第7話「あたち」4
「ひどい顔をしてるよ、誰からも元気や勇気をそぎ取ってしまうような、俺が一番嫌っていた顔だ」
俺はそう、なるべく正直に話した。
”あたち”は一度俺にした攻撃の構えを解き、桜柄の着物と触角の様な一つに結んだ前髪を揺らしながら口を開いた。
「へぇー、そんな風に見えるんだぁ。ひどい顔なんだぁ、嫌いな顔なんだぁ。
自分の顔が嫌いだなんて、変なのー」
そう言うと”あたち”は鏡を頭上に上げ、ケラケラと笑いながらその場でクルクルと楽しそうに回りだした。
ボートが左右に揺れる。
俺はバランスを取りながら、”あたち”の言葉に少しイラついた。
正直に話して笑われると、まるで俺が本当に変なおかしな奴だと言われているような気分になった。
「なんだよ、お前が正直に言えって言ったんじゃないか。そんな笑う事ないだろ」
俺は不機嫌な様子を隠さずに、まだほんの5歳くらいの子供に向かって言葉を投げつけた。
”あたち”はその言葉を聞いて、ピタッと動きを止め、大きな目を鋭く光らせながらその視線を俺に突き刺しながら言葉を発した。
「鏡とはあなたの本当の姿を見せるものです。それは見た目だけではなく、あなたの性根、心情、価値観、そして今置かれているあなたの位置を正しく写してくれます。
それ程、鏡というものには価値があるのです。
そして今、あなたが発した言葉は、あなたの本当の自分の一部が表れていました。
それが今の、あなたの、答えです」
俺は背筋に冷たいものが走り、つま先から頭まで一気に鳥肌が立つのを感じた。
まるで別人の様な口調に、今までよりも低く、胸の奥の裏まで響くような声だった。
俺がその言葉に圧倒され、何も言葉を発せられないでいると、”あたち”はスッと元の無邪気な表情に戻り、鏡を持ってまた、キャハハと笑いながら俺の周りを走り回りだした。
ボートが揺れ、俺は必死にバランスを取りながらさっきの”あたち”の言葉を考えていると、”あたち”は笑いながら
「イッヤなっ顔っ、イッヤなっ顔っ」
と楽しそうに言いながら俺の顔に鏡を押し付けた。
俺はその”あたち”の「新たな攻撃」をよけながら聞く。
「そんな言葉、誰に教えてもらったんだよ」
”あたち”まだグイグイと俺に鏡を押し付けながら答える。
「えー、わかんないし、教えなーい」
そう言いながら、”あたち”は鏡を俺に押し付け続けた。
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