第3話 電車でセッション

あるとき、わりとすいた電車に乗っていました。

座席に座ってなんとなく目をつぶっていると、赤ちゃんの声が聞こえてきました。

「あー、あー、あー」

一定の調子で、ずーっと声を上げています。

泣いているというよりは、一緒にいるひとに、一生懸命話しかけている感じです。


おかあさんと一緒にいるのかなぁ、なんて、ふたりがお互いの顔を見つめて向かい合う様子を想像して、ほっこりしながら声を聞いていました。


「あー、あー」

(お話してるのかなー、かわいいなー)

「あー、あー、ぱ。」

(ぱ?)

「あー、ぱ、ぱ、ぱ、ぱぱぱ」

(⁉︎)


ぱ、って、赤ちゃんにはできない発音だと思ったので意表を突かれました。

ちょっと目を開けてみましたが、視界の範囲には赤ちゃんの姿は見えなくて、どういうことなのか想像を巡らせてみました。


ずーっと赤ちゃんがお話ししているので、一緒にいる大人のひとは、ちょっとやめさせようと思ったのでは。

すいているとはいえ電車の中であり、赤ちゃんの声を嫌がる人もいるでしょうから。

そこで、赤ちゃんの口をちょっと塞いでみたら……

「ぱ」

離してみると……

「あー」

お話をやめる気配はなく、もう一度塞いでみたら……

「ぱ」


そこで、大人のひとの方が面白くなってしまい、連続で

「ぱぱぱ」

赤ちゃんも面白くなって、続けて声を出して

「ぱぱぱ」


言語によらない意思疎通による、ふたりの共同作業の成立……だったりして。

そうだったら、とってもカワイイ!と、勝手にキュンとしたのでした。

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