第3話~樹神兵~

リーナは飾りと絵のある天上を見ながら目を覚ました。


「ん?ここは・・」


リーナは上半身を起こし周りを見ると、ベットの横で椅子を反対にして笑顔で座ってこっちを見ているレアンと目が合うと、見なかった事にして上半身を倒し布団を頭から被った。


「おはようリーナ・・って寝るな」


レアンが突っ込むとリーナは顔の半分が見える所まで布団をずらすと目だけレアンの方を見ながら。


「レアン王子がいるって事はまだ夢の中だよね・・」


リーナがそう言うとレアンはリーナのほっぺを人差し指でグリグリし始めながら。


「夢なのか?夢じゃないだろう?夢だったら俺は誰なんだ?リーナの夢に出て来た白馬の王子様なのか?それとレアンでいいから」


レアンがそう言うとリーナはグリグリしている指を掴もうと手を出したが引っ込められてしまい捕獲に失敗すると。


「白馬の王子様は女子のほっぺをグリグリしない」


「そうなのか?それより手の方はどうだい?」


言われたリーナは出した手に包帯が巻かれ、手の平に違和感を感じガラスで怪我をした事を思い出しているとレアンが。


「ありがとうってリーナが助けた4人からの伝言、会ってお礼が言いたいって言ってたけど、ここ王城だし普通の人は入れないから諦めてもらった」


「お、王城ってどこの王城?」


リーナが上半身を上げて顔をレアンに近づけて言うと


「どこってファーシェ城に決まってるじゃん」


「ファーシェ城?どこの大陸のファーシェ城?」


「どこの大陸?ここは海に囲まれたザレイド島で1番近い大陸の事を言ってるならセギウス大陸かな」


「ザレイド島、セギウス・・私の知ってる世界地図には無い名前・・」


「そう言えばリーナはどこから来たんだ?」


「モンテラ大陸のアーバス・・」


「モンテラ?アーバス?・・そんな場所はここには無いな・・」


リーナとレアンはお互い知りたい事を聞き合い10分ほど過ぎた所でレアンが真面目な顔をしながら


「リーナは女神様か?」


「め、女神?だ、だれが?わたしが?」


急に男性から女神様などと言われたリーナは顔を赤くしながらレアンから離れながら答えると。


「だよな・・リーナが女神様ならランタン倒すなんてドジしないよな」


「あ、あれは、知らない場所でおっかなそうな髭の大男に声かけられたら誰だって慌てるでしょ」


「おっかない髭の大男だってさ、やっぱり髭は無い方がいいんじゃないか?ベルンハルト」


レアンはリーナの後方を見ながら言うと咳払いが聞こえリーナは恐る恐る後ろを向くとそこに眉毛をピクピクさせているベルンハルトが立っていた。


「あ、え、いつから?ご、ごめんなさい」


「レアン王子リーナ殿に例のお話を」


ベルンハルトは大人な態度でかわすとレアンが思い出したかのように


「そうだそうだ、リーナに聞いてもらいたい話がある」


リーナが頷くとレアンはファーシェであった昔話を始めた。


その昔話の内容は200年前に争っていた2つの国が1つに纏まった話、そして争いを終わらせたローズと名乗る女性の話、そして樹神兵の話。


「今はまた2つの国に分かれて100年程戦争を続けているけど、それとそのローズって人が最後にこう言い残したんだよ『また誰かが世話になりに来ると思うからその時はよろしく』と、まぁー聞いた話だし俺も会ったわけじゃないし・・でもうちの樹祭達がリーナの事を『女神ローズの再来じゃ』って煩くて」


「はぁーなるほど、それで女神様か?って」


リーナのいた世界では男性が女性に対し女神を使うときは気があります的な意味だったので少し勘違いした自分が恥ずかしくなった。


「そんでね、リーナに樹神兵を創れるか試したいって要請が来てて」


「樹神兵を創るって、私は創り方も知らないですよ」


「あー創るって言っても組み立てるとかじゃなくて、樹神エントの所に行くだけだから」


「行くだけで創れるんですか?」


「そうそう、そうだちょっとあれを見に行こう」


レアンはそう言うとリーナを着替えさせて城の外に連れ出し、城の敷地内にある公園に来ると、そこには大きな噴水の中央に大量の蔓が絡まって出来た蔓の木が立っていて噴水の横には200年前に書かれたローズの樹神兵の絵が飾られていた。



ローズの樹神兵は樹体が真赤で右手に蔓バラのウィップ、左に赤いハート型の葉の盾、そして背中に蕾の状態の大きな赤いバラが描かれていた。



「よく見えないがこの蔓の中にこの絵にあるローズが使ってた樹神兵があって今でも枯れずに残っている、それでこの辺りから見ると赤い足が見える」


レアンはそう言って、樹神兵の足が見える場所を指差しリーナはそれを見ながら。


「確かに蔓の色とは違う赤い足の様なものが見えます」


「今も枯れないって事はどこかでローズが生きている証拠なんだけどあれから200年・・生きてたとしても婆さん・・死んでてもおかしくないけど」


「生きててもお婆さんで樹神兵に乗れる年じゃないですよね」


リーナが笑いながら言うとレアンも頭を掻きながら笑った。


「明日、朝食が終わったら樹神の所に行ってくれるか?もちろん俺も同行する」


「行くのは構わないですが樹神兵が出来なくても怒らないでくださいね」


リーナは笑顔で答えるとレアンは小さなガッツポーズをした。



リーナはレアンの話を聞いている時から今まで考えていた、ここのクエストってもしかして2つの国を1つにする事じゃないか?と、もしそうでなければ明日の樹神兵は創れないと考えた。


分かりやすく言うと200年前の事を再現すればクエスト達成ではないかと。


そしてリーナはこう言う考え方をした『笑っちゃう級』だからクエスト内容を聞いたら無茶苦茶で多分笑っちゃうんだろうな・・と。



翌日、朝食が終わると時間より早くレアンが迎えに来た。


「何でその格好なんだ?」


「私は元の世界ではクレリックだったのでこれが正装ですから」


「でも今は魔法とか使えないんでしょ?なんだっけ神聖魔法とか神様がいないと使えないやつ」


リーナは痛い所を突かれたが自分に言い聞かせる様に


「私の神様は今も昔もアルシュールで変わりませんし、例え神聖魔法が使えなくても信仰は変わりません・・神はリーナに試練を与えてくれているのです・・その為にここに来たと思っています」


リーナが言うとレアンが『それありえないから』風に


「ここの世界には魔法とかは無いから使える様になったら見せてくれ、それと創る前に俺の樹神兵を見せるから」


魔法を信じていないレアンにいつか魔法を見せてやると心に決めてレアンと一緒に樹神のいる場所に向かった。



城の地下の洞窟に樹神の間があり中央に大きな葉の生い茂る大きな木が生えていて、天上は開いておらず光が差し込んでは無いが樹神の樹自体からの光で部屋は照らされたいた。



樹神の間に入るといかにも樹祭(司祭)ですって格好のイジュと言う名前の男が近づいて来た。


「これはレアン王子、時間にはまだ早いですが?」


「イジュ、儀式前に俺の樹神兵をリーナに見せるから準備してくれ」


「そう言うことですか、分かりました」


イジュはそう言うと樹神の樹に向かいレアンは樹神の樹の横にある水溜りの前に向かいリーナもついて行くとレアンが水溜りを指差しながら。


「この水溜りは樹神泉じゅしんせんと言い樹神兵が格納されていて、傷ついた樹神兵の修復をしてくれる所だ」


レアンはそう言うと樹神の樹の方を向くと


「イジュ、いいぞ出してくれ」


レアンに言われたイジュは樹神の樹の前にある台を操作すると。


目の前にある樹神泉から紺色の樹神兵の頭が現れゆっくりとその全身を現した。


レアンの樹神兵は丸い葉の盾と笹の葉の形の剣が腰に装備されていた。


「これが俺の樹神兵だ、どうだカッコイイだろう」


リーナにはカッコイイの基準が分からなかったがここは合わせようと


「うんカッコイイ、でもローズの樹神兵みたいに背中に花がないけど?」


そう言われたレアンはいじけた様な声で


「あれは星6以上の樹体じゃないと装備されない樹砲だから・・俺のは星5だから装備されてない・・」


樹神兵の武器などの装備品の形は全て花や植物の形などで成形され、更に樹体ランクがあり星1~星7まであり星の数が多いほど樹体スペックが良くなっていく。


レアンが寂しそうに言うとリーナは慌てて


「でも紺色って紳士みたいでいいよね、男の人の正装に似合う色だし」


「リーナもそう思うだろう、この樹神兵を創った時にみんなが地味だって言ったけど俺はこの色が好きだぜ」


似合うと言われ急にテンションが上がったレアンを見ながらリーナは昔母親のカリンが言った事を思い出した「男は勝手で面倒な生き物で、煽てておけば問題ないから」と、なるほどと納得をしていると時間になったのか続々と樹神の間に人が入って来てその人数は50人ほどになった。


「れ、レアン・・こんなに人が来るなんて聞いてないよ」


リーナはレアンの方を見ながら訴えると


「すまん・・イジュが親父に『女神ローズの再来じゃ』と言ってそれで大騒ぎになって・・」


「レアンのお父さんって言ったら国王じゃん・・もし樹神兵が創れなかったら・・」


「リーナ、大丈夫だ、もし創れなくても罪には問われないから」


「そう言う問題じゃ無い」


リーナが慌て始めるとレアンがリーナの肩に手を乗せると素晴らしい笑顔で


「俺はリーナが創れると信じてる」


「どこからその自信が来るんですか?」


リーナが突っ込むとレアンはリーナの手を掴むと無理矢理樹神の前まで連れて行ってしまう。


「えー集まりのみなさん、これより樹神兵の儀式を行いますが本人もまだこの世界に来て日が浅いのですが何とか創れるよう努力しますと・・ただ先に言っておきますがローズの再来とは私は思っていませんので結果は期待しないでください」


リーナはレアンがハードルを下げたのか上げたのか分からなかったが、よく考えたら最低でも創れる前提の話だったと思いレアンを睨むとレアンは笑顔で返して来た。


「それでは儀式を始めます」


イジュが樹神の樹の台を操作すると樹神の樹の横の地面から下から順番に1から100の数字が書かれた板が上がってきて最後に金色に輝く木のハンマーが現れた。


「みなさんはご存知と思いますが、説明します・・」



樹神兵を創る儀式とは:


ハンマーで数字の書かれた板のボタンを叩くと数字が上がって行き高ければ高いほどいい樹体が創られると言う物で叩いた人の知力・体力・時の運などが左右する。



リーナは説明が終わるとハンマーを両手で持つとレアンが


「では、儀式を始めたいと思います、樹神エントよその姿を現したまえ」


レアンがそう言うと樹神の樹の前に光るもやもやが現れ、それが集まり精霊の様な者が現れた。


「私を呼び出したのは貴方ですか?」


「はい樹神エント、ファーシェのレアン・リックウッドです」


「レアン、私を呼び出した用件は?」


「はい、樹神エントのお力で新たな樹神兵を創っていただきたいと」


「そうですか」


樹神エントはそう言うとリーナの方を見ると


「貴方の名前は?」


「リ、リーナ・カートラインです、始めてお目にかかります」


リーナがお辞儀をしながら答えると樹神エントはリーナを見ながら少し沈黙した後に笑顔を見せた様に揺らぎ


「なるほど、そういう事ですね・・時を超え、愛娘、約束、使命、再会・・いいでしょう」


樹神エントが言い終わると集まった人達からどよめきが起こりレアンが少しすると。


「静粛に、それでは儀式を始めます、リーナ叩いて」


リーナには樹神エントの言った事が理解出来なかったが思い切って輝く木のハンマーを振り上げボタンを叩くと1の数字が赤く光り2,3,4,5・・と上がり90で止まった。


数字の点灯がが止まるとレアンが突然樹神エントにアピールを始めた。


「樹神エントよ、リーナは非力ですが頑張って叩いたんですよ」


すると91と92の数字が順番に点灯し更にレアンが


「樹神エント、リーナは何も聞かされず異世界からこの世界を救いにわざわざ来てくれたんですよ」


すると93と94と95の数字が順番に点灯したところで樹神エントが


「合格!」と言うとレアンの樹神泉の横に新しい樹神泉を作ると「この種を育てなさい」とリーナに光る種を渡すと「ファーシェとリーナ・カートラインに祝福を」と言い光るもやもやに戻り樹神の樹の中に消えてしまいそれを見届けるとレアンがリーナに近づき


