第19話 奇妙な異常

門の中から現れたのは…キラキラと輝かんばかりの美少女たちの群れ。


大概はお揃いのメイド服のような衣装を身に纏っているものの…

手にはハンマーだのモーニングスターだの…

明らかに衣装とは不似合いな武器を持っている。


そして、中に数人…

明らかに何かしらのフェチ魂を煮こごらせて凝縮させたような衣装のずば抜けた美少女達がいる。


まず目についたのは、緑の超ハイレグビキニに何故か肩だけゴツイ防具を付けて、金色のサークレットと白いマントをなびかせた金髪エルフの美少女。


キリリ、と鋭い緑の瞳にすっと通る鼻筋。

全体的にスレンダーなボディ。

『美少女エルフの古典』とも呼べる姿だ。


そんなエルフ少女と会話をしているのは淡いブルーのショットカットで眼帯をした美少女。

割とくるくる表情の変わるエルフ美少女と違い、まるで人形のような無表情クールビューティだ。


彼女は死神のような大鎌を抱え…

その衣装は全身のボディラインを強調するようにぴったりと肌に張り付く黒の全身ラバースーツ。

そのラバースーツには、どんな意味があるのか分からない幾何学的な文様が浮かび上がる。


腰から伸びる2本の延長コード…いや、しっぽ?

さらには耳に装着されている大きな耳当てからも同じような延長コードが左右3本づつ、合計6本のコードが伸びており、別ジャンルのファンタジー世界から来たみたいだ。


次に、おそらく多くのメイドたちを従えているメイドの長は、ゴスロリ美少女メイド。

しかも、ただのゴスロリメイドではない。


色々と他のメイドさん達からフォローされまくりの『ドジっ子愛され系ゆるふわ巨乳妖狐ゴスロリメイド』だ。

ピンク色のロングヘアーと、ぷるんぷるん無駄に上下する胸、そしてもっふもふの尻尾と狐耳を揺らしながら「ほええ~」だの「はわわ~」だのと言っているのが僅かに聞こえる。


多い、多い!!

情報記号が多いよっ!?


設定の盛り込みすぎでキャラが死にかけてるハーレムゲームの攻略ヒロインを見ている気分だ。


そして、最後の一人は青いロングドレスに純白の鎧を装備した姫騎士さん。

プラチナブロンドの髪をキリリと編み上げ、大剣を装備する姿は誰が見ても文句のつけようがない麗人ぶりだ。

まぁ、問題は…本当にちょっとした事でその鎧が弾けて飛ぶ事だろう。


え?どういう事かって?


いや、だって、彼女たちがわきゃわきゃしている間にそれは起きたんだけどさ…

属性特盛妖狐メイドちゃんがすっころび、その拍子に持っていたモーニングスターを姫騎士さんにぶつけてしまったのだ。


すると、その姫騎士さんの装着していた鎧が弾け飛ぶ。

無駄に色っぽい悲鳴を上げながら、倒れ込む姫騎士さん。

そして、何故か半裸になり「くっ殺せ!」と叫ぶ。


これ…俗に言う「クッコロ女騎士」じゃないですか!?


しかし…何で背中側からモーニングスターをぶつけられて胸側の鎧がはぜるの…?

衣類って打撃によるダメージで内側から吹っ飛んでいくものだったっけ…??


「り、リリィ…!」

それを見てお兄さんが悲痛な声を上げる。


え!?

どれ?

どれがリリィさんなの!?


