あなたはまるで、ファンタジーの登場人物のようだった。

寄葉

第1話 冗談みたいな出会い

「よし…完成」

トルソーの前で、腕を組む。

某大手ゲーム(究極幻想としておく)の登場人物の一人の衣装を作り終えたところだった。

大変だったのは、スカートのベルト。ゲーム画面を録画して、何度も一時停止をして、自分なりに完璧に真似できたと思う。

布といえば日暮里の某店でみんな買うのだけど、まさかフェイクレザーが1m100円だなんて幸運だった。(つい10mも買ってしまった)

「着てみても思ったほど重くないし…問題は胸が足りない事かぁ…」

こればっかりはヌーブラを重ねるしかない。まだ、胸を盛るのにつかわれる某NEOとか、開発段階だったからレイヤーは自分で努力するしかないのだ。

例えば谷間のために、サイドからガムテープで胸を寄せて、その上にヌーブラを盛るとか。

「本当は召喚士役が良かったなぁ…」

胸も目立たないし、ケバくないし。

けれど私はハーフである事もあって、ケバメイクが映えるらしい。

髪の長さも、このキャラにぴったりだったしゲーム自体は好きだったから断れなかった。

嫌いじゃないし…いいか…。

あとは、…私は散らかった床の上を見下ろす。

召喚士役に頼まれた衣装を作らないと。……毎度毎度、どうして私に作らせるかなぁ彼女は。

という不満はあったものの、彼女のコスはクォリティが高い。コスの間だけなら手放すには惜しい人材だった。

要は利用し合ってる。


私は試着状態から髪も結い上げ、メイクをして角度をいろいろ確かめる。

特に問題はないようだ。……さて、一気に暇になってしまった。

召喚士の衣装を作る気力はない。

「あ、そういえば…」

前から気になっていたネトゲがあったんだった。(MMORPGという言葉はこの頃は知らなかった)

PCを立ち上げ、気になっていたゲームの画面に飛ぶ。

やっぱり凄く綺麗…G,エスパダというそのゲームを、私はインストールした。

けれど「家電の説明書は読まない」「ゲームの取説は読まない」という性格が、このあと私にがっかりを運んでくるとは思わなかった。


「インストール…遅っせぇ…」

結局召喚士の衣装の袖を染めながら、ちらちらとパソコンを見る。

全然進んでない。

そのうち袖も染め終わって、ベランダに干した頃、ようやくゲーム開始の画面に行きついた。

やっとか。(ちなみに着ていた衣装は裏地をつけていないので、肌に張り付いて痒くなるから脱いだ。要改造。)

パジャマ姿にケバメイクと結い上げ髪、どこのキャバ嬢だよ…と思いながらもログインする。

「わ……!」

それまでネトゲというものは2Dしかやった事のない私にとって、その世界はあまりにも美しく見とれてしまった。

でも…「取説!みたいなこと言ってくれるNPCいないの?何すればいいの?一人で3人キャラ操る意味がわかんないよー」

とりあえず、女の子はHPが少ないとか弱いというイメージが先行して、若い男キャラを先頭に、クエストも受けずに適当に私は森へ入っていった。

「きれい…」

水晶のようなものが至る所で光っている。数人のPTとすれ違う。それもなくなってきた頃、ひょっとして奥まで来すぎた?という不安を読み取るかのように、どう見てもレベル1では倒せないような大型モンスターが現れた。

「う そ や ろ」

初心者エリアの隣に置く?こんなの配備する!?

とにかく、持ちキャラの3人交代しながら攻撃を続けていくけど旗色は悪くなるばかりだった。

(ヘルプコールとかないの?助けてって言ったら声の届く所に誰かいないかな!)

[tasukete!!]

「え?ちょ、焦り過ぎ、日本語入力…」

[tasukete!]

って、日本語が入力できない!なんで!?海外サーバーじゃないよここ!

焦りが頂点に達した時、金色の髪を揺らしながら3人のうち女の子キャラが駆け寄ってくる。

『大丈夫?』

そして彼女は一撃で魔物を倒したかと思うと、もう一度「大丈夫?」と私に聞いた。

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