「act05 天使と悪魔」

 さてと、状況を整理しよう。


 彼らはとある研究をしていてそれを排されたが故に協会に復讐をしようとしている。その前段階、実験として超強力な爆弾をこの周辺に投下しようというのだ。そしてそれはおそらく今日。何か対策を考えなければならないのだが如何せんここにいる人間誰一人としてその爆弾に関しての情報を持ち合わせていない。


 幼稚な魔法使いと剣士はガブリエラの氷で爆弾を囲ってしまえば全てとは言わずとも威力を大幅に下げることができるのではないか、と。


 氷の熾天使いはそれで本来爆発しないはずの爆弾を刺激してしまって爆発させてしまったらどうするのか、と。


 地の熾天使い九割の確率で正常に作動しないというなら無視をすればよい、と。


 光の魔法使いはどこかで爆発させるにしても周りに何もない安全な場所はないものかとここ数日探していた。


「『私はそのまま放置しておいても良いとは思っているが、もし仮に君達が打って出るというのであれば打ち出されたモノを高高度で撃ち落とす。より安全圏を目指すならば空の、呼吸が困難となるAライン付近がもっとも好ましいと思われる。まぁ、この極高高度まで爆弾を持って飛行できる人間がいれば、の話だがな。よって発射よりおよそ十秒後、この地点が最高度。多少の被害は出ようがここで撃ち落とすのがもっとも現実的、これが私から提供できる第一プランだ』」


 そう口に出したのは光の魔法使い、リヒート。彼の纏う雰囲気がその幼い年と見合わないのは『歴史は繰り返すスピーキングダイアリー』による会話の再現だろうか。再現相手はおそらく、


「アレイスター、確かに彼の案なら多少の被害程度で済むでしょう。彼の言ったことを言った通りにすれば言った通りのことが起こる。昔からそういうことを起こせる不思議な人間よ」

「そうと決まりゃあオレと嬢ちゃんで爆弾を打ち抜き、ガイナとツヴァイスが氷の壁で防御をする。これでいいな?」


「待ってくれ、ツヴァイスはともかく俺はそんな強力な壁作れないぞ」

「薄いのを何個も作るの。幸いアナタ、数だけは沢山作れるみたいだからそれでもって守るの」

「つうことでボウズの出番はなしってことだ。おとなしく後ろで遊んでな」

「……わかったよ。きみたちはいい人みたいだ。出会いがしらにこうげきしたりしてごめんなさい」

「い、いいのいいの。ほらこっちも血気盛んな二人が突っかかっちゃったから怖がらせたよね。ごめん」


「………………」

「あのぅ……、なにかな?」

「おねえさん、おなまえは?」

「え、私? ツヴァイス。ツヴァイス・アンデ・シュタインっていうの」

「ん」

「ひゃうっ!?」


 そう黄色く小さく声を出したのはツヴァイス。名前を教えた直後、リヒートはツヴァイスの足元に抱きつきぎゅっとし「おねえさん、やさしい。ふつうの人」と間近で呟かれたものだから普段触られない箇所に触られたり吐息が当たったりとでなんか恥ずかしいようなむず痒いような気分になっていた。


 しかしふと我に返ってみれば自分の足に縋るこの小さな少年は見えないくらい微小にだが震えていた。


 それもそのはずで、こんな小さな子供が村の一大事に一人で立ち向かおうとしていたのだ。熾天使いになれる人材とはいえまだ怖いはずだ。心細いはずだ。


 震える身体を優しくぎゅっと抱き返すと少年は少し、ほんの少し喉を震わせてありがとう、と口にした。


(こんな小さな子を怖がらせる人を、私は許しておけない。これが終わったら叩きにいかなきゃ)


 そんなはたから見れば微笑ましい状況に内心穏やかじゃない人間が一人。


「むっ、もう離れてもいいんじゃないか?」

「なぁにガイナちゃん、もしかして妬いてるの?」

「焼いてる? 別に何にも焼いてないが」


 まだそういった細かな叙情は理解できていないガイナにまたさらに気恥ずかしそうにしている乙女。


「いやー、青春っていいわね」

「青春に歳なんて関係ねぇんだから嬢ちゃんもすればいいじゃあねぇか」

「んー、そんなガラじゃないというか許されないというか……。ワタシは現状に満足してるから大丈夫なの。アナタこそどうなのよ」

「オレがんなことに興味あるように見えるか?」


 確かに、と笑って家の外に出て青い空を見上げ背伸び一つ。雲一つないような快晴、すべてがうまくいくと思っていた。


 上等な魔法使いがこんなにいるのだから村一つ守ることくらい造作もないと。








「そう思っていることだろうな、あの何もかもが甘い熾天使いサマならばな。そんなだからいつも予想外のことに足元をすくわれて事を仕損じる。まあ、今回の場合は結果良ければというヤツになりそうだから心配はしていないがね。……さて、そろそろ私も出向くか。ここから村に向かえば二回目に彼らが村にたどり着く頃には私も合流できるだろうさな」

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