第13話 異世界家庭料理と死者の蘇生と
さて、本日のメニュー!
『ギィの内臓の黒トマト煮込み』、『コーロギィのサラダ』、『14種の雑穀ごはん』、『アニンの漬物』そして、リーリスさんから差し入れの『トト・トロの串焼き』!!
…うん!名前を聞いても何が何やらですな。
見た目は紹介順に
『まムラサキのどろどろした液体に浮かぶ根菜と臓物の汁』
『真っ赤に揚がった大量のコオロギが乗った牧草』
『元の世界でも見かけたオシャレカフェで女子が注文するご飯』
『ピンク色のアーモンドの漬物』そして、
『丸い型に成形された肉の串焼き』である。
……うん。
ちょっと色合いとか見た目とかは普段食べなれているものとは違う。
遠慮なく言ってしまえば、婦女子が悲鳴を上げるタイプの見た目の料理もある。
けど…けれどッ!
香りはめっちゃ美味しそうなんだよね。
僕の好奇心と食欲に同時に激しくアクセスしてくる。
「いただきまーす。」
『14種の雑穀ごはん』は、元の世界でも見かけた感じとほぼ同じ見た目なんだけど、あのジャポニカ米に近いものは含まれていないので、粘りは無く、もっとサラサラ、パラパラとしている。
食べるときに使うのも、お箸ではなく、お匙と二股のフォークみたいな食器がメインみたいだ。
…考えてみると、オズヌさんが携帯食料から作ってくれたあの汁も匙で食べてたもんな。
あれはほぼスープだから気にならなかったけど、こうやっていろんなメニューが出てくると、個人的にはお箸を使いたくなってしまう。
…今度、木の枝から作ろうかな。
なお、ナイフは個人というより、テーブルに二つくらい準備されていて、大きな食材を一口大に切る時に使うらしい。
今回のメニューだと、ナイフが必要なのは『トト・トロの串焼き』くらいなので、その隣に結構立派で…
ともすれば武骨にも見えるナイフが2本鎮座している。
さて、ごはんの味だが、味は普通に美味しい。
どうやら、日本のお米みたいな甘みを持つ雑穀がふくまれているみたいで…
チャーハン食感のご飯って感じ。
雑穀もぷちぷち弾けて食感が楽しい。
うん!
これが主食だったら、僕はこの世界で上手くやって行けそうです。
ありがとうございます。
そして、『ギィの内臓の黒トマト煮込み』は、見た目こそ真紫でとてもじゃないが食欲をそそる色ではないのだが、味は各種根菜の風味と、濃いトマトのうま味…
そして、牛モツっぽいお肉は丁寧に臭みが取り去られている。
トロトロになるまで煮込んだお肉と、こんにゃくみたいな食感…
これもモツの一種かな?
コニュ、コニュしてうめぇ。
それらが混然一体となり、さらに、お味噌風味の味付けがされていて、実に美味。
ご飯がススム、ススム。
このスープを具材と一緒にご飯の上に掛けて、カレーみたいにして食べても良いらしい。
見た感じ、オズヌさんとリーリスさんは豪快にご飯にスープをかけるオン・ザ・ライス派。
おっと、リーリスさんに至っては、さらにそこに透明なソースもかけるみたいだ。
二人とも豪快にかっ込んでいる。
逆に、レイニーさんはちまちまと匙に盛った一口ごはんをスープに入れては口に運ぶイン・ザ・ライス派。
エリシエリさんは完全に別々に食べる派らしい。やっぱり女性は食べ方が上品だ。
「このトト・トロは何処の店だ?珍しい味付けだな。」
「ふふ~ん、一昨日新しい屋台がオープンしたんスよ、南門のすぐ傍に。」
そう言いながら、リーリスさん自分のお肉に自前の透明なソースをたぱたぱかけて齧り付く。
「カルダ風の味付けね~、うふふ…香辛料が効いてて美味しいわ~」
「カルダ風…?」
「カルダはここダリスの隣にある港町デス。
…ちょっとピリ辛の香辛料をたくさん使う料理が多いのデスよ。」
串にささっているお肉を切り分けて貰い一口齧り付く。
あ、これ、丸い形に形成されたお肉だと思ってたけど、お魚じゃないかな!?