あの大量のお付きメイドたちの中にリリィさんが居るのかと思ったら、どうやら、あのクッコロ女騎士がリリィさんらしい。


「ボクのリリィは…あんな…あんな事…言う娘じゃないんだ…

あんな男の元に行ってから…あんな痴女のような隠し芸まで人前で披露するようになるなんて…うぅ…」


うわぁ…

…な、何て言うか…その……フォローの仕様が無いなァ…


こちらがお兄さんを慰めている間に、少女たちは二手に分かれ、

属性特盛妖狐メイドちゃん・無表情ラバースーツさん、そしてメイド軍団は東へ、

ハイレグエルフさんは、クッコロ女騎士さんの服を魔法で元の姿に戻すと、二人そろって西へと消えていったのだった。




「…と、言う場面を見ました!ね、オズヌさん。」


「あ、あぁ…と言うか、よくそんな細かい所まで見てたな…ナガノ。」


「いや、まぁ…色んな意味でインパクトありましたから。」


『クジケ荘』さんに戻って来た僕達は、全員揃った所で夕食を取りながらそれぞれが集めた情報を整理する事になった。


…しかし、流石、活気の無い町。


夕食の定食メニューが、クズ野菜のちらほら浮いた塩スープと、ジャガイモのような芋を蒸かしてつぶしただけのポテサラ…と、これだけだった。


僕達の持って来ている携帯食の方が豪華なんですけど!?

本当にヤバイな、この町…!


そんな訳で、食事もそこそこに、今日見て来た事の詳細を他の皆に伝える。


「ハイレグエルフに無表情ラバースーツ、ゴスロリドジっ子巨乳妖狐メイド…

そしてクッコロ女騎士だと!?く…うらやま…ふ、フンっ!!けしからんな!」


「何か、僕達の世界のカルチャー臭を感じない?しかも、ビミョーに古い感じ。」


「あ…あぁ、まあな。」


他の皆さんはピンと来ないだろうけど、エルの奴は僕の言いたい事が分かるらしい。


「…ふむ。確かに…こちらの情報とも一致する。」


隊長さん達の情報だと、どうやらこの町の代官はウォーン・コリカンと言う10代後半の男性らしい。


10代後半って若すぎない!?と、普通は思うのだが…

異邦人の男性を相手にする場合、一番タチが悪いのが10代後半なのだとか。


その年代特有の瞬発力と回復力と性欲を持ち、お頭の中身は老獪でずる賢くえげつない癖に、精神は身勝手なガキのまま。

そのうえ厄介な祝福ギフトを使いこなす…との事。


ちなみに、もっと小さい子供の内だと、まだこの世界の常識を教え込めば矯正が効くケースが多いそうだ。

なんか、僕までボロクソ言われてるような気が…ねぇ、隊長さん、何でこっち見て言うの?


