第2話 日本にいながら言語の壁

[Thanx!!]

まずはお礼。日本語でちまちま打つより見やすいだろうと思って英語を選んだ。それから…今一番の問題…

[nihongo ga utenai. gen-in wakari masuka?]

日本語が打てない原因を聞いてみた。相手の名前は日本語でカリンと表示されている。私なんてrosablueなのに。(名前の時から日本語が打てなかった。名前は英語にしなきゃいけないんだと思ったけど、あの時気づくべきだったのね…)

『あぁ…そうなんだ。多分容量不足だと思うよ。デスクトップでやってる?』

[note-pc....]

そうか…これだけ美麗なグラフィックなら、確かに容量食うよね。現にインストールにどんだけ時間かかったんだかって話だし。

『ノートでこれは厳しいと思う。よく起動できたね…』

[hai...]

『でも不自由じゃなければ、僕といる間はローマ字入力で構わないよ。英語でもいいし』

この人は菩薩か。それと、今の機会に言っておくけど、ハーフだからって英語が喋れるっていうのは完全に偏見。私みたいに…高校英語しか…喋れないハーフだって…いる…泣いてない…泣いてないってば。

[Thank you!!But yominikukunai?]

英語とローマ字の混ざったわけのわからん問いをする。できる箇所は英語のほうが読みやすいと思ったけれど、余計鬱陶しくなってないかな。

『時間だけは沢山あるから、大丈夫。この辺は中位モンスターが出るから、一人で来るのは危ないよ』

[I think so.kowakatta]

『間に合って良かった。街まで送るよ。何かあったら守るから、この綺麗な景色を堪能して欲しい』

[OK]

戦闘に必死になってしまったけど、ここまで逃げてきた道もまた、キラキラとてもきれいで。そしてモンスターが出るたびにカリンさんが倒してくれた。

見た目は美少女なのに、レベル差(多分)で、2発殴ったら倒せるものだから、なんとなく返り血を浴びた美少女に笑顔で「さあ、参りましょう」と言われてる気分になる。複雑だ。

そして町についた時、

『もう大丈夫だね。僕はいつも水晶の近くにいるから…またね』

と、あっさり離れていこうとするカリンさんを慌てて呼び止める。

[Karin san! Thankyou...I wanna be your friend]

『友達申請、する?』

[zehi!]

こうしてroseblueこと私と、カリンさんはログインする度に何をするでもなく、一緒にいる仲になっていった。


カリンさんは少し…独特の感性を持ってる。

リアルでバイトを終えて、帰宅して召喚士の帯の模様を忠実に描いて、このあと袴の模様もか…と白目になっていた私は、カリンさんと話すと癒される。…それにしてもいつ寝てるんだろう。いつログインしてもいるんだけど…カリンさん。

それもちょっと詩人っぽいところがあって、ログインして[imasuka?]と飛ばすと、『ああ、君か…。今、この世界の美しさに見とれていたところなんだ』なんて返ってくる。お、おう…初日は私もそうだったし…よっぽどこの世界が好きなんだろうな。

私はクエストを受けるには受ける事はできたけど、解決できずにずっと低レベルのまま。日本語も打てないまま。

カリンさんにとって重荷になってないだろうか。恩人なのに、それは…嫌だな…

『ねえ、君はこの世界が好き?』ある日カリンさんにそう聞かれた。

[yes]『でも、僕はね…お互いイーブンで話せる世界に移動しようかと思うんだ』[even?talk?]『日本語が打てない事、気にしてるんじゃないかと思って。それに、レベルも上がってないから…』

うぐ。痛い所を突かれた。確かにもはや、ゲームしにログインしてるというより、カリンさんに会いにログインしているようなものだったから。

[tashikani...demo kokoyori kirei na sekai arimasuka?](確かに…でも、ここより綺麗な世界、ありますか?)そう尋ねると、カリンさんから提案があった。

『完美世界って、検索してみて。そこが気に入ったら、一緒にそっちに行かない?』

[demo Karin-san level takai noni](でもカリンさんレベル高いのに…)綺麗な世界が他にあっても、私のせいでレベル1にさせるわけには。

『大丈夫。大抵のネトゲは、2日もあればカンストするから』

[@@; sugeeee]

ゲーム関連のエンジニアさんか、引きこもりさんかのどっちかかな…でも、そんなの勝手に想像するのは失礼だよね。

[OK.le'ts go]

『でもインストールに君は時間かかると思うけど』

あう;

[youhuku tukurinagara mattemasu]

『服飾系なの?』

[no,cosplayer desu]

『すごいね、二次元の服を三次元で作るなんて。コスプレ、やってみたいな…』

[yarimasho!!]

『うん…いつかね』

この時カリンさんがどうして言葉を濁したのか、真の意味を私が知るはずもなく。コスプレしてみたい、というカリンさんの言葉は社交辞令だったのに、やりましょうなんて言ってプレッシャーをかけてしまったかな、申し訳ないな…そんな想いにとらわれるばかりで。

[install shini ikimasu. kyo mo thank you]

『ログインできたら、僕は架†梨の名前を使うから。真ん中に†を入れるのは、同名弾き防止ね』

[OK」

カリンさんが落ちるのを見てから、私もログアウトして、そしてこのゲーム自体をアンインストールし、完美世界をインストールし始める。

うん…鈍い。その間に袴の模様も描いてしまおう…

それにしてもカリンさん、何者なんだろう。私に付き合って別ゲー探してくれるのもそうだけど、二日でレベルカンストって…。


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