第19話 春の終わり

4月半ばのある日のこと。

仕事から帰って玄関前に着くと、なにやらビニール袋に入った大きめの物体がドアの横にありました。

賃貸なので、

(お隣さんが通販で何か買ったのかなー、それにしても外に置きっ放し?)

と思いつつ、暗い中顔を近づけて見てみると、「培養土」と書いてあるのが読み取れました。

私は、花やらゴーヤやらをよく育てていますが、お隣さんは園芸の趣味がある様子は全くないので、変だなーと思いつつも、とりあえず部屋に入りました。


それから、夕食の支度をして、さあ食べようかというところへ、電話がかかってきました。

同じ建物に住んでいる大家さんです。


「今家にいる?土見た?」

「います。ありましたね、なんか、培養土って……」

「あの土とね、ゴーヤの苗ふたつ、よかったらもらって。まだねぇ、あれだけど、こんなときだから早めにと思ってね、買ってきたの。」


んん?


ちょっと想定外の情報が多くて、混乱してしまいました。


あの土って私のものだったんだ?

ゴーヤの苗もあったの?

私が毎年ゴーヤを育てていることは、外から見ればわかるので知っているとして、なぜ急にくれます?

あと、後半がよくわかりません……


「あら、いらない?」

「いえいえ、いただきます!ありがとうございます。」


ということで、電話を切ってから、改めて玄関に出てみると、培養土の陰にゴーヤの苗が2つありました。

明るいところでよく見ると、葉数が少なく、まだ植え付けには少し早いかなー、といった感じです。

ひとまず土は玄関内に入れて、苗は鉢受け皿に乗せてベランダに出しました。


電話の情報がざっくりしていたので、とっさには事情がよくわかりませんでしたが、その後じっくり考えてみました。

急にゴーヤの苗をくれたのは、部屋の契約を更新したからのようです。

いつも、更新の後にお菓子などをいただいていたので、その一環かと思います。

また、植え付けにはまだ早い時期になったのは、おそらく新型コロナウィルスの影響を考慮してのことでしょう。

この頃、ホームセンターに休業要請が出るかも?いや出ないかも?といった状況だったので、先々手に入らなくなるかもしれない、と考えたのかもしれません。


いつもは5月になってからゴーヤの支度を始めるのですが、こうして考えてみると、今年はそれでは遅かったのだろうなあ、と思います。

思った以上にありがたい頂き物だったようです。

先日、だいぶ気候が暖かくなったので、2株をそれぞれプランターに植え付けました。

まだちょっと弱々しいですが、ポットから出て、プランターの土に根を広げたら元気になってくれると期待しています。

今年も、黄色い花があまーい香りを振りまいてくれると良いですね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る