第13話~進行と信仰~

首都グレバルトでは混乱していた。


南北の国境攻略で勝利を目前にしていた戦争が膠着し、更にクローディアの裏切りと同時に離反者が北側のクローディアのいる国境に逃げ出すからであった。


「どういう事だ総指揮官!」


「国王陛下、心配いりません、このブライアンにはまだ策があります」


「ちゃんと説明してもらうぞ」


ブライアンはクローディアの裏切りは予定していたが余りにも多い離反者にクローディアを自由にし過ぎた事を後悔していた。


「あの小娘め、この屈辱は倍に返してやる」


国王に責められも何とか話を付けたブライアンは舌打ちをした。


「この際ギリギリでグレバルト防衛を放棄して残った全軍を進行させてファーシェを占領するか・・」


ブライアンは部下にそう指示を出すと樹神の間に移動し樹神の管理者を捕まえると。


「星7までに何人使った?」


「30人までは行っておりません・・」


「そうか、星8は行けそうか?」


そう言われた管理者は両手を振りながら。


「ブライアン様、いくらなんでもこれ以上は勘弁してください」


「そうか・・」


ブライアンは胸に輝く星7つの新しい黒い樹神兵を見上げながら言った。



首都ファーシェではリーナの復活に『神の奇跡』『女神リーナ降臨』などと騒がれ、そして北側の国境ではマカモウ信仰のグレバルト兵士の受け入れに追われていた。


レアンはファーシェのお偉いさんを説得し、元々いたファーシェの国境警備の兵士と最初にいたグレバルトの兵士(通称クローディア親衛隊)2名をクローディアに付けて北側の受け入れをさせていた。



「しかし、お前たちは何て事をしているんだ・・何をしたのか分かっているのか?まったく・・来ちゃったから戻れとも言えないし・・はぁー」


2000人近いグレバルトからの離反者を前に少し高めのお立ち台で話を始めたクローディアは大きくため息をついた。


レアンのお蔭で武器の所持以外は自由であるがクローディアも含め未だ捕虜扱いであったがクローディアのお蔭で北側の国境警備は元敵同士ではあるが以前より強固な状態になっていた。



秘密基地にレアン、リーナ、傷の癒えたカルラが集まっていた。


「何?2000人が離反して来たと言うのか?しかも20体の樹神兵付きで・・」


南側国境からの報告を受けたレアン達は唖然としクローディアの信頼と信仰の厚さに驚いた。


「もしリーナがグレバルトに行ったとして・・俺と隠れファンも含め200人が精いっぱいだぞ・・」


真面目な顔で腕を組みながら言うレアンに「お前が行くな!」とその場にいたリーナとカルラが突っ込みを入れると。


「北側の防衛はこれで何とかなりそうだな・・」


レアンはそのままの態勢で考えると1つの作戦を考えた。


「南側にはまた時間稼ぎをしてもらい北側はクローディア親衛隊に任せてこのまま北側から首都に乗り込むか・・」


レアンはベルンハルトに『時間稼ぎ』の伝令を出すとカルラとリーナに北側へ向かう準備を指示し親父に会ってくると言い部屋を出て行ってしまった。


「カルラさん・・もう体の方は・・」


「怪我?樹神兵を失ってしまったが、リーナのお蔭で体は何ともない・・と言うより以前より元気な感じだぞ、どうやったか知らないがありがとう」


「カルラさんには色々と教えて貰っているので、感謝しているのはこちらの方ですよ」


笑顔で答えるカルラにリーナは笑顔で返したが心情の変化した自分の心が苦しかった。



北側の防御強化とグレバルト兵士からの情報収集を理由に許可を取ったレアンはアジュガと新アルシュールと馬に乗ったカルラで北側に向かった。



同時刻、グレバルトを離れ南側へ向かっていたブライアンは樹神兵の給水の為に寄っていた村で報告を受けていた。


「昨日の報告より離反者が増えただと・・しかも樹神兵20体まで・・」


「も、申し訳ありません」


報告をした兵士が謝るとブライアンは報告書を破り焚き木に捨てると。


「お前のせいではない、それとこの報告は首都にはしないでいい」


「は?」


兵士が疑問に思っているとブライアンは苦虫を噛んだ様な表情をしながら。


「こんな報告をすれば、指示を出すだけで城に籠っている奴らがまたうるさくなって、こちらがやりずらくなる」


ブライアンはそう言うと樹神兵に乗り込み南側へ急いだ。



北側に着いたレアン達は驚くほどに様変わりした国境を見て驚いていた。


以前は兵士と民間人の50人程が住める位の建物しかなかった場所に2000人が十分住める様に建物が増え、グレバルト側に簡易的な防御壁しかなかった場所に樹神兵をも妨げるほどの高さの防御壁が建っていたからだった。


警備隊長に北側国境警備隊本部と書かれた建物の中に案内されたレアンが。


「短時間にこんなに変わるとは」


「クローディアさんが指揮して受け入れたグレバルトの兵士達に指示して我々と協力して何とかここまで作れました、少なくなったとは言え未だ離反者の受け入れがあるのでもう少し寝泊り出来る建物が必要ですが」