…魚みたいな骨は見当たらないけど…
味はマグロの尾っぽのステーキ…みたいな、力強い味付けで美味しい。
香辛料と言っていたが、僕の舌には、シナモンのパンチが入ったカレースパイスだ。
うんうん、どっちのメニューもご飯によく合う飯泥棒です。
次に手を伸ばしたのは…
山のように盛られた『コーロギィのサラダ』。
…見た目的にはこれが一番キョーレツ…かな。
だって、モロに見た目はコオロギだもん。
その下に敷いてあるのもサラダと言うより牧草っぽい見た目だし。
おばあちゃんの家でイナゴの佃煮を食べさせられてなかったら、軽く悲鳴を上げられたかもしれない。
しかも、元の世界のコオロギと違って、サイズがデカい。
しかし、皆さんこのビックサイズのコオロギ…
パリパリといい音を響かせて美味しそうに食べてらっしゃる。
いや、まぁ…イナゴだって食べれるんだもんね?
いける…きっといけるよ。
…はくっ…
パリ、パリ、パリパリ…
お?…おお?!
これ、味は、エビだ!!
居酒屋とかで小ぶりのエビを殻ごと素揚げにして塩コショウを振ってある、あの味にかなり近い。
パリパリ感はこっちのコオロギの方が上なんだけど…
あ、これ、美味しいわ。
下の牧草みたいな野菜ともよく合う。
牧草の方は全く癖も無く柔らかくてほんのり甘いレタスみたいな食感。
日本人は基本好きな味だと思う。見た目はともかく…。
「ナガノちゃん、これも食べてみないっスか?」
「…アーモンド?」
「あらあら、アニンのお漬物は苦手な人も多いから…どうかしら~?無理はしなくても良いのよ?」
リーリスさんから勧められたのはピンク色に染まったアーモンドのような木の実。
ニオイは…ちょっと酸っぱそうな、発酵食品特有の香りが感じられる。
エリシエリさんの言葉に、恐る恐るかじってみると…
カリっと言う爽やかな歯ざわりと僅かな量でもしっかり口中に広がる酸味。
う~ん…酸っぱい。
そして、味の最後に「ほろ苦さ」と発酵食品特有の「臭み」がわずかに残る。
例えるなら…
梅干しの種の中に入っている仁みたいな感じに納豆のニオイを足したような?
確かに、好き嫌いは分かれそうな味だ。
でも、まぁ、カリカリ梅の一種だと思うと、食べれなくはない。
つーか、このご飯にはそこそこ合いそうだ。
この町の家庭料理…と言うか、エリシエリさんのお料理は全部美味しい!!
港町が近いだけあって、出汁とか味付けの塩分量とかが割と日本人的味覚に優しい。
全体的な味付けが、和風とイタリア風と珍味を足して割った感じ。
ありがたや、ありがたや。
この町…僕の生活拠点の一つとして良い候補ですよ!
「うん、大丈夫です。これ、カリカリして美味しいです。」
「おぉ~、やるっスね~。」
「ワタシはエリシエリ様の作ってくれるアニンのお漬物、好きデスよ。」
「エリシエリの作るヤツはかなり癖が無くて食べやすいからな?
市場で売ってるやつはもっと酸っぱくて臭くてえぐいぞ。」
「うふふ…でも、これ、お酒には合うのよね~。」
あれ?そういえば、お酒とかの飲み物系は出てないな?
