第4話 お尻の毛まで毟り取るのが常識です
「よし、だったら、町へ戻るか。」
「はい!行きましょう!」
僕の衣類…否、人としての尊厳を求めて!
「ところで、この財宝どうやって持って帰ります?」
「おい、あんまり勝手にいじるなよ?鑑定していないアイテムなんざ、どんな呪いや罠があるか知れないからな。」
「えっ?…さっき、あの宝箱の中にあった変な双頭蛇のケース…蓋を開けちゃいました…」
「ぬぁにぃッ!?」
シュバッ!!
振り向いた音じゃないような風切り音を響かせるオズヌさんに思わずビビる。
「な、何か変わった様子は無かったか!?」
「は、はい…特に…何も…中もカラッポでしたけど…?」
「はぁ〜…まったく、運のイイ奴だな…」
どうやら、オズヌさんの話によると、ダンジョンで最も危険なのは財宝と言う『餌』を目の前にぶら下げられた瞬間なのだそうだ。
まぁ、そうっスね。
…この人もなにげにココの財宝を見つけた時に裏切られて殺されかけてましたもんね。
「おい…ナガノ、何で生暖かい目で俺を見てるんだ?」
「…いえいえ。」
耳に残っているぜ。音だけのサスペンス劇場。
お宝を見つけたら、まず、『その周辺や部屋に罠が無いか』、『箱やそれらが入れてある入れ物に罠が無いか』、『触れる前に財宝そのものに呪いがかかっていないか』、『動かして問題ないか』…
最低でも、このあたりの項目はチェックする必要があるらしい。
ちなみに、今回の場合…僕が目覚めた時にはすでに箱が開けられていたこともあり、一つ目、二つ目の条件はまぁ、クリアしていた、と言えよう。
また、四つ目はすでに僕が箱の中身を漁って箱から一旦出して周りに広げているにも拘わらず、何も起きていないため、運良く罠などは無かったようだ。
…と、なると…残る心配は『呪い』である。
罠と違って、呪いの恐ろしさの真価は『遅効性と解除の難しさ』なのだとか。
特に何でも無い…と思って持って帰ったりする、もしくは使おうと思って装備したりすると、突如その牙を剥いてくる。
「でも、呪いなんてどうやって見分けるんですか?」
「本当はパーティ内に【鑑定】の
【鑑定】持ちはレアだからな。普通はコレを使う。」
そう言ってオズヌさんが取り出したのはキレイな青いコインのようなものだった。
オズヌさん曰く、これはアイテムに呪いなどがかかっているか調べるアイテムで、『触れただけ・持ち歩くだけでも呪いが降りかかる』ような危険アイテムを判別するのだそうだ。
「近づけたらコイツが赤くなるヤツは危険だからな?…だが…ふむ、ココら辺りのは問題無さそうだな。」
「ふぅ、良かったっス。」
いや、だって、この宝箱の中身はすでに僕が触れちゃってるからね。
これで、ダメだったら、僕自身がすでに呪われていることになってしまうではないか。
なお『装備すると危険かどうか』まではこのアイテムでは判別できないので、手に入れたお宝は一旦【鑑定】の《祝福》ギフト持ち…通称:鑑定人・鑑定屋に調べてもらうのが普通らしい。
あくまで、持ち歩くには問題ない、と言う確証を得るための魔道具コインなのだとか。
ちなみに、この【鑑定】と言う
王都とか首都とか魔導都市みたいな特殊な所でも7、8人もいれば御の字だそうだ。
そのため、町によっては、この
ちょっとしたサービスが受けられるところも少なくないのだとか。
オズヌさんは、僕が広げてしまったお宝類をキレイに箱に戻して、そして、箱ごと手持ちのカバンに…吸い込まれた!?
「えっ!?」
「どうした?」
「い、今、宝箱がにゅるって!にゅるって吸い込まれましたよ!?」
「あぁ、『時空袋』が珍しいのか?」
時空袋…それは、冒険者にとっての必須アイテムで…
ぶっちゃけると、耳なし猫型ロボットの腹に吸い付いている例のポケットの完全下位互換である。
複数種類(オズヌさんの袋は10種類×10個)が質量不要で持ち歩ける神アイテムなのだとか。
一応、このアイテムにも多少のデメリットは存在する。
例えば、1種類あたりで収納できるサイズには上限が有るとか、
液体を直接は入れられない(液体用はそれ専用の別の袋があるらしい)とか、
破れてしまうと壊れて使えなくなってしまうとか…
さらに、なんと!
