天使になりたかった悪魔
暴徒
(完結)
天使になりたかった悪魔がいる
人に尊ばれ 敬われたかった悪魔がいる
苔むした洞穴で暮らすその悪魔は
いつも聖書を繙いて感涙していた
助けを請う人がいたら問いかける
私は何に見えるのかと
空が酷く青い日のことだった
悪魔は己の限界を知る
山を穢し 人を恨み 天に唾を吐く日もあった
それでも悪魔は聖書を手放さなかった
それを持つ手が聖なる力で焼け爛れようとも
それを読む目が腐り落ちようとも
天使に価値があるのではない
その輝き それが佇む頂き
冠せられているものすべてを悪魔は欲した
自分が天使に憧れたのではないと悟って
悪魔は己の黒い翼を毟り取り
牙も 魔法も 谷底に放り捨てた
汚物にまみれた布だけを被って
人間の住む町へと移り住んだ
悪魔は人間として生きることに決めた
何者になるつもりもなく
しかしその身に聖書は携えて
それを持つ手は 今 人のかたちを保っている
悪魔は二度と聖書を開かないだろう
天使になりたかった悪魔 暴徒 @sakuneko
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