それはともかく…その代官さんの下でも、特に有名なのが7人の嫁、通称エンゲージ・ガールズ。


一人目がミカティア・ラヴィ通称、内政のミカティア。

二人目がウィーリン・セリス通称、幻惑の踊り子ウィーリン。

三人目がラフィーラ・ララン・フォルス通称、伯爵姫ラフィーラ。

四人目がシズナミ・リル通称、黒衣の死神リル。

五人目がフルル・オフィエル通称、精霊使いのフルル。

六人目がティキ・ハギト通称、破壊神ティキ。

七人目がリリィレナ・トール通称、姫騎士リリィレナ。


…で、どうやら、僕とオズヌさんが目にしたのは、この嫁軍団の内の4人である可能性が高いらしい。


多分、あのハイレグビキニの美少女エルフが精霊使いフルル。

大鎌持った黒ラバースーツのクールビューティが死神リル。

クッコロ女騎士がリリィレナ。

そして、消去法で属性特盛妖狐メイドが破壊神ティキだろう。


最初の3人はほとんど中央区から出ないそうなのだが、他の4人は色々と外区の方まで出歩くのだそうだ。


「しかし…あの少女達が…そんなに強いのか?」


生で彼女たちの内4人を見ているオズヌさんが首をかしげる。


確かに…どちらかと言うと彼女たちは華奢で女性らしい体つきだし…

ガチで戦った時にオズヌさんや隊長さんはもちろん、エルにだって勝てるかどうか分からないような体形をしている。


持っている武器にインパクトは有るけど…

あの細腕に重量級装備って…

現実問題としては『使い物になるのか?』が本音だろう。


「この辺りで情報を聞く限りでは『理不尽なほど強い』そうだ。」


隊長さんの言葉に思わずオズヌさんが呟く。


「にわかには、信じがたいな。」


「…あの、ちょっと一つ気になってる事があるんデスが…」


「何だ?レイニー。」


「実は、ワタシとリー兄ちゃんも、精霊使いと思えるエルフの少女と、青いドレスに白い鎧の女騎士を見たんデス。」


レイニーさん曰く、すれ違った二人は近くの森で狩りをした帰りだったらしい。

その時に【鑑定】で見えた彼女達のステイタスが奇妙だったと言うのだ。


「二人共、楽しそうに談笑して歩いていたんデスけど…

『ステイタス異常』が出ていたんデス。

それも、エルフの少女は【憤怒】、女騎士の少女は【悲観】デスよ?」


「…フン…どういう事だ?」


エルのヤツが全く手を付けられていないレイニーさんのポテサラをつまみつつ問いかける。


どうやら、普通の感情と違って『ステイタス異常』として【憤怒】が出ていたら、怒り狂って手もつけられない状態だし、【悲観】は、読んで字のごとく、とてもではないが友人と狩りをしながら談笑できるような心理状態ではないはずなのだ。


「オレも一緒に見てるっスから、二人が楽しそうにしてたのは確かっスよ?」


「ほう…他にはその『神の目』で何が見えたのだ?」


「あの…この町に入ってから…チラホラいらっしゃるんデスけど…」


そう言いながら、レイニーさんは丁寧な文字が並ぶ手書きのメモを見せてくれた。

そこに記されていたのは、何かのスキル…と思しきものだった。


【王の祝福:一般市民】…モブ。

【王の祝福:チンピラ】…王に逆らう事は出来ない。便利なやられ役。

【王の祝福:上級市民】…異性のみ対象。王を褒めたたえる。王とその配下の命をきかなければならない。

【王の祝福:ハーレム】…異性のみ対象。王の思い通りに行動する。王の命は我が命。貢献度が割増しとなる。領域を持つ。

【王の祝福:俺の嫁】…性交した異性のみ対象。全ては王が最優先。王の命は我が命。貢献度が倍になり、領域を持つ。


「これは…?」


「この町で見かけた奇妙な『ステイタス異常』デス。」


「くふふ…実に興味深い…」


しかし、これだけだと…正直、何が何やらですよ…?

ステイタス異常で一般市民が『モブ』って何?『モブ』って?!


他にも、貢献度だとか、割増だとか、領域だとか…

ちょっと詳しく説明プリーズ!と叫びたくなる内容だよ!?


「あのエルフ少女が【王の祝福:俺の嫁】、女騎士の少女が【王の祝福:ハーレム】となっていマシた。」


他にも、すれ違ったメイド少女達は1人の例外もなく【上級市民】、

外区に居る男性陣の約半数に【一般市民】や【チンピラ】が、

ついでに言うと、あの不愛想な門番さんも【チンピラ】と言うステイタス異常が出ていたらしいのだ。


「多分…このステイタス異常を付けられる能力者の方は…

兄神様型の祝福ギフトを持っているんだと思いマス。」


「あー…これは確かに。」


「そっスね~。オレの祝福ギフトと似てるっス」


「えーと??どういう事ですか??」


メモを見た途端妙に納得しているオズヌさんとリーリスさん曰く、

実は祝福ギフトには【鑑定】した時に『どういう効果があるのか』客観的にわかりやすいものと、よくわからないもの…

言い換えれば、厳密に定義されている能力と、ゆるふわっと定義されている能力の2パターンがあるのだとか。


前者の典型がエルの【簒奪】やエリシエリさんの【破壊神ロリスの花嫁】、

逆に後者の典型が今回の祝福やリーリスさんの【酒神ラグナの寵愛】。


なんでも、リーリスさんの【酒神ラグナの寵愛】は

『お酒をいっぱい飲める。お酒は我が命。』…となっているのだとか。


確かに、ふわっとした祝福だな~。


なお、この【酒神ラグナの寵愛】と、よく似ている弟神系の祝福ギフト

酒神ラグナの加護】と言うモノがあるらしい。


こちらは、かなりしっかり定義されているみたいで、

1階位あたり『ギィの胃袋〇個分のアルコールを無効化できる』…と、言う感じらしい。


うん。表現がかなり客観的な内容だよね。


…それと比べると…

「いっぱい」ってどんな量なんだよ?


ちなみに、この「兄神系」の言われには、こんな神話があるそうだ。



昔々、神様がたくさん地上で生活していた頃、人の事がとても好きな、気の良い神様が居た。

そもそも、神様たちにとって、人の営みと言うモノは、とても楽しいエンターテインメントのようなものだったのだ。


しかし、その当時の人々はとても脆く、ちょっとした事で、すぐに死んでしまった。


そこで、人が好きな気の良い神様は考えた。


どうすれば、この人々をもっと楽しく見ていられるのだろうか…

そうだ!

