第10話  テスト

「実はね、私は生まれつき、左の手首から先がなかったんだ」

「えっ」

「他の子には話していない。君にだけだよ」

「どうして僕に?」

「それは、君が特別だからだよ」

どうして僕が特別なのかが、わからない。


僕にとって木藤さんは特別だ。

でも・・・


「わからない?」

「うん」

「鈍いね」

悪かったな・・・


「それはね。君が他の子たちとは、明らかに違っていたからだよ」

「褒めてないよね?」

「うんん」

即答ですか?


「半分はね。でも、後の半分は褒めてるんだよ」

「どうして?」

「君は、自分でも自覚していると思うけど、陰キャラだった」

「悪かったな」

木藤さんは、くるっと回転をしてみせた。


ポニーテールが、なびく。


「他の人は、周りに合わせようとする。というか、合わさってしまう」

「朱に交われば赤くなる」

「その通り。でも、君は違った」

「えっ」

「染まることなく、自分だけの色を持っていた。私はそこに、憧れたの?」

冷やかしかい。


「違うよ・・・人間は自分にないものに憧れるよね?」

「うん」

「私は、つい他人色に染まるから、自分だけの色を持っている君が好きだったんだ」

「ウソ」

「本当だよ。だから、声をかけてみたんだ」

そんな理由ですか・・・


「最初は、そっけなかった君だけど、少しずつ私に心を開いてくれた。嬉しかったよ」

「根負けだよ・・・」

「らしいね」


「ねえ、君から私の手を握ってくれる」

「僕から?」

「テスト」

「テスト?」

木藤さんは頷く。


「私の本当の手である右手を握ってくれるか、

義手である左手を握ってくれるか・・・」

「難しいテストだね」

「君なら、正解してくれると信じている」


考えるまでもなかった。


僕が握ったのは・・・

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