第四編

『彼を殺した後も縛られましたが、乱暴な縛り方で手に傷がつきました。

手袋をつけてもよろしいですか。』



彼女は私の前でそう言って両手を差し出した。

歴代私が手をかけてしまった人々は皆こうだった。

落ち着き払っていて、何も厭わないかのごとく、ただ静かにそこに居るのだ。



「痛めることなく、傷つけず縛ることができますから。」



私がそう伝えると、彼女はにこりと笑ってポツリと語る。

泣くことも出来るのに。

喚くことも出来るのに。

彼女は、最後まで微笑みをたたえて。



全てを吐き出した後、彼女は宙を見上げ立ち上がる。

部屋には息を呑む音が響いたが、誰のものかは分からなかった。

ゆっくりと歩き出した彼女の頬に光るモノは見ないフリをした。



最期へと向かう車の中で、私は「何故」という言葉を飲み込んで、一つ大きな溜息を吐く。



そうだ、私はずっと不思議でたまらなかったのだ。

彼女が、何故、彼女で居られるのかを。

何故、こうも愛らしく、毅然としていられるのかと。

何故、こんなにも美しい手を血で染めなければならなかったのかを。










広場に設置され、物と化した彼女に。

私は最大限の敬意を評し、手を下した。

全ての感情を包含した宙を舞う瞳は、私の心を見透かしているようにも見えた。

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