第16話 知られざる掟
通勤には電車を利用しています。
いつも同じ時間、同じ車両に乗っていると、他人ながらも見知った顔ばかりになりますが、たまに、普段見かけないような人が乗り込んできます。
先日の出勤時には、就学前くらいの男の子と、お母さんが乗り込んできました。
と言っても、車内は人で一杯なので姿は見えず、声だけが聞こえます。
男の子は、たくさんの大人がぎっしり詰まったところに入り込んでいかなければならない状況に、入り口からちょっとビックリしているようです。
それに対して、もっと奥に行って、とか、ちゃんとつかまってー、とか、お母さんが促しているのが聞こえます。
男の子の話し声は、はっきり聞こえませんでしたが、お母さんとのやりとりがいくつかあった後に発した一言が耳に届いてきました。
「……何人乗りなの?」
(たしかにね!)
電車の一両は何人乗りなんでしょうね?
乗車率なんてものはありますが、重さの限界とかあるんでしょうか。
おそらく、その男の子は、車に乗るときや、遊園地の遊具に乗るときなどに、◯人乗りという言葉を覚えるとともに、乗り物には積載量の上限があるいう概念を知ったのでしょう。
そしてそこへ、覚えた概念を覆す新たな概念の登場……といったところでしょうか?
混雑が嫌だとか、そう言った雰囲気ではなく、ただただ不思議 、というような声の感じでした。
誰かが何かを発見する瞬間というものがなんとなく好きなので、ほんの数年前に生まれて、常にラーニングを行なっている小さい子供たちは、楽しませてくれることが多いです。
果たして少年は、どのような答えにたどり着いたのでしょうか。
お母さんは、
「それはわからないけど、いつもこんな感じだよー」
と答えていたので、それで納得したかもしれません。
わからないし、いつもこんな感じ……これもまた真理だなーと思いました。
いずれにしても、なんでどうしての精神は、それだけで価値があると思うので、ぜひとも疑問と発見を繰り返す面白い人になってほしいわ……と、はたから思ったのでした。
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