第16話「流れ」3

「じゃああなたはこんなツマラナイ事をずっとするの?」


”あたち”の顔は不満な様子を隠さないように眉間にしわを微かに寄せている。


つまらないって、そんな事考えもしなかった。


「いや、別にそんなつもりはないよ」


「じゃあどうしてこんな事ずっとしてるのよ」


”あたち”の語気が強くなる。


 それは俺だって知りたい。気が付いたらこんな所にいて、どうしていいのか分からずにこうやって流れているんだ。


どこかに行こうにも、それが正しい道かも分からないし、それにこのボートを失ってしまったらそれこそ俺にはどうすることも出来ないと感じている。


 俺は少しづつ”あたち”に対して怒りの様な感情を覚えた。


 俺だってこんな、こんな状況に居続けるのはごめんだ。


「あのな」


 俺は喉と心臓の間が怒りの様な不快感を押さえながら言葉を発した。


「俺だって、俺だってな、ずっとこんな事をしていたい訳じゃないよ」


 押さえているはずの感情が少し言葉に乗っかってしまっている。


「でもしょうがないじゃないか、こうやって進んで行くしか方法が見つからないんだよ。それに、下手にどこかに行ってこのボートが無くなってしまったらそれこそお手上げじゃないか。俺にだって考えてることはあるんだよ」


 ”あたち”は上目遣いで俺をにらみながら話を聞いている。


 ”あたち”の顔が少しづつ赤らんでいく様子が見て取れた。


 ”あたち”はしばらくそうして俺と睨み合いをしていたかと思うと、急に感情が爆発したかの様に動き始めた。


「いーーーやーーーだーーーー!」


 手を振り乱し、地団駄を踏んでボートを大きく揺らした。


「いーーやーだーよーーー!!どうしてこんなツマラナイ所にいなくちゃいけないの!どうして何処にも行かないの!お腹もへったし、こんな狭いところじゃ遊べないし、お腹へったし、もうイヤだよーーーー!」


 ”あたち”は桜柄の着物と額の上で結んだ前髪を大きく揺らしながら叫び続けている。


「しょうがないだろ!」


 俺は思わず感情のままにこの小さな子供に対して言葉を投げつけてしまった。


 俺の言葉に反応して”あたち”はピタリと動きを止め、うつむいて俺の言葉を聞いている。


「どこに行く当てなんかあるんだよ。こんな何もないところで。デタラメに動いたって何かがある保証なんかないし、それに迷ってもう戻ってこられなくなったらどうするんだ。このまま進んで行ってあの先に見える「光」にむかうしかないんだよ」


”あたち”はその言葉を聞き終わった後もうつむき続けた。


この何もない「白い世界」の中に映える”あたち”が着ている着物の桜が俺の心を締め付け、俺の中には罪悪感と無力感で満たされようとしてしまっていた。

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