人々がもっと長生きして、もっと丈夫で、もっと増えることができるするようになれば良い!

いっぱい人が増えると、彼らを見るのはもっと面白くなる!


人が好きな気の良い神様は、自分の力や他の神様の力を切り取って、《祝福》というものを作り、全ての人々にそれを渡した。


しかし、この神様…

大変残念ながら、割とアバウトと言うか…感覚派と言うか…ポンコツと言うか…

能力の内容をキッチリ定義しないタイプだったらしい。


そのため《祝福》を貰った人々は、とても混乱してしまった。


同じ《祝福》であるはずなのに、出来ることが違い過ぎて喧嘩になったり、使い方を誤って自滅したり…。

《祝福》に振り回され、人々の数はどんどん減ってしまった。


困った気の良い神様は弟神に相談した。

すると、真面目で几帳面な弟神が、今度はキッチリ明確で厳密な《祝福》を作り、さらにそれの使い方を人々に教えてから《祝福》を渡して行った。

すると、人々は《祝福》をうまく使い、寿命も延び、そして数も増えて行った。


兄神はとても喜んだ。気の良い兄神が喜んでくれて真面目な弟神も嬉しかった。


しかし、弟神よりも兄神の方が神の力は強かった。

そのため、先に兄神が作ったふわっとした《祝福》を完全に無くすことは出来ず…


結果、この世には兄神の作ったふわっと系の《祝福》と

弟神の作ったキッチリ系の《祝福》の二種類が生まれた…と言うものだ。


で、そこから「お前の《祝福》ってどういう意味」と言う皮肉を込めて、ふわっとした祝福ギフトを通称『兄神系』とか『兄神様型』と言うのだそうだ。




しかし、侮るなかれ。


実は、持ち主本人が主観で定義できる兄神系の方が、使いこなせば厄介なのだとか。


例えば、リーリスさんの場合はお酒をどんなに大量に飲んでも、本人が

「こんな量じゃ『いっぱい』にはならないっス~」と思えば、まだまだひたすら飲めるし、

逆に今日は月末でお財布がピンチ!

でもお酒を少しだけ飲みたい!

と言う時は「いっぱい=一杯」で十分に満足する事も可能だそうだ。


「ただ、それでも推察できることは有る。」


「何っスか?」


「この【王の祝福:〇〇】とやらが全て『ステイタス異常』であると言う事だ。」


「…どういう事だ?」


「つまり、この『ステイタス異常』は【悲観】や【憤怒】よりも上位の異常と言う事では無いのかね?」


「…なるほど…あり得マスね。」


要は、あの少女達の

「外で狩りをして、その獲物を王の元へ楽しそうに持ち帰る事」が

「王を最優先」にした「王の望む行動」であり、それ以外の状態異常を表面化させない程、

【王の祝福】が強力な『ステイタス異常』だとするならば、レイニーさんが見た彼女等の行動はあり得る話なのだそうだ。


「あの、ちょっと気になったんですけど、その【王の祝福】シリーズが『ステイタス異常』なのだとしたら、回復魔法で治せたりするんでしょうか?」


「ふむ…?なるほど、治癒が可能ならば姫の予言で貴殿を名指しした意味もあるだろう。」


それを聞いたレイニーさんがキョロキョロと辺りを見回す。


「どうした、レイニー?」


「あ、居マスね。ナガノ君、あの、奥の二人組…緑の髪とスキンヘッドのお客【チンピラ】デス。」


この宿…こんなメニューだけど、それでも一応、宿泊客が数名この食堂でポテサラをつまみに主にお酒を飲んでいる。


「後、あの料理人のおじさんが【一般市民】デス。」


レイニーさんがそのお客の中からステイタス異常のある人を教えてくれる。


うーん…今の所、見た目も行動も普通だなぁ?


【チンピラ】と言われた二人組も大して素行が悪い様子は無く、それなりに二人で談笑しながらお酒をたしなんでいる。


ま、試してみますか。

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