第9話「あたち」6

「それもまた、あなたなのでーす!」


”あたち”は右手を突き出し、人差し指で俺を指しながらそう答えた。


どういうことだろう。

俺は”あたち”の事を言っただけだ。


俺は”あたち”に言葉を返せないでいると、”あたち”は両手を腰に当て、得意げに話し出した。


「人と人は表裏一体、おんなじなんでーす。あなたが”あたち”に見えている事はそっくりあなたにも返ってきまーす」


???


"あたち"はまたよくわからない難しいことを言っている。

本当に子供なのかと疑いたくもなる。


「同じって、どういうことだ?」


俺は率直な質問を”あたち”に投げかける。


「あなたが見ている”あたち”はあなたを反映していまーす。あなたが”あたち”を見て感じていることはあなたの中にもあるモノなのでーす。そうじゃなければこうして出会ってお話できませーん」


”あたち”はそういい終えるとまた、キャッキャと笑って前髪と桜柄の着物を揺らしながら俺の周りを走り回る。


またボートの帆先が左右に揺れ、俺はバランスをとるためにヘリに掴まる。


「わかったから、もう走り回らないでくれ」


そう俺は”あたち”に向かって言うと、”あたち”はゆっくりと動きを止め、分岐となっている分かれ道の正面を向いている。


俺の目には、遥か先に見える「光」と真っ白な空間。そして”あたち”を中心に分かれている左右の水路が見える。


俺はその視界に広がる世界を見て、改めて、なんて果てしなくて、そして美しい景色何だろうと、絶望と希望が交互に頭の中心に押し寄せてくるような、奇妙な感情を抱いているのに気が付いた。


”あたち”は俺と同じ「光」を見ながら「おぉ~」と感嘆の声を上げている。

白い景色に桜柄の着物がよく映えていた。


あぁ、そうか。きっと俺は”あたち”の姿を見て自分がどこかで無くしてしまった、何か大事なモノを感じ取っているんだろう。

俺は世間を憎み、死んでいく感情を、心をただただ眺めて、そしてそれはしょうがない事なんだ、と諦めていたんだと思う。


”あたち”には全くそんな様子はない。


きっと俺は”あたち”にを見て自分の中で死んで行ってしまった、大事な何かを感じ取っているんだろう。



それにしても。。。


「どうして”あたち”がそんな言葉を知っているのか?でしょっ??」


”あたち”は俺に背中を見せたままそういった。


俺はまるで心の中を読まれている様な感覚に瞬時に捕らわれ、心臓が浮かび上がり。背中の中心部から波のように寒気が襲ってきた。


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