じっとその場に立ち尽くし、忍は閉じていた瞼を開く。

「答えて、なかったね」

 真由美が崩れ去った場所に一人でやってきたのは、己の意思を真由美に伝えるためだ。

 柔らかく、優しい笑みを浮かべ、忍はいなくなった彼女に向けて言を綴る。

「僕も、好きだよ」

 ここにいるのは、決意を新たにするためだ。

 これ以上、大切なものをなくさないために。

「もう、迷ったりはしない。僕は、自分自身を知ったんだ。自分が進まなきゃいけない道も、見つけたんだよ。

 その道を、まっすぐ行くよ。これは、僕自身が選んだことだから」

 決意に満ちた光が、忍の瞳に輝く。

「今日は、それを言いに来たんだ」

 そこで言葉を切り、忍はしばし躊躇ったように視線を彷徨わせた。

 そして、そっと囁くような声音をあげる。

「見守って、くれないかな?僕が、二度と迷わないように」

 その言葉を肯定するかのように、ふわりと忍を抱きしめるかのように風が吹き抜ける。

 それに安心したように微笑んだ忍が、ゆっくりとその場に背を向けて歩き出した。

 後ろは、振り返らない。

 自分で決めたことなのだから。

 彼女は、何時でも自分の側にいてくれる。

 肌でそれを感じて知るから……。

 忍の行く先には、仲間達が待っている。

 遙か昔から、強い絆と約束で結ばれた仲間達が。

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龍王奇譚 第二章 陽炎恋哀 10月猫っこ @touko10439

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