第九編

冷たい風が吹き抜ける。

辺り一面に闇が広がる。


「いったいここは……?」


私は今まで布団の中にいたはずだ。

体の温もりがそれを証明している。


「……携帯は?」


ポケットの中を探して携帯を手に取るも、画面は真っ黒で反応もしない。

ふと、私は思い出した。


「今際の国……」


丁度、今日の昼に読んでいたブログの名前だが、昨日の投稿にこんなことが書いてあった。


『夜、私は暗闇の中に立っていた。そこには何もなく、あるのは全てを飲み込む闇だけだった。

不思議と足元はしっかりしていて、崩れたり、落ちたりとかいう心配はしなくて良さそうだった。

少し歩くと、前にも人が歩いている。声をかけても返事はない。

手を伸ばして触れる。触れた。そのはずが、そこにあるのは闇だけで、今になって思えば、私は何故それを人と認識したのかさえも分からないのである。

時折冷たい風が吹き、私の体を撫ぜていくが、嫌な気持ちはしなかった。

ある時、私は誰かの手が触れたことに気づいた。

その時にはもう、私は私自身の布団の上にいたのだ。』


そう、確かこんな内容だったはずだ。

ブログの主はその後なんと書いていたっけか……。




前に居るのは人だろうか、背中しか見えない。

声を掛けても返事はない。手を伸ばす。


「やっとか……。」


そんな声と共に私の手は空を切った。


確かに声は聞こえたはずなのに、私はどうして手を伸ばしていたのか、理解できずにいた。

そこにあるのは闇だけで、何もなく、私はまた思考を巡らす。




思い出した。最後の一行。




『私の時間は既に30年経っていた。』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

羽を捥がれた蝶の集めた苦い蜜の一滴 紙風船 @wahuwahuusen

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