第19話 隠された真相
美沙絵はゆらりと立ち上がると、訥々と喋り出した。
「母、黒柳紫苑は薬師寺暢彦の愛人だったわ」
「……!」
九龍頭は眉をひそめた。
「九龍頭さん、仰ったわね?黒柳紫苑という磁器人形作家をご存知かと。そりゃ、知ってるわよね?だって私が慕った母親なんですもの。それを、あの男は棄てたわ。そりゃそうよね。母は単なる人気作家の遊び道具に過ぎなかったんだから」
「それで……中迫さんは……?」
「私は……かつて黒柳紫苑を世の中に知らしめようとした、宣伝人のようなものでした」
中迫は言った。
「美沙絵さんが、黒柳紫苑の娘さんだとは知っていました。だから、少しびびらせるつもりもあったのかもしれません。根も葉もない噂をくっつけた遺作の人形を、薬師寺氏に売りつけた。彼はみいはあだ、知ったかぶりを決め込んでそれを買った」
美沙絵はくつくつと邪悪な笑い声を出した。
「あれが呪い人形だとか言われるのは、正直腸が煮えくりかえるような気分だったわ。それをまさか、ゴミみたいに破壊する莫迦息子がいなければ、そこで終わるはずだったのに……それなのに!」
美沙絵は力無くぺたりと座り込んだ。九龍頭の背後で誰かがふっと立ち上がるのが見えた。
――春日だ
「先生は、全てご存知だったんですよ。美沙絵さん」
「は?何を言うの?」
「先生は、あの人形が呪い人形じゃない事は判っていた。先生は、あれを初めから手許に置くつもりだったんですよ。紫苑さんへの贖罪の為に」
春日は美沙絵の前に跪く。
「それをご存知なかった貴女を、私は許せなかった。そして貴女が先生を殺害したことも、私は知っていたんです。そして、先生もひょっとしたら、貴女に殺されることも覚悟していたのかもしれません」
春日は言う。
「噓よ!」
「貴女はご存知なかったでしょうが、先生は紫苑さんの娘さんである貴女を探偵を雇ってまで捜したんです。何も知らないふりをして、貴女と結婚したのも……」
「噓よ!!」
「噓じゃない!」
春日の目線は、真っ直ぐに美沙絵を見つめていた。その両目は潤んでいる。
「この春日……先生のことなら何でも知っています。心から、尊敬しておりますから……」
美沙絵は声を上げて泣き出した。その肩を井筒警部が叩き、美沙絵はゆっくり立ち上がった。
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