いや、一応、ミントみたいな葉っぱを入れた普通のお水は最初から皆に配られてるけど…
「お酒は召し上がらないんですか?」
「うふふ、ウチでご飯を食べる場合、お酒の解禁は50歳になってからよ~。」
え!?
そうなの??
飲酒解禁年齢高いな!?
「まーたそう言って~、姐さん、酷いっスよ~、
オレがたくさん飲むからって言って飲ませてくれないんスもん…
こーやって、自前で持ってきたお酒をかけるしか…」
リーリスさんは、自分の料理に小瓶の中身を振りかける。
それ、透明なソースだと思ってたけど、中身お酒なの!?
しかも、自前!?
そんなもん料理にかけるって…それ、異世界版のアル中じゃ!?
「ダメよ、リーリスちゃんがお酒を飲んじゃったら、レイニーちゃんやナガノちゃんにも飲ませたがるでしょ~?」
そう言う理由!?
レイニーさんはともかく、僕にも…って、この世界って飲酒に対する法律は無いのかな?
「お酒って子供でも飲んで良いんですか?」
「子供のうちは止めた方がいいデスね。
呼吸困難や痙攣を引き起こしたら大変デスから。」
「それ本当にお酒ですか!?」
それ、間違って毒飲んだんじゃねぇのか!?
「まぁ、ミルクはちみつ酒をコップで…くらいなら良いんじゃねぇか?」
「確かに、アレなら甘くて子供向けっスよ。」
「そのミルクはちみつ酒で何回ウチのレイニーちゃんを
…ふいっ
一斉に顔を背ける男性陣。
「ま…まぁ…味自体は、甘くて飲みやすいんデスよね…あれ…」
あ、これ…
レイニーさんが飲み過ぎたのが原因でお酒を出さなくなったんじゃ?
「違うっスよ!姐さん!あれはレイニーの坊やが弱すぎるのが悪いんス!」
「違いマスよ!リー兄ちゃんがザル過ぎるのが悪いんデス!!」
「いや、でもお前、ミルクはちみつ酒3杯で潰れるって弱すぎるだろ?」
「あの…オズヌさん?それ、レイニーさんがいくつくらいの時の話なんです?」
「ナガノくらい…もうちょっと小さかったか?」
「ああ、そんなもんだったっスね。」
…悪い大人がここに居た。
10歳前後の子供に…アルコール度数何度か知らないけど、それでもコップ3杯もお酒を飲ませたら、そりゃ、具合悪くもなるよ!?
「でも、オレはそのくらいの年の頃から、はちみつ酒なら樽で開けても平気だったっスよ?」
リーリスさん、あんたエルフじゃなくてドワーフだろ?
「僕の元居た…日本って所では、お酒は20歳になるまで飲んではいけない、って法律がありましたよ。」
「まぁ、そうなの?」
「ええ、子供はアルコール…
つまり、お酒を分解することがまだ上手くできないので、飲ませちゃダメなんです。」
「うへ~…修道院みたいっスね。」
そんな他愛ない事や、オズヌさんと僕が出会ったいきさつ等を話ながら、料理に舌鼓を打ち、奇麗に完食。
ご馳走様でした。
そして話は、本日受けた隊長さんとエルヴァーン君からの新たな依頼の内容になった。
「アルストーア皇国自由騎士団の依頼っスか…
兄貴ぃ、また面倒くさそうなものを…」
「まぁ…レイニーの奴がやる気だったからな。」
「レイニーちゃん、どうしてそんな?
