「act10 その時、少女は」
「これからは俺が、ガイナ・クォーノスが相手だ。このクソ野郎共」
「ガイナ……? どうして、ここに……」
「おうとも。別れた後な、適当に飯食ってたんだけどなんか嫌な予感がしたからお前の魔力の跡を頼りにここまで追ってきたんだ」
確かガブリエラはここに来るまでに魔法を一度も使用していない、ということは魔力の跡などほとんど残っているわけがないのだ。
――それを頼りにって……。ちゃんと特訓すれば一年以内にはワタシを超す魔法使いになり得るんじゃないかしら。
彼女にそう思わせるほどに魔力の跡を辿るというのは難しいことなのである。
「で、アイツは誰だ?」
「……わからない、わね。急によう、すが変わって……」
「まった面倒な。多人数相手ってのは本当に苦手なんだぜ俺」
あまりの痛さで泣けてくるがしかして泣いている場合でもない。とりあえず出血多量で意識を失ってしまわないように体内の傷口に薄い氷の膜を張り応急的に血を止める。閉じそうになる瞼を凍らせ目を無理矢理こじ開ける。
ガブリエラはようやく呼吸が落ち着きフラフラとしながらも立ち上がる。
ガイナが支えようとするがそれを振りほどき大きく一歩を踏み出す。それに伴い男も一歩下がる。
「……そうかお前わかったぜ。お前はこの世界のメイリーンだな!?」
「なんのことかしら。ワタシの名前はマリン・ブリテンウィッカよ」
「ブリテンウィッカか! なるほどコイツが心揺らぐわけだ! 不安要素は早々に取り除かせてもらうぜ」
「そっちがその気ならッッ!」
駆けだす。その周囲には氷の石が発生してそれを投げつける。
男が一歩下がるとその氷は届く前に謎の爆発によって砕けた。腕を振えばその軌道を描いて轟ッ! と連続の大爆発がガブリエラを容赦なく襲う。衝撃で身体が揺れるがこの程度では倒れない!
「くっ、この爆発のせいで思うように戦えない!」
「ハッ! ここで死ぬお前に冥土の土産として教授してやるよ。仮名、
リュウシ……? そんなもの聞いたこともない。そんなのが空気中に漂っているのだろうか。仮名、という部分から魔法名のない新種の魔法かとも思ったがなんとなくそれは的外れのような気がした。それにまた言葉にノイズが走ったように聞き取れない部分があった。
これもなんとなく、なんとなく思ったことだが彼の使っているのは魔法ではないのではないかとも思い始めた。
「魔法だけに頼ってるようじゃあこの先戦い抜くことは厳しいんじゃねぇか?」
「そんな技術!」
「あるんだなこれが! まだ俺達が持ちこんだ分しか存在してねぇみたいだがな。来てから気付いたけどよ、この世界やっけに文明の発達が遅いよな。それのおかげで生き残ってるってのもあるかもだが」
「なんのこと!」
「所詮この世界も神の箱庭ってことだよ!」
「お主は!」
ガイナの後ろで声がした。ガイナはその存在に気づけなかったが最初からいた二人にはそれがバーニアスのものだとわかった。今まで話を聞いていたようでようやくまともに話せる段階にまで回復したようだった。
「この世界ではないどこかからきたお主らならわかっているはずだ。この世界に訪れるであろう絶望のことを!」
「絶望、
それを聞いたバーニアスは否定的なリアクションをとると、
「アレは人類史における希望だ。アレなら絶望にも――」
「ねぇな」
「……!?」
男にあっさりと言葉を否定されたからか下を向き唇を噛みしめる。
「アレでは絶望を倒せない。そもそもアレを使おうなどと、いくら人類史を救いたいからと言って世界人口の半数を殲滅するなど外道の極み、一寸の狂いもなく悪なんだよ」
――ならば私のしたことはなんだったのだ。私は無意味に人の命を、部下の命を奪ったのか……?
「私は、どうすればよかったのだ!?」
「それはな――」
男が何かを言いかけたところで天井が壊れ崩れる。その土煙の中から現れたのはエドガーにツヴァイスであった。
「ミカエル!? 何故お主がここに!」
「おっとその名でオレを呼ぶなよ。不愉快なんだ、その
「が、ガイナちゃんが急にびゅーんってどこかに行っちゃったから追いかけてきたんだけど、ってガブリエラさん!? その傷はどうしたんですか!」
「はは、これくらいどうということは……ってあー!?」
近寄って傷を治そうとするツヴァイスに応えようとしたガブリエラは即座に違和感を口に出した。
一人いないのである。誰がいないかは言わずともわかるだろう。
「話の途中だったのに……!」
と気づけば先程までいたはずのバーニアスさえもいなくなっている。勿論自力で動けるような状態ではなかったので誰かに連れられたのだ。その人物が誰かも言わずもがなといったところか。
「ワケ知り組が揃って消えたわね。あぁぁぁぁぁぁぁどぉぉすんのよぉぉぉぉぉ!聞きたいことも聞けずにしかも意味わからん意味深な会話だけ聞いて結局モヤモヤしたまんまじゃないの! アンタのせいよ、ア・ン・タ!!」
天井を突き破ってカッコよく登場した(つもりの)エドガーは「え、オレのせい?」とキョトンとした顔で突っ立っていた。
「……もういいわよ。過ぎたことを悔やんでも仕方ないし、って長居は無用よ。さっきの無駄な破壊のせいで警備の人間が近づいてきてるみたいだし面倒になる前にさっさとこの町とはおさらばするわよ」
ツヴァイスがガブリエラの肩を持ち先行してそれを追うように男二人が走り出す。
逃げている途中、ガイナはエドガーに小さな声で話しかけていた。
「(さっき、わざとあいつら逃がしたろ)」
「(……さぁ、なんのことかね)」
「そこ何話してるの! そんなヒマあったら走る! とりあえず来た道を戻るわよ」
走りながらもガイナは思考を止めない。それは先程の会話の中で気になる単語が聞こえたからだ。そしてそれはどうしても頭から離すことのできないものだったのである。
――神の箱庭、何故だかこの言葉を聞くと急に胸が締めつけられる感覚に襲われる。これは、使命感……?
それぞれに思うところを持ちながら町を抜け出す。次に向かう先はこのままいくと一週間前にあんなことがあったあの村だろう。走るツヴァイスの顔は、暗く、暗く沈んでいた。自分の生まれ故郷を出て短時間でこんなにも人の死と遭遇するとは思っていなかったのだ。
あの、名前すらない村で――
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