第18話 ベランダブッフェ その2

ベランダのランチブッフェのもう一つのメニューのお米は、稲ではなく、精米した生米です。

植木鉢の受け皿に、お米を浅く広げてベランダに置いています。

人間が食べるお米をわざわざ……ということではなく、これは「やらかしたお米」なのです。


「やらかしたお米」の起こりは十数年も前、まだ自立して間もない頃のことです。

当時、自分がどれくらいの量のお米を食べるのかよくわかっておらず、ちゃんと計算してみようともせずに、うっかりとお米の定期購入を申し込んでしまったのでした。

月に1回、5kgのお米が6ヶ月に渡り届くのですが、これが全く減らないのです。

なかなか消費できずにいるうちに、1年経って古米になり、2年経って古々米になり……

味が落ちてしまったので、新米に混ぜて使うようにすると、さらに消費速度が落ちて古々々米になり……


「古」が6個つくくらいになって、ようやく残り一袋になりましたが、さすがに、これ以上食べて消費するのは無理だと思いました。

それでも5kgのお米を、そのまま捨ててしまうのはもったいない……


(もしかして、スズメが食べたりするかしら……?)


試してみるのはタダなので、野鳥の食べ物が少ないであろう冬場に、ベランダにお米を置いてみました。


数日間は、お皿に置いたお米の様子には変化がありませんでした。

人家の間近なわけですし、警戒されているのかなー、とか、ベランダの一角にポツンと置いてるだけのものは見つけられないかしら、とか考えていましたが、ある時に見てみると、いつのまにかお米が減っていました。

姿を見かけないので、何者なのかは定かでありませんが、どうやら食べてくれているようです。

チュンチュン騒いでいる声は聞こえたので、たぶんスズメだったのでしょう。

そうして、「古」がたくさんついたお米は、冬2回分くらいの期間をかけて、誰かのお腹に収まりました。


それ以来、うっかり床にぶちまけてしまったり、虫が湧いてしまったりしたお米をとっておいて、冬場の野鳥の餌にするようになりました。

といっても、何かの失敗をしないと「やらかし米」は発生しないので、ここ数年は冬場の餌やりがないことが多かったのですが、この度は盛大にやらかしました。

夏場、買い置きの2kgのお米をいざ開封してみると、なんだか色が灰色に……

買ってから数ヶ月しか経っていないのに……猛暑って怖いですね……

派手にカビているというわけではないのですが、変色しているので、一応人間が食べるのはやめておこう……ということで、このたび野鳥の餌になりました。


例によって、数日間はなんの変化もありませんでしたが、ある朝のこと、


ピルルルル

ピルピルピル


まだベッドの中で、夢うつつな状態でいるところに、小鳥の鳴き声が聞こえてきました。


(あれっ、スズメじゃないなー……お米を食べにきたのかな?)


寝ぼけた頭でぼんやり考えていましたが、ちゃんと起床してから、ベランダのお米を見に行くと、しっかり食べた跡がありました。


(あの鳴き声、聞いたことがあるような……スズメじゃないし、何かなー)

セキレイっぽい?と思って、Googleで検索して鳴き声を聞いてみましたが、同じような違うような……?

何だろうなー、と気になりつつも、お米を食べている何者かの姿は見られないまま数日後、出勤のために玄関を出たあたりで、


ピルルル


(あっ、あの声……)


覚えのある鳴き声が聞こえたので、辺りを見回してみました。

すると、お向かいのお宅の庭木の葉の中に、ちょこちょこ動き回る黄緑色の小鳥が一羽見えました。


(わー、メジロだ!お米を食べにきているのは、メジロ?)


メジロは、花の蜜などを食べているイメージがあったので、お米なんて食べるのかしら?と、不思議でしたが、その後、それらしき現場に遭遇することができました。


日中にベランダの窓を開けて、ヒヨドリがギャアーと喚いて飛び去るのに出くわしてびっくりする、という恒例のイベントが終わった後、まだ何者かの気配が残っていることに気づきました。

そっと、気配がする方に振り向いてみると、メジロが一羽、ベランダの柵にとまっていました。

メジロは、お米のお皿のフチにぴょこっと飛び移ると、一瞬、考え込むように動きが止まり、くるっと向きを変えてフチにとまりなおして、静かに飛び去って行きました。

たぶん、途中で

(何かヤバそう)

と気づいたのだと思いますが、大騒ぎしながら逃げていくヒヨドリと違って、淡々としていた様子が、なんだか面白かったです。


それから、どうやらスズメたちもお米に気づいたらしく、朝方はチュンチュンピルピルと小鳥たちが騒いでいます。

何をそんなに語り合っているのだろうと思いますが、食べ物があるよ!と誰かに伝えたいのか、単に、食べ物がいっぱいあって嬉しいよー!と喜びを表現しているだけなのか……

ベランダの窓を開けると、いっせいに逃げていくので、食べているところは見られませんが、着実にお米が減っていくので、数日おきに足しています。


今回は、失敗からお米を餌にすることになりましたが、都会のスズメは数が減ってきているということでもありますし、何だか嬉しげな小鳥たちの様子を感じていると、次の冬も何か用意してあげようかしら……と思っています。

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