…体力だって無いのに…レイニーちゃんにまで危険が及ぶような依頼を…?」
エリシエリさんが、心配そうな瞳を向ける。
「…ごめんなさい、エリシエリ様…でも、報酬の中で
「…それは…」
「ワタシ、どうしてもエリシエリ様の【ロリスの花嫁】を消したいんデス…」
「もう…まだ4年もあるじゃない…。」
エリシエリさんが、困ったような、悲しいような、嬉しいような複雑な表情でつぶやく。
まぁ、あの状況下でレイニーさんがやる気になったって事はエリシエリさん絡みだろうな、とは何となく感じたけど…
「あの、【ロリスの花嫁】って何ですか?」
「ふふ…ナガノちゃんは、
曰く、ロリスとは邪神と呼ばれる神の一種で、主に、破壊と再生、死、混乱、混沌等「漠然と社会秩序を乱しそう」なものを司どる神なのだとか。
しかし、邪神の元は単に「宗教的覇権を取る多数派」に迫害された一派が祈りを捧げていた神の事であり、少数派の信徒は迫害されるにつれ、恨みつらみを抱え込み、社会秩序の礎となっている多数派に対する怒り・不満・社会から認められない自分たちの孤独を募らせ、とうとう自らの神を「大多数の一般人が支える世の中の秩序を乱す事、そのもの」を目的とする神へと変貌させてしまったのだとか。
……いじめって神様すら邪神に変貌させてしまう程の悲劇を引き起こすって事?
「それで、【ロリスの花嫁】って言うのはね…こんな能力なのよ。」
エリシエリさんは、胸元のポケットにしまい込んでいた小さなメモ帳のようなものから、小さく折りたたまれた用紙を見せてくれた。
かなり年季の入ったその紙には、丁寧な文字でこう記されいた。
『【破壊神(ロリス)の花嫁】(レア度:特殊)階位なし
この祝福を持つ者はロリスの力で生命が守護されている。
この祝福を持つ者が異性と結ばれると、その相手が邪神ロリスの依り代となる。
ただし、この祝福を持つと、異性と結ばれるまで昼間は若く美しい姿を維持することができる。
そして、本人が50歳になっても異性と結ばれない場合、本人を依り代として邪神が復活する。
孤独と疎外はロリスの力を強める、ロリスの復活する3日前には生命の守護は解除される。』
あれ?でも、レイニーさんとご夫婦って事は…
エリシエリさんは人妻なのに処女と言うレア属性持ちか…!
いや、まぁ、このスキルを知って寝取ろうと思う猛者は居ないだろうけど…
でも、本当に深刻なのはそこではない。
「エリシエリ…お前、今年、いくつだったか?」
「も~、女性に年齢を聞くのは失礼です~。ぷー。」
「姐さん、ここは一応、真面目な時間っスよ。」
「リーリスちゃんまで…46よ。」
そっか…あと余命4年、ってことか…
でも、待てよ…?
「あの、ちょっと良いですか?」
「何デスか?」
「もし、【回復魔法】でエリシエリさんを『若返らせた』場合、例えば身体が20歳になったとしますよ?その場合って余命は伸びるんですかね?」
「えっ?」
50歳までは猶予があるなら、とりあえずの対処療法にならないだろうか?
「どうなんだろうな?そもそも、若返るような【回復魔法】なんて伝説級だからなぁ…」
などと、瀕死から若返って生還した男が申しております。
でも、レイニーさんやリーリスさんを回復した時は別に若返ってはいないんだよな…?
まぁ、この二人は見た目が20代でこれ以上若返られたら子供になっていく事になるんだけどね。
どういう基準なんだろう…?
「…ちょっと、待ってくだサイ…今のワタシの眼なら【
ふわりと、レイニーさんのヒスイ色の瞳に力が灯る。
「おお!?だったら、早速試してみるっスよ!」
「良いですか?」
「え…ええ、構わないわよ?」
「では…エリシエリさんを20歳くらいの若さに戻す感じで治して!」
両腕から、光る七重の環が現れ、エリシエリさんの全身を包み込む。
「あらあら…まぁ…あったかくて、気持ちいいわねぇ~。」
ほわん、とした彼女の幸せそうな声が光の中から響いてくる。
それが収まると、昼間のエリシエリさんをさらに生き生きとさせたような美女がそこに座っていた。
はい、正真正銘、こちらもお肌プルンプルンですよ。
「…す、すごいっスね…」
リーリスさんが呆然と呟く。
しかし、じっとエリシエリさんを見つめていたレイニーさんが小さく首を横に振った。
「だめデス…残念ながら、肉体年齢と実年齢とは違うみたいデスね。
リミットまでのカウントに変化は無いみたいデス。」
ダメか。残念!
