第6話「あたち」3

「ぶっぶー。あなたは本当の事を言っていませーん。罰としてあなたにはこうします!」


そう言うのとほぼ同時に”あたち”は、グッと膝を曲げて反動をつけてから思いっきり俺の元へ飛んできて、全体重を”あたち”の拳にかけて、それを俺の首の下に思いっきり突き刺した。


そんなスーパーマンの様な勢いのあるパンチに、俺は反応できず、”あたち”のこぶしは無防御な俺の首元にめり込んだ。


小さな子供でも急所を思いっきり突かれるとダメージがでかい。


俺は”あたち”こ拳の勢いのまま後ろに倒れこみ、激痛が走る喉元を押さえた。


「あ”あ”あ”。。。」


と俺は言葉を発する事さえできずにもがいた。


そんな俺を”あたち”は見下ろしながら桜柄の着物とおでこの上で縛った前髪を揺らしながら目を輝かせながら言った。


「これは嘘をついたバツなのでーす。嘘をつくと必ず自分に返ってきまーす」


自慢げなその言葉はもがいている俺の耳に微かに響いた。


「なん、、だ、、よ」


俺は首に走る激痛に耐え、かろうじて言葉を発した。


「あなたは”あたち”に嘘を言いましたね?どうですか?」


”あたち”は変わらず俺を見下ろしながら俺に問いかける。


俺は「ちょっと待ってくれ」と言う意味を込めて”あたち”の前に左手をかざし、数分かけて体勢を立て直した。


「嘘って、俺はただ見たままの事を言っただけだ」


俺はまだ痛む喉の痛みをこらえながら”あたち”に言った。


それを聞くと”あたち”は満面の笑みを浮かべながらまた膝をグッと曲げ、さっきと同じように俺に飛びかかろうとしている。


「わかった、わかったよ。もう一回答えるからちょっと待ってくれ」


俺は”あたち”の襲撃に「待った」をかけ、もう一度”あたち”が手にしている鏡を覗き込んだ。


相変わらず辛気臭い、情けない顔をしている。


それは俺がまだもっと若いころに嫌悪した、「死んだような顔」そのものだった。


「あぁ、ひどい顔をしてるよ。俺が一番嫌いだった死んだ大人の顔だ。

きっと俺を見た人間は元気を失うだろう。

俺が子供だったらきっと生きていても必ずこんな風になるって言われた

ら、耐えきれなくて死んでしまうかもしれない。

死なないにしても、そうなる世界を、社会を憎んでグレてるかもな。

いつからこうなっちまったんだか。

自分でも見たくないほどひどい顔をしてるよ」


俺は出来る限り、見たまんまの正直な言葉を発した。


”あたち”は「襲撃」を構えを解き、額の上で結んだ前髪と桜柄の着物を微かに揺らしながら、その大きな目で俺をまっすぐにとらえていた。


この何もない白い世界にそれらは心地よい異端となり、俺はその姿を見て安心するような、元気になるような気持ちが産まれていた。


そして、”あたち”はその純粋な表情を崩さずに口を開いた。




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