第15話「流れ」2
”あたち”の攻撃をもろに食らった俺は喉を押さえながらその場に崩れ落ちた。
俺の喉と顎骨の間にめり込んだ”あたち”の拳は、俺の顎から脳へと伝わり俺の意識をかき乱し、喉のリンパと筋肉の間を突き刺した。
俺は喉が千切れるか、眼球が飛び出るかと思った。
”あたち”はそんな状態の俺の前に立ち、俺の頭をリズミカルにまるでタンバリンでも鳴らすかのように、俺の頭を叩き出した。
「ひーまっ、ひーまっ、ひーまっだよーー」
俺の頭をたたくリズムに合わせて”あたち”は歌うように繰り返している。
俺は喉を押さえながら”あたち”の前に手を出して「止めて」という意思表示をした。
”あたち”はそんな俺の手をかわしながら、俺の頭をリズミカルに叩きながら
「ひーまっ、ひーまっ、ひーまっだよーーー」
と繰り返す。
俺は喉の痛みと、脳の揺れが収まるのを待って、身を起こし、”あたち”の手を軽く受け止めて、ようやく”あたち”からの攻撃を止める事が出来た。
「暇って言ったってしょうがないじゃないか。まだ何処にもたどり着いてないし、何も起こってないじゃないか」
俺は駄々をこねる”あたち”に反論する。
”あたち”は「イーやーだーー」と言いながらボートの先端に行き飛び跳ね続けた。
「ひーまだーよー、お腹もすいたよー、つまんないよー、飽きたよー」
”あたち”はそう言いながら飛び続ける。
”あたち”のジャンプによってボートはシーソーの様に前後に揺れる。
「わかった、わかったから、一回止まってくれ」
俺が何度目かに言った後、”あたち”は口をへの字に曲げ、さっきまで興味深そうにいじっていた鏡を脇に放り投げ、むすっとした表情で俺を見つめている。
「暇って言われてもな。。」
何処にも行く当てはない。
たしかにもうかれこれ何時間このまま流れていたのかよくわからない。
もうしばらく何も食べていないのに”あたち”に言われて初めて食べ物の事を考えた。
やっぱりここは死後の世界なのか。
”あたち”は不機嫌な表情で俺を見たまま右手を水平に伸ばし、人差し指を指して言う。
「じゃああっち」
”あたち”は適当な方向を指さしている。
”あたち”が指さした方角には他と変わらない水草が生い茂っているだけだ。
「あっちって言ったって、何もないじゃないか」
俺は”あたち”が指さした方向を確認した後そう言い返す。
「じゃあこっち」
今度は左手を水平に伸ばし、人差し指で方向を示す。
もちろん、その先にも水草が生い茂っているだけだ。
「だから何もないって」
俺は半ば呆れながら”あたち”に返す。
「じゃああなたはずっとこんなツマラナイ事をするの?」
”あたち”の顔は不満な様子を隠さないように眉間にしわを微かに寄せている。
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