「あら?!でも、肩こりが無くなってるわ!!
それに、視力も…夜なのにこんな近くもすごく良く見えるわ!
ありがとう、ナガノちゃん!これだけ若返っちゃったなら、私だってその依頼を手伝えないかしら?」
しかし、今回は敵さんの能力的に、女性をパーティーに入れる事はかなり難しいらしい。
「…そうなの?残念だわ~…代わりに色んなお薬があるから、じゃんじゃん持って行ってね!」
「やっぱり…
「まぁ、これはダメ元だったんだ。気を落とすなよ。」
「そっスよ。アルストーア皇国の依頼を完遂すれば良いんスから。
…ところで、ナガノちゃん、さっきの魔法、オレの知り合いの子にもかけてあげて欲しいんスけど…
だめっスか?」
「へ?あ『若返り』ですか?
…別に、僕は大丈夫ですよ。
…大丈夫ですよね?薬学とか医学的に迷惑行為になっていないですよね?」
一応、他の方にも確認をする。
「そうねぇ…全ての病気や怪我なんかもナガノちゃんが一人で治療しちゃったら、医療ギルドから文句が出るかもしれないけど、一人、二人なら構わないんじゃないかしら?」
「回復魔法って簡単な物で1回で3000ゴンくらい…
そこそこの治療だと10万ゴンとか…
部位欠損の治癒なんて言ったら普通は2~3ハルクはするからな。」
なるほど、お高い…
「でも『若返り』なんて言ったら伝説級過ぎて…そもそも値段がついてないデスよ」
「だったら、今回の依頼報酬として、リーリスにも手伝って貰うから、それの報酬として、その知り合いの子、とやらを『若返らせて』やる、って言うのはどうだ?」
「おお!それはありがたいっスね!」
「あ、それで大丈夫なんですか?」
「そっスね。そんなに急いで…って程、切羽詰まってる訳じゃ無いっス。」
「そして、その『知り合いの子』と、観念してさっさと結婚しちまえ。」
「あ、兄貴ーっ?!もー、そう言うのじゃないっスよ~!」
あ、そーゆーご関係の方?
オズヌさん、知り合いの子、なんて白々しく言ってるけど、多分絶対、知ってる人だな、こりゃ。
「回復魔法はお金の問題より、使い手が少ない事の方が問題デスね。」
「あれ?【回復魔法】って結構使える人が居るんじゃ?」
「それは、階位が低い方はかなり多いデスけど…
古傷の治癒や欠損の再生とかになって来ると【鑑定】持ちとそれ程変わらないデスよ。」
おや?それは、町に一人、二人ってレベルって事か?
