第17話 九龍頭光太郎の解答

 嬉々として関係者を広間に集めるべく行動する井筒警部と反し、九龍頭光太郎は罪悪感に顔を歪めていた。

 野薔薇荘の事件同様、事件の真相を暴く事は、一人の人間を更なる地獄に叩き落とす事になるからである。無論、逃げ果せたとしても、犯人となる人物には黒い罪の十字架はついて回る事になるのだが……しかし、事件の真相を暴くことは、自分に課せられた使命だ。甘んじて受け入れるべきだ。九龍頭は広間の様子をちらと見て柔和な顔をつくった。


「九龍頭さん、どういうことなのかしら?」


 朝香が九龍頭に訊いた。九龍頭は微かな笑みを浮かべ、朝香に話した。


「事件の真相が解りました」

「あれは……呪いじゃ……」


 春日は蚊の鳴くような声を喉から絞り出すようにして言う。


「あれはれっきとした殺人事件でした。呪いなんてものは


 九龍頭は広間を見回すように、テーブルに両手をついて身を乗り出した。


「旦那様のときも、あれは殺人事件だと?だって、皆様にはちゃんとした不在証明アリバイが」

「勿論、皆様には不在証明アリバイがあり、実質的に



 全員の視線が九龍頭に集まる。


「登美子さん、お訊きしたいことがあります」


 登美子は佇まいを正して返事をした。


「クッキー、あります?」

「えっ?そ、それは勿論」

「朝食の際に朝香さんの仰られた言葉を思い出してみて下さい。その時のクッキーは、薬師寺暢彦さんが亡くなられる前にあった物ですか?」 


 登美子は頷いた。九龍頭は納得したように話を続ける。


「何処に仕舞っていました?」

「えぇ、袋に入れて冷蔵庫に……」

「袋はクッキーの入っていた袋ですか?」

「一度封を開いておりますもので、ビニールの袋に移したのです」

「何故?」

「だって、あれには


 九龍頭は有難うございますと告げると、また同じ体制に戻った。


「九龍頭先生、そのクッキーと薬師寺暢彦さんの亡くなられた事件とは、どんな関係が?」

「クッキーは関係ありませんよ。関係あるのは


 九龍頭は続ける。


「あのクッキーの乾燥剤は、恐らく生石灰じゃありませんかね?お菓子の乾燥剤に用いることはよくありますからね」

「それが……?」

「湿気のある日に、乾燥剤の袋が熱くなってしまう時がありませんか?生石灰は水分と反応すると発熱します。そう、


 九龍頭は登美子に訊いた。


「あのクッキーは、貴女が開けたのですか?」


 登美子は首を横に振る。


「そうでしょう。犯人はまず、あのクッキーの乾燥剤を取り出す必要がありました。乾燥剤をね。そうじゃありませんか?」


 九龍頭は一人の人物の顔を真っ直ぐに見た。視線が九龍頭と同じ人物に集まる。


「薬師寺美沙絵さん」

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