第3話 新しい世界で。

スカイプをしながら、という発想がまず私にはなかった。

(この次に移ったゲームではスカイプがんがんしながらやってたけど…)

カリンさんはスカイプそのものが苦手そうだったし、私はスカイプとゲーム両方起動したら落ちるし…(おのれ容量…)


新しいゲームでは、物凄く精密に容姿を決める事ができた。

自分と同じキャラは一人としていない。

ミリ単位で目や眉の位置を決められる。ついハマって長時間かかってしまった。

カリンさんはエルフと言っていたけど、事前情報(今度はちゃんと情報集めた)によると、エルフ(精霊)は体力が少ない。

迷ったけれど、私は妖精にした。ペットを使役する釣り役でもあり、自分が危ない時はペットにヘイト集めて逃走もできる。

名前は宝石から取りたいけれど、考える事は皆一緒。クォーツ系のオーソドックスなものは軒並み使われていた。

えーと、じゃあ…

<アンタークチサイト>お!さすがにアンタークは誰もいないみたい。

カリンさんとの目印に†を入れたかったけど、名前が長いから入れる事はできなかった。

(話しかければわかるよね…)

私は遠い妖精の里から、エルフの里へと無謀にも走る事にした。

水中戦、空中戦まであって、ぼーっとしていると上空から氷が飛んできたりするから、とにかく蛇行して走るに限る。

ログインしてすぐ、分かりやすくクエストを受けて、ペットを得る所まで即行ったから、ペットを伴って走れば敵の狙いは分散する。

一時間くらいでレベル10まで行けたし、カリンさんに今までみたいな迷惑をかける事もないだろう。

と、思ったけれどペットは水際から入ってこようとしない。水中には高レベルの人魚。ああ…最初から迎えに来てもらえば良かった…


『架†梨さん、いますか?G.E.でお世話になったrosablueです』

囁きを飛ばしてみる。

すぐに返信が来た。

『鉱石詳しいんだね。僕は人工アンタークチサイトの天気管を持っているよ』

カリンさんらしいズレた返信が来る。

『あの、ログイン遅くなってごめんなさい。今エルフの里目指して走ってたんですけど、川越えなきゃで、でも川に高レベルの人魚がいて…』

『あぁ…人魚か。高レベルだっけ…帰還魔法で妖精の町に一度戻って?僕は精霊だから空を飛んでいけるから』

『空にもなんかいます!危ないですよ…』

『大丈夫』

PT申請が来る。勿論YESだ…けど…

『れべるごじゅうさん。』

思わずひらがなでビックリを表してしまう。確かにこっちのほうがレベル上げやすいけど、私必死で10まで上げたのに…

『精霊は攻撃力があまり強くない回復役だから、中々レベル上がらなかったんだ』

充分強いと思います。ていうか初日にレベル53って何時間やってたの…聞いていいのか分からずオロオロしてしまうレベルよそれは。

そうこうしているうちにカリンさんを表すPTメンバーのマークが自分と重なる。

『え、どこ?どこですか?』

『上。それがペット?ヒョウかな?』

『猫らしいです…猫には見えないですけどw』

『ふぅん…』

すとん、と目の前にカリンさんが降りてきた。

『銀髪青目って、エルフみたいだね』

私の見た目を言っているのだろう。

『銀髪長髪に弱くて…萌えというか。そういうカリンさんも銀髪じゃないですか。…っていうか羽根…普通の精霊の羽根と違いません?』

『ああ、これはね、課金したから。綺麗なものがすき、綺麗なほうが好き』

実に女の子らしい意見。でも、G.E,のほうで、カリンさんのリアルは男性だと聞いていたので、やっぱり少し変わってるな、と私は思う。そういう所も含めて知り合えてよかった。なんていうか、マイペース。

『アンターク、早速レベル上げて19D行く?』

『19D?』

初めて聞く言葉に首を傾げる。

『19、29、39、49…っていう風に、9ごとになるとダンジョン解放されるんだよ。19D程度なら攻撃も回復も僕ができるから』

『ああ、なるほど。ただ、レベルが上がらなくて…』

世界は確かに綺麗だった。G.E.より多分ずっと綺麗。

だけど、死ぬと経験値が落ちる。死に続けるとレベルが落ちる。鬼システムだった。だから私はチャットの為だけにログインしているようなものだ。

『蘇生も回復も精霊はできるから。精霊のレベルが高いほど、ロスト経験値は少なくなる。でもアンタークが気になるなら、僕がレベル80になってからやろうか』

れべるはちじゅう!それ、最高レベルじゃないの…?

