ツイッターで公開した短編たち
爪先立ちウィークエンド
やっぱり行くのやめようかなあ、なんて、言ってくれないかな。言ってくれないよなあ。そんな馬鹿馬鹿しいことを考えながら、私達二人は今日もブランコの上。
「どうした、今日はだんまりじゃん」
「……別にぃ」
いつもなら嬉しい春休み直前の金曜日。けれど全然嬉しくない。五つ年上の私のお兄ちゃんは、明日この町からいなくなる。
生まれた時からずっと、お兄ちゃんのつむじが遠かった。いつもお兄ちゃんだけ私より五つも年上で、私より五年分多く思い出があって、私より先に大人になる。五月に私の誕生日が来てようやく差を四つに縮められたと思ったら、七月にはまた五つに戻されてしまう。その繰り返し。いくら横に並んで背伸びをしたって、いつもお兄ちゃんのつむじが遠い。
「そろそろ帰るか」
不意にお兄ちゃんがブランコから立ち上がった。錆び付いたブランコがきいきいと泣いて揺れている。泣かないで、泣きたいのはこっちなんだ。
「うん」
迫り上がる群青に気が付かないフリをして、私はお兄ちゃんの後ろを歩き始めた。今日のご飯はトンカツだってさ、とか言って笑っているお兄ちゃんの後ろで、こっそり爪先立ちしてみる。やっぱり、そのつむじは遠くて。
「お兄ちゃん」
「ん?」
振り返るいつも見てきた顔。五年分、遠くにある顔。山に落ちていく真っ赤な西陽があんまりにも目に染みて、思わず泣きたくなったけれどなんとか耐えた。
私は爪先立ちのまま、どうにかこうにか下手くそに笑って。
「……頑張ってね」
告げれば、お兄ちゃんは「おう」と優しく微笑んだ。ツン、としょっぱくなった鼻の奥。それに気が付かないふりをして、あーあ、と私は空を仰ぐ。
ほらやっぱり。今日もつむじは遠かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます