「act04 歴史は繰り返す」
「『名前はまだない。魔法とは似ているが全く異なる現象、魔なる技術。魔法協会から異端と排されたその技術をめぐって一つ面倒な厄介事が起きてな』」
「ま、待って。魔なる技術? 排された? 一体何の話?」
「それにその話し方は……」
「ぼくの魔法の一つ、『
小さな少年からはおよそ想像も出来ない程に落ち着き払った話し方で切り込む。
聞くに、『
「じゃあ気を取り直して続きから。『私は魔法協会直属第七師団元団長、アレイスター・クロウリーというも――
「アレイスター!? あの変態が関わってるのね。ならその魔なる技術ってのにも心当たりがあるわ」
「どうやらおねえさんのほうがそういう話はできそうだから、そこは任せて大丈夫かな」
「といってもカレが楽しそうに話してたのを冗談半分に聞いてただけよ」
まず、と出されていた水を一口飲むと話を始める。
直属第七師団とは魔法の研究を主にしている機関で、アレイスターは特に優秀な学者で団長も務めていた。
しかしある日から突然魔法の研究ではなくて別の研究を始めたらしい。本人曰く『全ての事象は0と1だけで説明できる』とのことで、魔法は0から1を生み出す神秘なのだが、0から1を生み出すとなるとエネルギー効率が悪いのではないか、という考えのもと『0から1』ではなく元々そこにあったものを利用する。つまりは『1から1』を生み出す技術の研究をしていたらしい。
「だがあのジジイ共は神秘を捨てることは赦されないとして第七師団は弁明の余地もなく即解体、所属していたメンバーも全ての称号を剥奪ってえ厳しい処分を受けた、だっけか」
「ざっつらい!っとこんな簡単な説明しかできないけれど合ってるかな」
「ぼくの知識ともちがいないよ」
「なんか難しい話になってきたな……」
「わ、私も理解できてないかも……」
「ようするに何もないところから氷を出すよりもとからある水を凍らせるほうが遥かに簡単だよねってことよ」
それでもなかなか理解できていない様子の若者二人に少し頭を抱える。ガイナはともかくツヴァイスまでこうも頭が固いとは思ってもみなかった。さてどう理解させたものかと考えはしたが五秒考えたところで無駄だと察して先ほど話していた面倒事のほうについて話すようにリヒートへと促した。
いいのか? という風に驚くようなアクションをとった少年に対してガブリエラは静かに首を横に振った。この若者達については本題だけ理解させておいたほうが無駄がなくて済むと判断したのである。
じゃあ本題を、と再び『
「『厄介事というのはだな、私としてはこれの研究が出来れば野山だろうが海中だろうがどこでもなんでもよかったのだがそうはいかない人間がいてな。魔法協会に特製の爆弾を投下しようなどと吐き散らすバカがいたのだ』」
「本気?」
「『本気も本気。まあそれも私にとってはどうでもよいことなのだが一週間後その特製爆弾の試験投下が行われるらしくてな』」
「試験投下」
「その爆発被害想定内地域にこの村も含まれている』」
「な――」
「とりあえず最後まできいて。『私の予想ではあのような甘い作りでは爆破範囲は想定の半分どころかそもそも不発に終わる確率が九割と正直あまり脅威とは言い難い代物だが注意するに越したことはない。念のためこの村を一時的に避難させておきたまえ。実験後爆発しなければすぐに戻ればよいし、想定通り爆発して想定通り村が消し炭になった場合は私のところに来い。あまり贅沢な住居は用意できないがそこそこの生活は補償しよう。もしそうなれば私にも責任はあるわけだからな。さてでは諸君、とこれを聞いている君達へ、健闘を祈る』」
――しばらくの沈黙。最初に口を開いたのはツヴァイス嬢。
「早く避難しなきゃ! この会話はいつしたの?」
「……一週間前」
「まさかのお日柄もよい今日日だったぁぁぁぁぁ!?」
「て、テンションが壊れてるな……」
「なんで避難しないのさ!? こうしてる今にももしかしたらその爆弾が落ちてくるかもしれないんだよ!」
「……ぼくたちのうまれ故郷だから」
ぐっ、と言葉を詰まらせる。確かに逃げるのが最善策。ツヴァイスとしては命を守ることが最優先と考えているのでここは当然避難一択なのだが彼らはそうする気はさらさらないらしい。その固い意志はその瞳を見れば未熟な少女であっても理解できてしまう。
「こわくないわけじゃないよ。ただぼくたちはここで生まれ育った。この村を離れるくらいならそれこそ死んでしまったほうがましだ」
「…………」
沈黙が続く。
それぞれがどうしたものかと必死に頭を巡らせる。
彼らをどう避難させるか、納得させるか、万が一爆発した時のために防壁を張るのか、それとも発射そのものを止めるために発射元を叩くか。様々な意見を巡らせるがそれぞれが納得のいく答えが出てこない。
しかし、彼だけはそうは思っていないらしい。
「守るぞ、この村を」
「ガイナちゃん……」
「俺は生まれたとこなんてどこか知らないけど、育った山を下りる時なんとなく寂しかったんだ。離れるだけでこんなに寂しいのに無くなるかもしれないなんてもっと悲しいじゃないか。だから、守ると決めた」
そう聞いた時仲間はやれやれと笑い、村人二人は静かに涙を流した。
――こうして俺達は滅びに立ち向かう選択をした。これが正しいのかなんてわからずに、ただ守りたいものを守るために。その代償が決して軽くはなかったと知るのはもう少し後の話だ。
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