第六編


「君は彗星を見たことがあるかい。」


先輩が唐突に質問を投げかけてきたので、僕はそれに頷く。


「そうか、私はまだ観たことはないんだがね、こんな話は知っているかい。」


先輩はそう言うと、つらつらと話し始める。


「彗星を実際に観た君なら知っているだろうが、彗星は青緑色をしているだろう。」


先輩は次の言葉を紡ぎながら、空に指を走らせる。


「だから彗星は、『翠』星とも言われているんだよ。」


僕は小さな溜息と共に頷く。


「そしてこれは、そのカケラなんだ。」


ぶら下げたペンダントをヒラヒラと振りながら話を続ける。


「こいつは、私の両親からプレゼントされたものなんだ、先月の誕生日にね。」


首から外されたペンダントは、光を集めて透き通った青緑色に輝く。

僕はその美しさに魅了されて、その向こうに見える先輩の顔を見つめる。

先輩は、堪えられないといった表情を浮かべ、笑い始める。


「君は本当に面白い後輩だよ、こんな話を真面目に聞いて。」


ふぅ、と一息ついた先輩は小悪魔じみた微笑みを浮かべて一言。




「私は彗星を観たことが無いと言っただろう。」

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