「そう言えば…ナガノ、お前『死者蘇生』も使えるはず、と言ってたよな?」
「「死者蘇生ッ!?」」
リーリスさんとエリシエリさんの声が重なる。
「あ、いや、試したことは無いんですけど…一応。はい。」
「えっ!?死者蘇生なんて…おとぎ話か神話っスよね?!」
「せっかくだから、今試してみるか?」
「あ、そうですね。」
「「「試す!?」」」
オズヌさんを除く三人の声が流石に怪訝そうにハモる。
「おい、勘違いするなよ?ガルダス達の遺体を一応持って帰って来てるんだよ。」
「あー…そういう意味っスか…よかった
…てっきり、オレ、一回死ななきゃいけないかと思ったっス…」
リーリスさんが冗談っぽく胸をなで下ろす。
「そうだとしても、驚く話よ…死者蘇生なんて…」
「ワタシも…スキルとして『見る』事は出来ていマスから…
確かに、ナガノ君はその
にわかには信じがたいデス…。」
「…レイニー、汚れても良い所は有るか?結構、損傷が激しいんだ。」
「えーと…?中庭の広場とかデスかね…?」
「そうね~、年老いたギィの解体は大体、皆そこでやっているわ…
でも、そこだと…ご近所さんから丸見えよ?」
「じゃぁ、裏手のワタシの研究室でどうデスか?ちょっと狭いデスけど…」
そんな訳で、食器を片付けた一行はレイニーさんの研究室へと足を向けた。
確かに、研究室は大人3人と子供1人だけだと、それ程狭くは感じないが、ここにモザイク三人衆が加わる、と思うとちょっと狭い。
部屋は奇麗に整頓されていて、奥の一角には、これから手を付ける予定の資料なのか…
本の山が平積みにされていた。
「…レイニーとエリシエリは…少し下がってろ…
ちょっと刺激が強いかもしれん。」
オズヌさんはそう言うと、例のモザイク三人衆を入れた防水袋を時空袋から取り出す。
それだけで、ちょっとした異臭が袋の口から漂い始める。
「…うっ…」
「まぁ…」
レイニーさんとエリシエリさんが口元を抑えてこみあげるモノを堪えているような声を上げた。
気持ちは分かるよ…。
と、言うか…食後にやるんじゃなかった…!
洞窟でも同じような反省した気がするんだけど…
忘れてたよ。迂闊っ!
ビニールシート代わりに防水の別の袋を床に敷いて、モザイク三人衆を取り出したんだけど、袋の中でいろいろなパーツが混ざり合っちゃって…
その…どれもこれも赤黒い血にまみれているし…
毛穴に血がたまってるから、赤い点々が全体的にヴワッと広がって血の気の引いた青い皮膚がさらにひどい事になっているし…
内臓とか脂肪?とか…
どれが誰の部位かの判別が…ががが…
おうっぷ…
ええい!!
これ、一人一人パーツを選り分けて…とか、やる気が萎える…!
もう、一気に回復魔法使っちゃえ!!
「い、いきます…あの、この人たちのお名前は…?」
「ああ、ガルダス、シーザール、ソディスだ。」
「えーと、ガルダスさん、シーザールさん、ソディスさんが蘇生したうえで後遺症なども無く完全回復できるように回復させて!」
そう、宣言し、腕に間に生まれた八重の光の環を大きく広げ、パーツが混ぜこぜでバラバラになってしまっているその猟奇的な塊を包み込む。
……ずわっ!
おふっ?!
流石に三人同時は何かしらの負荷がかかるのか、魔力を引っこ抜かれる…
と言うか、何か、上からズン、と来る疲労のようなものが圧し掛かってきた。
弾ける光の塊。
しばらくすると、
「…あ…うぁ…」
「……お…ごぉ……」
と光塊の中から、わずかに人の…男性の声が聞こえてくる。
「ま、さか…本当に……」
僕の後ろから聞こえた声はオズヌさんだろうか?
しかし、光の玉の中へ消えて行く魔力の流れ的に、二つは順調に回復しているものの、一つの塊からは、殆ど反応が無い。
…これは…あの、頭を半分に割られちゃった人かな?
「オズヌさん、あの、頭が割れてた人って誰です?」
「あ、あぁ、あいつはレンジャーのソディスだ。」
「ソディスさんが治るように、もっと強く!」
そう宣言した途端、九重の光の環が輝く光塊のさらに上に現れる、と、元の塊と合体して、さらなる光の洪水を生み出す。
そして、逆回転花火のような青い煌めきがソディスさんらしき人に染み込んでゆく。
お、おお…良い感じ、良い感じ。
暫くすると、三つの暖かな鼓動が安定する。
僕から流れて行っていた魔力が自然と停止し、ぐるん。
…あれ?
世界が回った…?
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