コレを所持していると固定資産税のようなものが発生するのだとか。
まぁ、このサイズならば金額は大したことは無いらしいんだけど、容量によってはべらぼうな金額になるらしく、大容量の時空袋は大貴族や大商人しか維持することができないのだそうだ。
地球の感覚だと、車みたいなものかな?
税金とか荷物を運べる量の感覚だと。
まぁ、例えるなら…
裕福な一般人が持てるサイズ(5種類×5個)…軽乗用車
中堅冒険者が持てるサイズ(10種類×10個)…軽トラック
輸送専門の商人や一流冒険者が持てるサイズ(30種類×30個)…大型トラック
大貴族・大商人でないと維持できないサイズ(100種類×100個?)…貨物列車
…と、言ったトコロか。
ちなみに、この時空袋のちょっとした詰め込みテクニック。
この袋はあくまで「種類」に対して「個数」で時空が埋まっていくらしく、「箱」か「袋」に小さな物をまとめて入れれば、それで1個1種類、とカウントされる。
つまり、今回の財宝で言うと…多分100枚以上有ったであろう金貨を直接時空袋に入れると、それだけでオズヌさんの時空袋はいっぱいになってしまう。
しかし、先程のように宝箱ごと収納すると『宝箱』1種類が1個、と言う扱いになるので、他にもアイテムを入れることができるのだ。
もちろん、宝箱が大きすぎて『時空袋に入れられる最大サイズ』を超えてしまうとダメなので、その場合は『時空袋に収納可能な最大サイズの袋』の中に『同じサイズの袋を9個』事前に時空袋に入れておき、その袋を取り出して使うのだとか。
「…ここはこれでいいな。後は…」
オズヌさんは、例のコイン片手に実験道具っぽいものや研究結果や資料本だったと思える塊も片っ端から安全を確認し、袋に詰め込んでゆく。
「それも持ち帰るんですか?」
「ああ、こういう物は魔道士連中が欲しがるんだ。」
あ…椅子も…拷問器具みたいな大通具まで吸い込まれた…結構入るんだなぁ…
つーか、他人の家のツボを割り中身を持ち去る事で有名な某RPGの勇者でも、家具までは持って行かないけど…
冒険者…本当、容赦ないなぁ…
「おい、ナガノ!」
ぽい、っとオズヌさんがキャップのようなものが4つ付いた革袋を僕に投げ渡す。
「…?これは?」
「そいつは水物用の時空袋だ。
1番上は飲料水、2番めは酒、3番目と4番目は空だから、ナガノが入っていたあのケースの中の液体、入れとけ。」
「そんなものまで持って帰る気ですか!?」
うわぁ、しゃぶりつくしてケツの毛1本も残さねぇ気だ!
いっそ清々しいな!!
「当たり前だろ?むしろ、オジリナルのマリクル族を長期保存していた魔法液だぞ?何で持って帰らないんだ?」
…まぁ、あれか?
みかんのシロップ漬けはみかんも美味しいけど、シロップも美味い…
みたいなもんか?
あれをかき氷にかけると美味しい的な再利用方法でも確立してるのかな…。
僕が抜け出したのはちょうど円柱を壁に半分埋め込んだような形状になっている上半分が破れただけなので、一応、まだ液体は残っている。
ドラム缶で半分…いや、三分の一くらいか…
その大量の液体が500mlのペットボトルサイズの革袋へにゅるりと収まる。
異世界スゲー…!
