第四編
『彼を殺した後も縛られましたが、乱暴な縛り方で手に傷がつきました。
手袋をつけてもよろしいですか。』
彼女は私の前でそう言って両手を差し出した。
歴代私が手をかけてしまった人々は皆こうだった。
落ち着き払っていて、何も厭わないかのごとく、ただ静かにそこに居るのだ。
「痛めることなく、傷つけず縛ることができますから。」
私がそう伝えると、彼女はにこりと笑ってポツリと語る。
泣くことも出来るのに。
喚くことも出来るのに。
彼女は、最後まで微笑みを
全てを吐き出した後、彼女は宙を見上げ立ち上がる。
部屋には息を呑む音が響いたが、誰のものかは分からなかった。
ゆっくりと歩き出した彼女の頬に光るモノは見ないフリをした。
最期へと向かう車の中で、私は「何故」という言葉を飲み込んで、一つ大きな溜息を吐く。
そうだ、私はずっと不思議でたまらなかったのだ。
彼女が、何故、彼女で居られるのかを。
何故、こうも愛らしく、毅然としていられるのかと。
何故、こんなにも美しい手を血で染めなければならなかったのかを。
広場に設置され、物と化した彼女に。
私は最大限の敬意を評し、手を下した。
全ての感情を包含した宙を舞う瞳は、私の心を見透かしているようにも見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます