第15話 目覚めし脊椎反射
夜の時間帯に電車に乗っていると、座席に座っている人のなかに、本格的に寝入っている人を見かけることがあります。
グラグラ揺れている人は、まだまだ睡魔と戦っているようですが、すでに負けてしまっている人は、たいていほとんど動きません。
そして、その手元には、今にもどこかに転げていきそうなスマホがあることもしばしば……
以前には、30代くらいの女性がすっかり寝入っているのを見かけました。
3人並んで座れるベンチタイプの座席の真ん中で、顔を上に向けて、背後の窓枠に頭を預け、口は開いてしまっています。
膝上にある荷物に、手のひらを上に向けて置いていて、そこにはスマホが……
もはや力なく開いてしまっている手のひらに、ただ乗っかっているだけの状態で、半分はみ出しています。
私は、その女性の前に立っていたので、なんとなくその様子が目に入りました。
(このままだと落っこちそう……気にはなるけど、寝ている人をわざわざ起こすのもどうかと……落ちちゃったら拾ってあげればいいかしら……?でもねー、落ちたら衝撃で壊れないかしら……)
心配しつつ見守っている間にも、ふとしたときに少しずつ少しずつ、手元のスマホが外側に向かって傾いていきます。
寝ている女性の隣に座っている中年男性も、不安定なスマホにちらりと目をやっています。
ですよねー、気になりますよねー、私も気になります……ということで。
つり革につかまったまま少し膝を曲げると、傾いているスマホのはしっこに手を当てて、女性の手元の方にそっと押しやりました。
せめて、ずり落ちない程度に安定すればいいかな、と思ったのです。
すると……
女性の手が、ぎゅっとスマホをつかんだのです。
はっと目覚めるわけでもなく、ビクッと身動きするわけでもなく、体も腕もピクリともせず、手首から先だけが独立した生き物であるかのように……
(すごい!おもしろい……)
「ああ、スマホ落とさないようにしなきゃ……」と思った風でもなく、ただただ手のひらへの刺激に反応して手が動くという、人体の不思議を見た気がして、ちょっと感動してしまいました。
そして、その女性も、隣の男性も、私も、何事もなかったように、そのまま電車に揺られて行きました。
おそらく周りの誰もが気にしていたことが、最初から最後まで無言のまま静かに解決した、なんともシュールな出来事でした。
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