第18話 真相
九龍頭の表情が冷淡に変わった。感情が読み取れないくらいの無表情だ。全員の視線は依然として美沙絵を捉えている。
「私が……主人を?」
「全ての状況が、貴女を犯人だと示しています」
美沙絵は突っかかったように笑い出した。
「面白い方ですわね、九龍頭さんって。いいでしょう。お話になって?」
「まず、貴女には薬師寺暢彦さんが亡くなった日、
朝香は深く頷いた。
「温泉旅行に行ってましたからね?物理的にお父様を殺すことは不可能ですわ」
「それが、可能なんですよ」
美沙絵は柳眉を逆立てたまま九龍頭を見る。
「あの方は、奥様や登美子さんが粉薬をオブラートに包まないと飲まない。悪く言えば甘ったれている。あの日も美沙絵さんが準備したオブラートに包んだ粉薬があったはずですね」
登美子は頷いた。
「えぇ、いつものことです。戸棚の上にそれを置いておいて……」
「いつものその場所に、生石灰を包んだオブラートがあったとすると?」
「!!」
井筒警部ははっとした顔をした。
「粉薬も生石灰も、見た目は白い粉体だ。そして美沙絵さんは出先からここにお電話をなさいましたね?」
「……」
「その時に、こう言えばいいんですよ。降圧薬は、いつものところにあるから、飲んで下さいねと」
九龍頭は美沙絵を真っ直ぐに見つめた。
「それを降圧薬と疑わない薬師寺暢彦さんは、オブラートに包んだ生石灰を飲み込み、喉の水分に反応した生石灰は激しく発熱し、発火点に達する」
「そうか、だから上半身だけが!」
美沙絵はくすくすと笑い出す。
「ま、仮に私が主人を殺害したとして、動機は何かしら?それに和馬さんの場合は?」
「和馬さんの場合はもっと単純ですよ。貴女は薬師寺暢彦さんを殺害出来なかった時の為に余分にオブラートに包んだ生石灰を携帯していた。和馬さんの場合は、予想外だったのでしょうが」
「と、言うのは?」
「和馬さんが、あの磁器人形を破壊してしまったからですよ」
中迫は脂汗をかいている。九龍頭は中迫に訊いた。
「中迫さん、本当はご存知だったんじゃありませんか?」
「なっ……何をです?」
九龍頭はぴっと背筋を伸ばして言った。
「確かに黒柳紫苑という磁器人形作家は存在しました。しかし、世間一般にその作品は出回らなかった。よって、あの磁器人形が呪われているなんていう噂はない。中迫さん、あの人形に呪いがあるという噂は、貴方が吹聴したデマですよね?」
中迫はわなわなと震えだした。
「そこで、井筒警部に調べて戴いたんですよ。黒柳紫苑という磁器人形作家は、戦後間もなく薬師寺暢彦氏の……」
「やめて!!」
耳を劈くような悲鳴に似た声を上げる美沙絵。
「これ以上……母を辱めるのはやめて!」
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