんよ」
「はーい」
「そうだよおカズにゃん、いっくら事実その通りだからってさあ」
負けてゲームを終えた成葉が、天井くらいの高さにまで放り投げた二粒のピーナッツを、器用に口で受けた。
「……おう、このボケカスども、他人の家に強引に上がり込んでおいて、なにを好き勝手なこと抜かしとるんや」
ふすまのところに立っている
ここは、彼女が一人暮らしをしているアパートだ。
1DK。
一人で住むには適当な広さなのだろうが、さすがに六人もいると窮屈なものである。
「お菓子自前だし、性格クソ悪いボッチ女のとこに、わざわざ遊びにきてやってんだから、好き勝手抜かすくらい別にいいじゃねえかよ。あ、間違った、別にええやんかあ」
「せやから、関西を下に見る態度やめろ! 殴るでほんまに」
ぐぐっと握った拳を、カズミへと突き出した。
心の中では、既にボコボコ殴り始めているのかも知れない。
「関西だけを下に見ているわけではなあい。上に、遥か上に、万物のテッペン頂点に、このカズミ様が存在しているのだあ! 天井点眼えっとあとなんだ、マイケル・ジャクソンッ!」
テーブルの前であぐらをかいたまま、カズミは、どどーんと右腕を天井へと突き上げた。
「天上天下唯我独尊も知らんアホのくせに、恥ずかしげもなく自分に様なんぞ付けとんやないで。おのれごときが様ならな、ほならこっちは応芽様様、いや応芽様様様や!」
「ならばこっちは、カズミ様様様様だ!」
「オウメ様様様様様や!」
「カズミ様様様様様様や! って、関西が伝染っちゃったじゃんかよ!」
「知るかボケが! 帰れえ!」
だすっ、と応芽は激しく足を踏み鳴らした。カズミのアパートと違って、この程度で床は抜けないようである。
「ったく、狭い部屋ででっけえ声を出すなよ、もお」
カズミは、割り箸を片手に、カップ麺の汁をずずっとすすった。
「お前もや! アホなこと叫んでたやろ! つうかカップ麺勝手に作って食うなああああ! ……うああ、残り少ない備蓄があ……」
「あ、ごめんね。そんな貴重だったのか。いや、煎餅だけじゃ腹が減ってさあ。代わりにこれやっから、なにかの足しにしてくれ」
カズミは、カップ麺と箸をテーブルに置くと、バッグがさごそ小さな紙切れを取り出して、応芽へと差し出した。
「なんや、金や商品券なら倍はないと割に合わ……お前の写真やないか!」
「カズミちゃんブロマイドだよ。いつか価値が跳ね上がるぞお。よっ、わらしべ長者!」
「いらんわあ!」
怒気満面、写真を突き返した。
はあはあはあはあ、すっかり息荒くなっている応芽。の、背後で楽しそうな声、
「うわあっ、小学生のウメちゃんかわいーーっ」
「ほんとだあ。でもウメにゃん、今と変わらず目がきついし、見た目はかわいいけど、性格はこの頃から悪そうだにゃあ」
アサキと成葉が、なんか本を見ながら楽しんでいたのである。
「写真を勝手に見るなああああああああああああああああああ!」
応芽、狭い部屋を俊足超速ダッシュ全開、学習机の前で楽しそうにしているアサキと成葉から、アルバムブックを奪い取った。
また取られぬよう、両手で頭上に持ったまま、息を切らせながら二人を睨み付けた。
「あ、ご、ごめん。置いてあったからあ」
両手をひらひら、笑ってごまかすアサキ。
と、応芽の頭上に持ち上げられたアルバムから、ひらりはらりと一枚の写真が、机の上に落ちた。
小学高学年か、中学一年生か、とにかく現在とさほど変わらなくはあるが、少しあどけない顔の、応芽の写真だ。
仲間たちと、楽しそうに笑っている。
カメラ慣れをしていないためか、少し硬いが、邪気のない笑顔である。
「あ、あれ……」
アサキの目が、疑問と驚きとに少しだけ見開かれた。
片隅に、応芽と同じような、いや、そっくりな顔をしている女の子が写っていることに気付いたのだ。
気が付かれたことに、気が付いたのか、
「双子の、妹や……」
応芽は、あまり語りたくないといった空気を、ぼそり小さな声に乗せた。
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