「そうか・・クロが・・引き続き協力して頼む」


レアンは隊長にそう言うと敬礼をして部屋を出て行き部屋にはレアン、リーナ、カルラの3人が残された。


「しかし、敵味方関係なく統率が出来きて、更にこんな技術があるなんて侮れないなクロは」


「そうだろ、私の学校の通常専攻は建築だったからな、クロは凄い奴と思ってくれたか?・・あ!」


声の方を振り向くとクローディアが何故か窓を乗り越えようとしているところで、途中ドヤ顔で顔を傾けたところでバランスを崩し手を滑らせ部屋の中に落ちてしまい、傾けたドヤ顔のまま起き上がると腰を打ったのか腰に手を当てて摩りながらVサインを見せた。


3人は「クロ・・着地に失敗しているよ・・」と心で突っ込みを入れた。



レアンはクローディアを交え作戦会議をしていた。


「リーナ、クロは俺と一緒に首都グレバルトへ向かう、首都への最短ルートをクロに先導をお願いする、樹神兵の無いカルラはここに残って警備隊長の補佐及び情報収集、出発は1時間後とする」


「レアン最短ルートでいいのだな?、それなら用意するものがあるから待っていてくれ」


クローディアはそう言うと今度は部屋のドアから出るとトカゲを連れ樹神兵で火山の森へ出掛けてしまった。



出発の時間になりレアン、リーナが樹神兵に乗り込むとトカゲを連れていないクローディアが帰って来た。


「クロ、トカゲ達はどうした?」


レアンの外部スピーカーの問い掛けにクローディアは樹操房から身を乗り出しながら。


「今、地下洞窟の入り口を抑えさせている、それと移動に必要な解毒草だ、樹操房に入れておけば洞窟を出るまで持つだろう」


クローディアはそう言うと曇りガラスの様な花弁を持つ花束を2人に渡した。


3人は北側国境からの通常ルートでグレバルトに向かわず火山に向かって歩き始めた。


クローディアを先頭に森を進む途中レアンがクローディアの樹神兵に手を触れながら質問をした。


「グレバルトに向かうのに洞窟を使うのか?」


「そう、ここを通った方が森を抜けるより半分の時間で近くまで行けるし発見される事も無い、大分前にトカゲ達と遊んでいたらトカゲ達が教えてくれてクロしか知らない国境を通らないで両国を行き来できる唯一の手段」


「もしかして、前にファーシェに来た時も?」


「そうだよ、ここを通ってリーナに会いに行った」


3か月前にクローディアがどうやってファーシェに来たのか疑問に思っていたがようやく謎が解けた。


レアンの知る限り樹神兵の大隊でも抜ける事が困難な危険地帯だったがトカゲの襲撃も毒の影響も無く火山の麓にある樹神兵が少し屈めば十分入れる洞窟の入り口でトカゲ達に出迎えられた。


クローディアはトカゲ達の頭を撫ぜながら洞窟に入ると。


「リーナ、樹神兵レベルで魔法を使う方法を教えるから」


そう言うとライトの魔法を唱え緑の樹神兵の両手を光らせると、リーナも同じ様にライトの魔法を唱えるとかぼちゃハンマーの先が光り出した。


「す、凄い」


「どや、凄いだろう」


リーナが驚いていると、樹操房でドヤ顔しているだろうクローディアがどこかの方言で言うと、そのやり取りを見ていたレアンが光源を見ながら。


「クロ・・俺には出来ないのか?」


「まだまだ信仰心の足りないレアンには出来ないと思うよ」


「信仰心が足りれば使える様になるのか?」


「レアンが神官の修行をすればいつかは出来るんじゃない・・一層の事マカモウの信者にでもなってみるか?」


「それもありか・・」


クローディアのレアンいじりを見ていたリーナは『無いです・・』と思っていると。


「時間が無いから先を急ごう」


クローディア嬉しそうに言いながら樹神兵を洞窟の中に進めた。



南側に着いたブライアンは各部隊の指揮官達を呼び、離反者でバランスの悪くなった部隊の再編制と編成終了後に全軍を持って南側のファーシェ軍に攻撃を開始すると指示をし最後に。


「この戦いに勝利したあかつきには、お前たちに増えた領土を分け与え統治して貰う、戦果を上げた者にはそれなりの金と地位を与えよう、そして現時刻より離反した者はその場で死罪とする」


ブライアンは国王の許可も無く勝手に報酬を作り上げ、離反者で士気の落ちている兵士達の士気統一を計った。



グレバルト軍が侵攻を開始してしばらくして洞窟を出たレアン達は洞窟の外でクローディアのトカゲから報告を受けていた。


「グレバルトが侵攻を開始したらしい・・急ごう」 


クローディアはそう言うと道無き森を歩き出した。



レアン達が北側へ着く頃に指示を受けたベルンハルトは仮設された建物の部屋で南側国境制圧指揮官のアーベル・ヘルフルトを説得していた。


「この機を逃せと言うのかベルンハルト?」


「敵の樹神兵が減ったとは言え、未だにグレバルトの戦力の方が上回っています、ここは防衛に徹してファーシェへの進行を・・」


「防衛?黒い樹神兵の姿も無い今こちらの樹神兵の星の数では十分戦える、ここを打ち負かしてグレバルトに進行しようと思うのだが」


アーベル・ヘルフルトがそう言うとベルンハルトは「確かに今なら樹神兵だけの戦闘では星の数は上回っているが・・」と思っていると。


「ベルンハルト1時間後に総攻撃を行う、私が先陣を切るお前は遠距離用樹神兵を率いて後方支援をしろ」


アーベル・ヘルフルトはそう言うとベルンハルトを退出させた。


「レアン王子・・申し訳ありません・・時間稼ぎも限界です」


ベルンハルトはそう思うと受けた指示を履行させる為に待機していた部下に指示を出した。

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