第13話「あたち」10
「さぁ、答えのない答えは見つかりましたかぁ?」
”あたち”は一両手を広げて桜柄の着物と額の上で一つに結んだ前髪を揺らしながら俺に問いかける。
その表情は年相応の無邪気な子供のそれに戻っていた。
俺はその姿を見て、”あたち”に投げられた鏡を”あたち”に返した。
「あぁ、わかったよ」
そう答えると、俺は”あたち”の後ろに見えている分岐をまっすぐに見た。
帆先は分岐の左に向いている。
俺はボートの先端に寄り、分岐の中央に生えている水草をつかんでそれを反動にしてボートを進ませた。
「とりあえず、行ってみよう」
そうしてゆっくりと動き出したボートの揺れを楽しむように”あたち”はまたキャッキャと笑いながら、桜柄の着物と触角の様な前髪を揺らしながら頭上に鏡を突き上げてその場でクルクルと回っている。
ボートが進むと微かに風が俺の体を撫でていった。
そうだ。
答えなんてないんだ。
とにかく、目指すモノを見失わないようにしながら、進むしかない。
俺の中で渦巻いてい居た不安な気持ちは、ボートが進むにつれて大きくなり、やがて俺の中で弾けるように拡散して、俺の後ろの方へ流れていくのを感じた。
そうだ、こんな感情は置いて行ってしまえ。
俺には進むしか道が無いんだ。
何度か水草を掴んで反動をつけ、ボートを進めていると、やがて水路は緩やかな下りになり、反動を付けなくても勝手に前に進むようになった。
この世界は相変わらず、白い闇に包まれていて、はるか遠くに見える光と、左右に生えている水草と、水路となっている水の流れが見えるくらいだ。
一つだけ変わった事と言えば、ボートの帆先に左足をかけ、目の上に手をかざしながら遠くを見つめている”あたち”が乗ってきた事だ。
”あたち”は「おぉー」と、感嘆の声を出したり、時折ボートから身を乗り出して水を手ではねて遊んでいる。
しばらくそうして流れに身をゆだねていると、”あたち”がくるっと俺の方に体を向けた。
「それで、これからどこ行くの?」
”あたち”はまるで遠足に行く前の子供の様な無邪気な顔で俺に尋ねる。
この白い世界に桜柄の着物と、無邪気な”あたち”の表情が異物のように浮かんでいる感覚に捕らわれた。
俺はそれをキレイだなと思いながら”あたち”の問いに返事をした。
「知らね」
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