『いや、大丈夫です!大丈夫だから気にしないでください!フローライト(ペットの名前)もいるし、囲まれる心配はないと思うし!』

『囲まれても一網打尽にできるよ、19なら』

『そこまでお世話になるわけには』

ああだのこうだの言いながら、まずは19D関連のクエストを受けるため19までレベル上げ。鬼のような高レベル帯に連れて行かれて、カリンさんのそばを離れず、フローに自動攻撃モード設定でレベルはすぐに上がった。

『もう少ししたら妖精も騎乗ペットで飛べるようになるから。そしたら高レベル帯に行っても、上空避難してくれていれば経験値だけそっちに入る』

『なんだか何もかもやってもらってすみません…』

『謝らないで。それより、敬語…やめない?』

うわ来た。私の標準装備:敬語。どうしても、たとえ年下相手でも私の敬語癖は昔から治らないのだ。

『善処しま…善処するね』

そう答えるうちにもまた一匹、カリンさんの弓が敵を射抜いた。


カリンさんのお陰で、比較的早くレベル20に到達。一回も死ななければこんなにスムーズにレベル上がるのか…。

二人で19Dと呼ばれるダンジョンの中に入る。

『このまま火力突破でもいいけど、一応正式なやり方でいくね。アンターク、あの群れから適当に一匹フローに攻撃させて、すぐフロー消して?』

『釣りっていうやつ?』

『そう。フローに攻撃された一体だけがこっちに来るから。19Dなら連鎖もしないはず。がんばって』

『わかった』

言われるままに、適当に敵を攻撃。すぐにフローを消して、再召喚。

『あっ…待ってフロー』

『もう一度消して、慌てないで大丈夫』

再召喚した瞬間、敵にフローが向かって走って行ったので慌ててしまった。

『再召喚は、敵の群れを離れてからね』

『はい』

それからカリンさんの弓の射程距離に入る。敵の群れからの距離はそれなりに離れた。

(再召喚していいかな?)

そう聞くまでもなく、敵はカリンさんの弓一撃で倒れる。

『よわ…』

レベル差ってこわい。

『次は釣った敵と一人で戦ってみる?』

『やってみます』

妖精の初期攻撃は毒魔法だ。正確には魔法+毒、って言ったほうがいいんだけど。

うわめっちゃ時間かかる…これ、連鎖してたら即死だわ。

そのまま自動攻撃モードにして、フローの体力に気を配りつつチャットを打つ。

『弱くてごめんね』

『最初は誰でも弱いよ。大丈夫だから』

そう答えながら回復魔法を私にかけてくれる。本当にお世話になりっぱなしだ。

結局、19Dをクリアした時には夜が明けていた。


『目がしゅぱしゅぱします…』

『そう…?僕はいつもこんな感じだから…でも視力が下がるのは良くないね。今日はもうお互い落ちようか』

『はい。ありがとうございました』

『また敬語』

『う。今日はありがとう…あと、明日は遅くまでログインできないの。夕方までが精いっぱいかな…』

『何か用事?あ、無理には聞かないけど』

『ううん。あさって、コスプレイベントなの。だからその準備。早く寝ないと、起きられないから』

優しくカリンさんが少し困ったように微苦笑を浮かべているような気がした。

『いいな…僕は、寝たくても眠れないから…』

『私もそうだよ。薬で寝てるの。だから、時間調整しないと難しくて…』

『そうだったんだ…ごめん。僕は多分毎日ここにいるから、楽しんできてね』

(カリンさんは薬貰いに行かないの?普段何やってる人なの?…聞きたい事は沢山あったけど、Dクリアの疲労のまま土足で踏み入りたくなかったから聞きたい事は次の機会にまわそう)

『ありがとう。またね』

『うん、また。アンタークチサイトの天気管、最近は結晶化しなくなったよ。暖かくなってきた証拠だね。風邪ひかないようにね。…おやすみ』

『見てみたいな…おやすみなさい』

それだけ残してログアウトを選択する。今更ながら、セーブしなくていいっていうのは楽だ。

天気管か…。明日時間があったら見てみよう。

アンタークチサイトという鉱石は、寒ければ寒いほど結晶化し、暖かいと液体状の不思議な鉱石。

昔は船乗りなどの間で温度計の代わりに使われていたという。

「明日…検索してみよう」

薬を飲んで、ふらつきかけたところでベッドに入る。


―――ねえ、カリンさん。沢山の理不尽と暴力に晒されていたのに、そんな事おくびにもみせず優しく接してくれてたね。

私がもっと早く、歩み寄る事をしていれば、あんなことにはならなかったのかな。

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