第4話 女同士は疲れるという話

翌日は、少しログインするつもりだったけれど実際イベント前日となるとそれどころではなかった。

「間に合わない。間に合わない間に合わない間に合わないあーーーー寝たいもう何もかも捨てて原初の海に召されたい」

後半意味不明な事を言いながら、自分のぶんと召喚士用のアクセサリーを半泣きで作る。

「なんでファンタジー世界の人の服は重力無視したり絶対おかしいファッションで旅するの…」

あとなんで漏れなく胸に恵まれてるの。

なんでくびれがきっちりあるの。

女キャラでデブっていなくない?…私は痩せすぎ体形だからそこはまぁいいとしても

「おかしいよ絶対おかしいよ開発者は女の子に夢見過ぎだよもうザナ〇カンドに還りたいよ今更になって服の刺繍も気になってきたしやり直したい、人生の最初から」

もう自分が何を口走っているのかもあまりよく分かっていない状態で衣装の内側に分厚いパッドを仕込む。

コスプレイヤーに夢を見る人はいるかもしれないが、これがイベント前夜のレイヤーの有様なのだ。

アクセサリーは、本当は公式から出ているのだけど、いわゆる「でもお高いんでしょう?」価格だから手作りするしかない。

半泣きになりながらその夜はなんとか二人ぶんのアクセサリーを仕上げた。

「私は貝になりたい……」



ガツンと効く薬は副作用が大きい。それでも、翌朝の待ち合わせ時間を考えると、少し多めに飲んで、早めに私はベッドに入った。

カリンさんは今頃レベル上げてるのかな…



翌朝、イベント会場となる遊園地に向かっていると、召喚士役のミユキからメールが来た。

“今起きた!先着替えてて!”

「え」

ミユキの家からここまでは二時間近くかかる。そして私はメイクは家からやっていく派だから…

どんなにゆっくり着替えても、一時間は時間が余ることになる。

「どうしろと…?」

ぼっちイベント参加ほど虚しいものはそうそうない。

カメラマンさんならともかく、コスプレイヤーが一人参加というのは寂しさの極みと言っても過言ではないだろう。

せめてもう少し早く連絡してくれたなら、ネカフェからログインしてカリンさんに会えたのに…すでに私は入場料を払って園内に入ってしまった。

なるべくゆっくり着替えて…髪の毛も結い直し…は、無理、奇跡的にうまくいったんだから。

衣装を来て、ため息をつきながらカートを引いて園内に移動する。

ちょうどベンチが空いていたので、手持無沙汰に携帯をいじること30分…

「冴さん?」

突然コスプレネームを呼ばれて顔を上げると、見知った顔があった。

「エイカさん!お久しぶりです」

そこにはレイヤーとカメコの二人連れ。エイカさんは、別作品でよく一緒に写真を撮る仲だ。

「一人なんですか?」

「ミユキ一時間以上遅れるみたいで…ご迷惑じゃなければご一緒してもいいですか?」

どうぞどうぞ、と快く迎え入れられ、泣きそうだった心は回復に向かう。

連れのカメラマンさんに数枚撮ってもらい(エイカさんは写真が好きではない)、その後ベンチで近況について世間話。

私は最近ネトゲにハマった事や、カリンさんの事を話した。

「すごい興味あるんですけど。なんてゲームでしたっけ?」

メモるエイカさんに、再び私はネトゲの名を告げる。

「レベル上がらなくてもー、デスペナルティが鬼。でも死ななければすいすい上がるんですよー」

「え、これ私お邪魔したらやっぱり駄目ですか」

「え?全然いいですよ?エイカさんの事カリンさんに話しておきますから、みんなでわちゃわちゃ遊びましょうよ」

ここでミユキから到着の連絡が入る。

「ちょっと衣装渡してきますね。まだここにいますか?」

肯定の言葉を聞いて、私は衣装の入った紙袋だけ持ち、カートは置いてゲートへと向かった。

そしてミユキが着替えている間、再びエイカさんのところに戻る。

「衣装作らされたんですか?」

「作らされたというより…単に私のほうが時間空いてるから…」

「えー、でも冴さんのバイトってショップ店員ですよね?忙しくないですか?ミユキさんって家事手伝いでしょ?明らか向こうのほうが暇w」

……そうだった。エイカさんはここに居ない人の悪口をけっこう平気でがんがん言う人なんだった…

ミユキは自業自得にしても、いつかカリンさんを悪く言われる日が来たら嫌だな…

そうこうするうちにミユキが合流し、エイカさんは何事もなかったかのようににこにこしていた。

「遅刻してきて帯直せとかびっくりするわw」と小声で言うのが聞こえた。

女ばかり集まると怖い。まさにその体現。

始まる前から私は疲れていた。


イベント中に同作品の人たちと一緒に写真を撮ったり、エイカさんがミユキを見ながらぼそっと「お礼とかお詫びとか言わないんだ」と呟いたり、自覚のない嫌味をミユキに言われたり、…あれ?考えると嫌な思い出のほうが多かった…

と、帰りの電車でぼんやりデータを眺めながら、「見栄えだけはいいんだよねぇ…」と私はため息をついた。

早く帰ってシャワーを浴びて、カリンさんと話して癒されたい。

女同士は疲れる。カメラマンさんですら苦笑していたもの。



それでも、ぼっち参加するよりは全然マシなんだよねぇ………私も大概だ。

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