第2話 世界が変わった日

あれは、2才くらいのころでした。

思いもよらないできごとに、まるで、世界がひっくり返ったような気持ちになった、一番古い記憶です。


うんてい、って、わかるでしょうか。

公園などにある遊具です。

猿が木の枝にぶらさがって、ひょいひょいと枝渡りをするような動きをして遊ぶものです。


あるとき、うんていで遊ぼうとして足場にまで上がりました。

ふつうは、そこから頭上の棒をつかんで、勢いをつけて前方の次の棒へと進みます。

ところが、そこで愕然としました。ぶらさがる部分の棒に手が届きません。

もちろん、私が小さすぎるからです。

枝渡り以前の問題でした。


では、どうすれば?

それはもう、きっと……「大きくなる」しかない。


そう考えついてみたものの、「大きくなる」ということが、自分の力の及ばないとほうもないことであることは、なんとなくわかりました。

この遊具で遊べないということよりも、自分の無力さにショックを受けました。


ところがそのあと、思っていたよりも早く、うんていの棒を自分でつかめる日が来るのです。

「大きくなる」のを待つこともなく。

そこは、積雪が数メートルを越えることもある豪雪地帯だったのです。


雪が降ったあとの冬のある日、うんていのあるところに遊びに行くと、なんと、うんていが雪に埋まっています。

棒にぶらさがるどころか、腰の位置にあるほどです。

あんなにも、名実ともに手の届かない存在だったはずのものが、想像していたのとは違う形で近くに来ました。

いつもは見上げていたものが、まったく違う景色となって目の前にある不思議。

生まれて数年の人間にとっては、奇跡のようなできごとでした。

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