18リットルのポリタンクだってかなりの重さになるのに、この袋だと、ドラム缶三分の一もの水量(元々の真水などを含めると、もっと重いはずなのに)を全く感じさせない。
あ、もちろん、このアクリルだか何だかわからない透明なケース部分も剥ぎ取って回収してましたよ。
「まぁ、こんなトコロか。よし、結構良い稼ぎになるぞ。」
「ところで、オズヌさん。」
「どうした?」
「あの、そこでお亡くなりになってるお三方ですけど、持ち帰りませんか?」
「……。」
あ、露骨に嫌そうな顔。
まぁ、そりゃ、殺されかけた被害者だもんね。
「…まぁ、普通パーティーメンバーが死んだりしたら、可能な限り遺体を持ち帰るのが常識っていうのは分かってんだけどよ。」
あ、そんな文化があるんだ。
まぁ、こんな便利な袋が普及してる世界だもんね。
本当の仲間だったら、連れ帰って弔ってやりたくなるよね。
「…コイツ等とは臨時で組んでただけだし…第一、裏切り者にそんな慈悲を与える理由が有るか?」
「いえ、違うんです。」
でも、僕がモザイク三人衆を連れ帰りたい理由はもっと外道なのです。
「あの、実は僕、回復魔法で『蘇生』ができる…はず、なんですけど…一度も試したことが無いんですよ。
…で、本当に元通り普通に生活できるようになる『蘇生』なのか、『生物として生存はしているものの、意思や記憶等のハッキリしない植物状態』として『蘇生』されるのか、ちょっと実験をしてみたくて…」
「…へぇ?」
オズヌさんも何やら半信半疑という様子で僕を見つめる。
「それに、本当に復活させたいような大切な人を『蘇生』をしてみた結果、『植物状態』じゃ悲しいじゃないですか?」
オズヌさんを回復した時点では彼は瀕死だったかもしれないけど、完全に死亡状態…ではなかったし…
その点、こちらのモザイク三人衆なら、明らかに死亡している。
そのうえ、ひどい話だけど…仮に失敗してもそこまで心は痛まない。
…いや、でも、植物状態になっちゃったら困るけど…でも、全く試さないで本番でいきなり蘇生を試す方がもっと怖い。
なお、ここでさっさと『蘇生』させないのは、仮に前者で、完全回復してしまった場合、僕たちが返り討ちに合わないとも限らないからだ。
しばらく目を閉じてじっと考え込んでいたオズヌさんだが、大きく息を吐くと了承の意をつぶやく。
「まぁ、袋にも余裕があるし…構わないぞ。ナガノが本当にそんなおとぎ話みたいな魔法を使えるって言うんなら、レイニーの所で試せばいいさ。」
「レイニーさん?お知り合いですか?」
「知り合いと言うか…まぁ…何だ?」
あ、こりゃ、もっと親しい関係だな。
「オズヌさんの奥様とかですか?」
「ぶっ…俺の?くくくっ…ナガノ…それを本人に言うなよ。」
…おっと、違うっぽいぞ。
「いや、まぁ…息子か弟みたいなもんだ。レイニーのヤツは【鑑定】の《祝福》も持ってるから、町に着いたら寄る事になるしな。」
ひとしきり笑った後、オズヌさんは眉間にしわを寄せた表情で、モザイク三人衆の遺体をちょっと特殊な、液体の垂れないようなグレーの袋に入れてゆく。
流石に、それをオズヌさん一人に任せるのは気が引けたので、僕も手伝った。…言い出したの僕だし。
ココロ ヲ 無ニ スルト ナントカ ナル モンダネ。
何度、胸の奥から酸っぱい何かが、お口の中へコンニチワしそうになったことか。
いや、本当に…人の身体って重たい。
それに、特に、この、独特の匂いには閉口する。
ええ、まぁ、ついさっきまで向こうの奥で飯食ってたから仕方ないです。
…つーか、我ながら、よくこんなご遺体の近くで(直視していないとは言え)飯食えたよな。
僕も気が動転してたのかな…?
何か、空気の流れが風上なのか、あっちの奥の方は匂いが全然気にならなかったんだよね。
モザイク三人衆を遺体袋に詰め込み、きつく縛って時空袋のお口の上にライド・オン。
その後、真水で手を洗ったんだけど、匂いが微妙に残ってる気がする。
「…オズヌさん、ちょっと感染症予防で回復魔法かけときます。」
「カンセンショ…?何だそれ?」
有無を言わさず、腕を振り上げると、例の光の環が四重の光を放って僕自身とオズヌさんを包み込む。
「…ふぅ、すっきり!」
「へぇ…すげぇな、死の匂いが落ちたぞ…」
二人揃って大きく深呼吸。
この魔法、元の世界のテレビCMで空気を丸洗いしていた『リセット・消臭ぢからッシュ』とでも名付けようかな。
たった1回のご使用で、ご自宅の下駄箱もご遺体の転がっていた洞窟も軽井沢のおしゃれカフェの空気に!
「モフキウイ族は人型でも、普通の人間より嗅覚が鋭いから、これは助かるな…」
オズヌさんも気に入ってくれた模様。
そして、僕たちはようやくその洞窟の部屋を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます