第13話 まばたき注意!
むかーしむかし。
仕事場のすぐ近くのコンビニに行って、お昼を買って戻る途中のことでした。
コンビニは道路に面していて、車道を右側に見ながら歩道を歩いていると、向こう側の車線の真ん中に、ポツンと何かがあるのが見えました。
遠くてはっきりわかりませんでしたが、時期と大きさから考えて、スズメのヒナと思われました。
(巣立ちに失敗して轢かれちゃったのかな。かわいそうに……)
まだ形が残ってるなー、なんて思いながら、なんとなく視界にとらえたまま歩いていると……
パチクリ。
(……まばたき⁉︎)
地面にポトリと落ちているちっちゃな生き物のちっちゃな目の動きが、はっきりと見えました。
その瞬間に、命の終わった死骸として見ていたものが、現在進行形の危機へと切り替わりました。
車道には車が往来しています。
急に車道に飛び出して私が轢かれるわけにはいかないので、周囲の状況を確認しながらできるだけ急ぎます。
右からくる車に対して、片手を上げて道路を渡る意思を示しながら足を踏み出し、車が減速するのを横目で見つつ、左からくる車に対しても軽く会釈しながら、スズメのもとへ……
そうしている短い時間のなかでも、頭の中では色々な考えが巡っていました。
こうしている間にも、轢かれちゃったらどうしよう……
行ってみたら半分くらい潰れてたりして……それでも拾う?
轢かれなくても、止まってくれる車の車体がスズメの上に被っちゃったらどうすれば……
事情を話してどいてもらうにしても、バックだと後続の車にぶつかるし……前に動いてもらうにしても、後ろの車に説明しないと続けて発進されるだろうし……
思考を回転させながら、いざたどり着いてみると、幸い、車はスズメの手前で停止してくれました。
ぱっと見では、スズメには特に異常がないようです。
立ち止まることもなく、急ぎ足のままかっさらうように拾いあげ、そのまま歩道まで移動して、止まってくれた車におじぎをしました。
改めて手の中の生き物をよく見ると、やはりスズメです。
血は出ていませんし、変に曲がったところもなく、怪我はしていないように見えます。
人間に捕まったのに、逃げもせず暴れもしないところを見ると、体が硬直してしまっているように思われます。
外見からわからないだけで、どこか悪いのかもしれませんが、目はぱっちり開いていて元気そうにも見えます。
その辺に置いていくと、中途半端に動けるようになって、また車道に出てしまうのが心配だったので、とりあえず仕事場に持ち込むことにしました。
ひとしきり、スタッフみんなで「かわいいねー」と愛でた後、小物を入れていた箱の中身を出して、ティッシュをひいてスズメを入れました。
このあとどうするかは考えていませんでしたが、まだ仕事中だったので、なにか思いつくまで、とりあえず置いておこうということです。
昼食を食べて、仕事を再開して少したった頃、突然
ばさささっ!
「わあっ、飛んだ!」
いきなり動けるようになったスズメが、部屋の中を飛び回りました。
あわてて捕まえようとしましたが、狭くて荷物が多い部屋なうえ、スズメが小さくてすばしっこいので捕まえられません。
「廊下に出た!」
「窓開けて、窓!」
ばさばさと飛び回って、捕まえるのは難しそうだったので、窓を開けてそちらに追いやりました。
パタタ……と、うまいことスズメが窓から外へ飛び去っていくと、無事に送り出してやれたことに、スタッフみんながホッとしたのでした。
それにしても、道路の上のスズメのまばたきがよく見えたものだなあ、と我ながら驚きでした。視力1.5のたまものでしょうか。
野生の生き物ですから、色々な要因で死んでしまうこともあるでしょう。
それでも、目の前で起きている危機からは救わずにはいられないものですね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます