第4話 命の水
※虫が苦手なひとはご注意!
住まいに隙間が多いもので、室内に小さい虫が入り込んでくることがあります。
たいてい、羽虫や甲虫、それを狙う蜘蛛などですが、ある夏の日、めずらしく小さい蟻が一匹、居間をうろついていました。
いつも、ゴーヤの花の蜜を吸いに来る1ミリくらいの小さい蟻です。
蟻が欲しがるようなものは何もないはずなのに、列も作らず単独行動でどうしたんだろうと思いつつ、つまんで外に出してやりました。
それから数日後、台所に行くと窓枠近くに、かの蟻が行列を作っているのを発見しました。
と言っても、砂糖や食べ物にたかっているのではありません。
紙コップに花をさしていたのですが、その水を飲みに来たらしいのです。
紙コップまでは律儀に一列に並んで、コップのフチにはずらっと横並びになっています。
先日の蟻は、この列からはぐれてしまったのか、それとも偵察隊だったのでしょうか。
蟻といえば、外で見かける時は、虫の死骸やお菓子にたかっていることが多いので、ただの水を飲みに来るなんてちょっと意外でした。
でも、考えてみたら、虫だって生き物なのだから、水も飲みますよね。
テレビでは、蝶が水を飲む姿を見かけることがありますが、きっと、ほかの虫たちも、目に入らないところで水を飲んでいるのでしょう。
それに、災害級の暑さが続いていたので、外では水場が干上がっていたのかもしれません。
こっちに水があるぞ!とわかるのもすごいなー、と思って、ちょっと感動しました。
食べ物を荒らされたりするわけではないので、夏の間だけでも水場を提供しようかな……と、一時は考えましたが、やはり生活空間への侵入はお断りすることにしました。
窓枠付近にいるだけならいいですが、うっかりほかのところにまで行動範囲を広げられたら、本格的な戦争に発展してしまいます。
しかも、一方的な虐殺にしかならないのは目に見えていますし……
結局、蟻たちがいない隙を狙って、侵入口と思われる隙間を、木工ボンドで埋めました。
以来、室内では彼らに出会っていません。
夏、ゴーヤの花が咲くと、その中から顔をのぞかせる蟻たちを見かけます。
室内の水場は出入り禁止にしましたが、花の蜜と、外の水場で喉を潤していてくれているといいなあ、と思います。
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