「リーナ、凄いじゃないか星5確定だぞ」


レアンがリーナの両肩を叩きながら言うと


「え?星5?何で分かるの?」


「樹神エントが言った言葉の数がそのまま最低の星の数になるんだよ」


リーナは樹神エントが言った言葉を思い出していた


「時を超え、愛娘、約束、使命、再会」


言葉の意味をもう1度考えたが意味を理解できず理解したのは大分後の事になった。



リーナはレアンに教わり種を新しい樹神泉に沈めたが何も起きなかった。


「レアン、何も起きないよ?」


「これから数日かけて育つから今日はこれで終わりだから昼食にしよう」


レアンは笑顔で答えると集まった人達に礼を言うと解散させた。



翌日、リーナはレアンと一緒に樹神の間に来ていた。


「えー何これ?」


これどう見ても標本骨格だろうってリーナが言うとレアンが


「骨格、その周りの組織、それを守る組織、装甲、装備の順番で成長して行くから、最初はビックリだよね、俺も最初はなんじゃこりゃーって思ったし」



2日目


この日は理科室にある人体模型の様な姿をしていてリーナは見るや否や「部屋に戻る」と言い戻ってしまい残されたレアンは


「この姿は女の子には少しきついか・・それと明後日あたりには星数がわかりそうだな」



3日目


この日もリーナはチラっとだけ見て部屋に戻ってしまった。


「木で出来ているとはいえ、リアルな全裸だからなしょうがないか・・」



4日目


この日の樹神兵は昨日とは違い樹液が固まり装甲を纏いまるでどこかに出てくるロボットの様になっていたがその姿にレアンがリーナに突っ込んだ。


「何で装甲がリーナの神官着と同じなんだよ」


「知らないって」



5日目


ついに装備が成形され左腕に固定されたひまわりの花の盾はよかったのだが、武器の方の見た目がレアンには理解出来なかった。


「こ、これは、ハンマーなのか?」


「クレリックは刃物禁止だし、ハンマーだと思うよ」


そのハンマーは棒の先の左右に見事なカボチャが育っていた。



6日目に奇跡が起こった。


この日は昼食後に樹神兵の起動と操作をレアンに教わる事になっていたが、朝食が終わった所で走って来たのかイジュが息を切らせたままレアンの所に現れた。


「れ、レアン王子・・リーナ殿の樹神兵に問題が・・」


「問題?どうした?」


食後の紅茶を楽しんでいたレアンが答えると


「今朝、樹神の間に行ったら・・ごぼごぼ」


イジュが息が持たず咳き込むと


「イジュ、まずは息を整えろ話はそれからだ」


イジュは言われた通りに深呼吸をして息を整えると


「それでリーナの樹神兵に何の問題だ」


「今朝、樹神の間に行ったら・・」


「それは聞いたからその先を話せ」


「は、はい、午後の起動、操作の準備をしていましたらリーナ殿の樹神兵に巨大なひまわりが咲いていました」


「ひまわり?ひまわりの盾が大きくなったのか?」


「盾はそのままで、背中にひまわりが・・」


「!?」


レアンは背中と聞いて飲んでいた紅茶を噴いてしまった。


「背中にひまわりだと?と言う事は・・イジュはリーナの所に行って樹神の間に連れて来い、俺は先に行っている」


レアンは立ち上がると急いで樹神の間に向かった。



リーナはこちらの世界に来ても毎日決まった時間にお祈りしていて今日も朝食の前にお祈りをしそれが終わると食事を始める。


そして食事を始めた所でイジュが慌てながら部屋に入って来た。


「リーナ殿、レアン王子が樹神の間でお待ちしています、至急樹神の間にお越しください」


リーナはこんな呼び出しは今まで無かったので食事をやめて急いで樹神の間に向かった。


リーナが樹神の間に着くと先に来ていたレアンがリーナの樹神兵を見上げていてリーナがレアンに近づきながら


「レアン、急に呼び出すなんて何かあったの?」


そう言われたレアンは無言で樹神兵の上の方を指差すとリーナは指の先を目で追うと昨日には無かったあれを見つけた。


「ん?何あれ?おっきいひまわりが咲いてる!」


「ローズ砲ならぬひまわり砲だ」


「ひまわり砲?」


「そうだ、リーナの樹神兵は星6だ、見ろ胸に光る6つ星を」


レアンに言われたリーナがそれを見ると胸の装甲に☆マークが6個並んでいた。


そしてその話が城中に伝わると『女神ローズの再来じゃ』とまた大騒ぎになった。

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