第8話~色々な思い~

リーナは飾りと絵のある天上を見ながら目を覚ました。


部屋には誰もいなく静かだった。



上半身を起すと目まいと共に鼻と喉の奥に痛みを感じ、そしてあの日の事を思い出し吐き気が襲ってきた。



目を覚ましてから数日、食事を運ぶメイド以外は部屋に現れず、いつもならレアンがノックもしないで部屋に入って来たがそれも無かった。



リーナは目を覚ましてからの数日この部屋で朝のお祈りをしていたが、今日は目まいも無くなったので樹神の間でお祈りをしようと準備をしているとカルラが部屋に現れた。


「リーナもう歩けるのか?」


「目まいも取れたので今日は樹神の間でお祈りをしようと思いまして」


リーナがそう言うとカルラが困ったかの様に


「樹神の間に行くのか?」


「はい、もう歩けますし、お祈りは樹神の間ですると決めたので」


「そ、そうか・・では私も付いて行くがいいか?」


「はい?もう歩けるので大丈夫ですよ」


リーナはカルラの不自然な態度が気になったが、カルラと共に樹神の間に行くとその不自然な態度の理由が分かった。


「ア、アルシュールが・・」


樹神泉から出したアルシュールには全身に蔓が巻き付いていて本体は足くらいしか見えなかった。


「カルラさん・・これは・・」


リーナがアルシュールを指差しながら言うと。


「これは樹神兵が重度の損傷を受けると修復する為にする行動だ」


「重度って・・そんなに酷かったんですか?」


リーナが申し訳なさそうに言うとカルラが


「樹神房に穴が開いたからな、人間で言うなら心臓に穴が開いた状態だ」


「し、心臓に・・穴が・・」


リーナは驚きそう言うとアルシュールの方を見て『ごめんなさい』と手を合わせているとカルラが


「リーナが目を覚ましてからレアンは部屋に来たか?」


リーナは気にしていた事を言われモジモジし始めると


「そうか、来てないか・・まったくあいつは・・」


リーナは毎日の様に部屋に来ていたレアンがあの日以来部屋に来なくなった理由が気になっていた。


「あ、あのーレアンは・・」


「気に・・なるか?」


カルラは意地悪く言うとリーナは顔を赤くしながら両手を振りながら


「き、気になるとかじゃなくて、いつも用事も無いのに毎朝部屋に来るし・・」


「用事も無くレアンが毎日部屋に?」


カルラは少し考えながら答えると


「そうですよ、こっちのプラーバシーとか関係無いんです、しかもノックもしないで女性の部屋に入って来るんですよ、まったくレアンは何を考えてるのか理解出来ないです」


リーナが少し息を荒げに言うとカルラは心当たりがあった様に


「リーナに会いたいんだよ」


「え!?」


リーナがキョトンとしていると


「あいつは何時もそうだ、気に入った事があると相手の事なんてお構いなしだからな、私の時もそうだった・・」


「カルラさんの時も?」


リーナはカルラがレアンの元婚約者だった事を思い出した。


「あいつは1日3回決まった時間に私に会いに来た、丁度リーナのお祈りの時間の様に・・」


「1日3回もですか?」


「私が何をしていても何処にいても必ず現れた・・特に用事も無いのに」


「レアンってマメな人なんですね」


リーナは顎を掻きながらフォローの様にそう言うとカルラが怒りながら


「マメ?冗談じゃない、1日3回だぞ・・しかも1年の間休み無く毎日だぞ」


「い、1年間毎日・・」


「街では噂になるし・・大変だったんだ・・樹神兵乗りになって間も無く樹神兵騎士団が設立され部下になって嫌でも毎日合う様になってからは決まった時間には現れなくなったが・・」


