第7話 ビジター
主にベランダで園芸をしているのですが、何年も前の冬のある日、不思議なことがありました。
もう花が終わったガーデンシクラメンの鉢をベランダに置いていました。
普通は花が終わったら捨てるのだと思いますが、工夫すれば翌年も花を咲かせられるという情報を得て、挑戦中だったのです。
ベランダに出て、水をやろうと思ってシクラメンの鉢を見ると、葉陰になにやら覚えのないものがありました。
サイズは2〜3センチ四方、小麦色で網目状になっているスナック菓子……
(みたことある〜なんだっけ……サッポロポテト?)
しばらく食べていないお菓子だったので、思い出すのに時間がかかりましたが、気にすべきなのは本来そちらではありません。
なぜそこにサッポロポテトがあるのか、ということです。
ベランダは2階にあり、向かい側には別のアパートの外廊下がありますが、手を伸ばしても届く距離ではありません。
何か道具を使えばお菓子を置くことはできるでしょうが、そんな奇行をする人はそれまでいませんでした。
人間の仕業だとしたら、意味不明で怖すぎます……が、意味不明すぎたので、逆に人間ではないと思いました。
実はその前から、シクラメンの葉っぱが、何者かにかじられていることがあったのです。
虫だと、端から綺麗にまあるくかじりとりますが、シクラメンの葉っぱは雑に引きちぎったような形になっていました。
(犯人は……鳥!)
そうは思いつつも種類まではわからず、なんとなく
(カラスかな……カラスがシクラメンを食べるかしら?)
と、不思議に思っていました。
翌年の冬、今度は、初めて挑戦したブロッコリーの葉っぱがかじられていました。
なぜか花蕾の部分は無傷です。
葉っぱだけならいいでしょう、と、一応花蕾部分を不織布でおおって、まだ見ぬ何者かに分け前を許しました。
花蕾は人間、葉っぱは鳥、と分け合うようになってから数日後、用があってベランダに出ると何かの気配がしました。
はっとした瞬間、数十センチ横で、
バサバサァッ!
「うわあっ」
急に暴れるものがあったので、びっくりしてしまいました。
こちらも声が出てしまいましたが、ちらっと見えた相手も、相当慌てていた様子です。
30センチくらいの細身の体、灰色でほっぺが赤い。
ヒヨドリです。
ヒヨドリは木の実を食べるイメージがありましたが、野菜の葉っぱも食べるんですね。
畑にあるような野菜を地上に降りてまでは食べないのかもしれませんが、2階の高さだと安心できるのかもしれません。
その後も、息を潜めて静かにベランダの窓を開けると、ブロッコリーの近くの木の枝からこちらをじっと見ているヒヨドリに出会うことがありました。
とはいえ懐くわけでもないので、しばらく見つめあった後、こちらがそっと窓を閉めて部屋に戻るという感じでした。
それから数年の間、ブロッコリーを作ると葉っぱを食べにやってきていましたが、植え付け時期がゴーヤの終わり頃とかぶるので作るのをやめると、見かけなくなりました。
また遊びに来ないかなーと思い、ブロッコリー作りを検討してはいるのですが、鳥ゆえに、食べるとその場で出ちゃうフンが悩ましいところです。
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