カルラが拳を握り締め黙り振るえていると


「カルラさん?」


「あいつは事もあろうに樹神兵騎士団結成式の決意表明を言った後に『私を妻にしてみせる』と宣言したのだ」


「・・・」


リーナは呆れて何も言えなかった。


「だから、こないだレアンが緊急招集をした時に同じ事をするんじゃないかって心配していた・・そう言う事だリーナ」


「アハハハ」


リーナは笑うしか無かった。


「でもこないだの件であいつは反省しているらしい・・」


「反省?」


「リーナが目覚めた事は当然知っているはずだが、部屋に現れていない・・リーナ付いて来いあいつが今何をしているか見せてやる」


リーナはカルラに連れられて行くと、そこではレアン、ベルンハルト、兵士の樹神兵がいて戦闘をしていた。


「カルラさんあれは?」


「練習とか訓練とかが大嫌いなレアンが戦闘訓練をしている・・しかも毎日朝から晩までだ」


「朝から晩まで?」


「楽をして何とかしようとするあいつが・・汗をかいている・・」


リーナが訓練を見ているとカルラが


「あいつはこないだの件を自分の力の無さだと思っている」


「あれは私が・・」


「リーナの事もそうだが、死んだ2名の兵士の事も含めて自分のせいだと・・」


リーナはあの時にもう1人死んでいた事を今知り何も言えなかった。


「あいつは亡くなった兵士の家に自ら出向き謝罪したんだ、今までのあいつなら別の者に行かせていたんだが・・」


リーナは足手纏いになっていた自分に怒っていた。


「女神の再来だとか白き樹神兵とかリーナは浮かれていたかもしれません・・」


突然言い出したリーナにカルラは


「どうしたリーナ?」


「カルラさん、私も同罪です・・強い力を持っていながら助ける事が出来ないで2人の人を亡くしてしまいました・・力不足はリーナの方で・・だからレアンだけの責任じゃないです」


リーナは途中から涙を浮かべながら言うとカルラはリーナの頭に手を乗せながら。


「どうしたいんだリーナ」


「わ。わたし強くなりたいです、足手纏いにならない様に、皆を守れる様になりたいです」


カルラは少し間を置いて


「守ると言う事は・・相手を殺さねばならない時もあるがリーナにそれが出来るか?」


リーナはカルラに言われ母親カリンの言葉を思い出しここで理解をした。


「リーナがここの世界に来る前に母親が同じ事を言っていました、大事な人を守る為には理不尽な事も必要だと」


それを聞いたカルラが不思議そうに


「『大事な人を守る為には理不尽な事も必要だ』なんてまるで女神ローズみたいな事を言う母親だな、私も偉そうな事を言っているが教科書に載っているローズの言葉を真似てみただけなんだが、まさかリーナの母親はローズって名前じゃないよな?」


「母の名前はカリン・カートラインなので決して女神ローズでは無いです」



こうしてアルシュールが修復するまでの間、リーナはカルラ指導の下、戦闘術を教わり、そして筋肉痛に耐える事になった。



数日後、絡まっていた蔓が無くなり起動可能になったアルシュールでの訓練になった時にカルラが気が付いた。


リーナはカルラの攻撃を回避するばかりで、備え付けのひまわり盾で受ける事をしなかった、カルラはそれを見て盾があるのにもったいと盾を使った戦闘方法を教える事になった。



更に数日後リーナとカルラの訓練を丘の上から見ている樹神兵2体がいた。


「王子、本当にやるのですか?」


「毎日、同じ相手じゃ飽きるだろう」


レアンが笑いながら言うと


「命令とあればやりますが・・私はどちらを?」


「ベルンハルトはカルラを俺はリーナをやる」


レアンはそう言うとアルシュール目掛けて走り出しベルンハルトもその後を追った。


リーナはカルラの攻撃を避け距離を取った所に青い樹神兵が剣を持って現れると距離を詰めて剣を振るった。


リーナは剣を盾で受けるとカボチャハンマーで反撃し青い樹神兵はそれを盾で受けた。


「うほ、反撃してきた」


レアンが笑いながら言うとリーナは受けた剣を押し戻しながら足払いをしアジュガを転倒させカボチャハンマーを突きつけて。


「何をやっているんですかレアン王子」


「何って訓練の手伝いをだな・・」


「だからって突然襲わなくっても・・だからあなたは・・」


リーナはそこまで言うとハンマーを引っ込めアジュガに背を向け歩き出すとレアンは「隙あり」とばかりにアジュガを立ち上がらせササノハブレードで突きをしてきたがアルシュールが振り向きながらササノハブレードをひまわりの盾で払いそのまま体制を低くしその勢いでカボチャハンマーで足元を払いアジュガを再度転倒させてしまう。


「だからあなたは・・懲りない人だって・・カルラさんが言ってましたよ」


2度も転倒させられたレアンはアジュガでアルシュールを指差しながら


「懲りないって、何の事だ?」


その場にいたリーナ、カルラ、ベルンハルトは『王子に自覚無し』と同時に思った。



その光景を見ているブロンドの少女は首を傾げ


「白いの・・あの時と動きが違う・・」


少女は首を戻すと


「リーナ・カートライン・・会ってみればわかるか」


少女はそう言うとその場を離れた。

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