「act04 熱き漢と冷たき少女」
一回戦とは思えないほどの激戦の後、会場の準備が整えられ次の出場者が舞台へと舞い降りた。
「先ほどはすごい戦いっぷりでしたね! これでは後の二人のハードルがあがってしまうというもの! それではこの勢いのまま第二回戦、ヒートさん、ガブリエラさんどうぞ!」
ガブリエラと相対するのはガイナと同じくらいの年に見える澄んだ青い瞳を持つその少年はガタイが良いというわけでもないが細いわけでもない、ただただ普通の一般的な肉付きでとても強そうには見えなかった。
――ワタシが本気を出すのは少し大人げない、かな?
するとヒートは顔を顰め、
「むっ、その表情から察するに手加減をしようと考えているのか? だとしたら熱さが足りないな。それと――」
ヒートが上着を脱ぎ棄てる。ドン! とおよそ服が地面に落ちたとは思えないような衝撃で砂埃を大量にまき散らした。
「俺は関係なく手は抜かないからな」
ガブリエラが感じた覇気は少年が発するそれではあり得ないほどのプレッシャーがあり熾天使いでさえ思わず一歩後ろに引いてしまう。
「ただの少年ってわけでは無さそうね。いいわ。このワタシ、マリン・ガブリエラが本気で相手をしてあげるわ」
少年はそうこなくては、とだけ言うと構え笑みを浮かべる。
「それでは!」
ぐっと構えて、
「開始!」
「先手必勝!
ガブリエラは開始と同時に(正確にはその前に少し
しかし――
「言ったろ、手は抜かないって」
少年は既に相手の足元にいて拳を握っていて確実にガブリエラへと向けられていた。
「ッ……!?」
力加減など一切していない本気の拳が鳩尾へと突き刺さり、ガブリエラは後ろずさって腹を押さえる。
自分の凍った拳を見ながら感心したように、
「この速さに反応できるとは思ってなかったぞ。中々に熱い奴だ」
「ワタシの連れにも相当速い奴がいるから目が慣れてるのよ。それでも驚いちゃったから一瞬反応が遅れちゃったけれどね」
拳が当たる直前に
「そいつは中々に熱いな。一度手合わせ願いたいもんだ」
「はっ、あの二人を足したような人ねアナタ。
術者を中心として辺り一面を氷で覆い尽くす大魔法。
ヒートはジャンプをして足を取られないように避け着地、否。転んだ。地面が氷なのだ。当然土と同じ感覚でまともに行動できるわけがない。
その隙に距離を離し、氷の短剣を構え、ニタルとこれ以上にないほどの
「ワタシも負けられない理由がそれなりにあるのよ」
足元の氷が動いたと思えばそれが氷の槍を形作る。それを辛うじて避けているが地面が凍っていて思うように動けない上に試しに叩いていたがヒビが入る様子すらない。
「そこらの魔法使いじゃこれは壊せないわよ」
「なら壊すことは諦めよう。水龍弾!」
男が何かを殴りつける動作をするとそこから水が発生し、それは大きな龍を形作りいくつもガブリエラへと襲い掛かる。
普通の水魔法とは違うと直感で感じたガブリエラは
しかしミカエルの火魔法でも簡単には壊せないそれをいとも簡単に砕き、龍は目標の眼前へと肉迫していく。
眼前に迫った龍からなんとか逃れようと自身の胸元で小規模の爆発を起こすことで強引に回避、同時に龍を四散させることに成功した。服が少し焼け焦げているがそんなことなど気にしていられない。この男は想像以上に強い。
「この程度ならまだワタシには届かな――きゃっ!」
立ち上がり体勢を立て直そうとした時にヒートが転んだと同じようにズテン、と転げる。
不審に思い足元を見ると氷が先程までとは明らかに違う滑らかさを帯びていた。見渡せば舞台全てがそのようになっている。
――さっきの水のせいで表面が溶けたように滑らかになった?
「これで二人とも思うようには動けん、つまり五分五分というやつだ!」
しかしだ、
「アナタ脳みそ熱さで溶けてる?」
そうかもしれん、と応えようとした時、足元の氷が水龍弾を撃ち込む前のキレイな氷へと戻ってしまう。
「バカね。氷を作ることすら簡単なのに、水を凍らすなんて朝飯前ってね」
「よく考えればそうだな……。ならこれでどうだ!」
拳を構えて何をするかと構えたが、急に地面を、正確には下の氷に両拳を目にも止まらぬ速さで連続的に叩きつける。およそこの見た目からは想像のできない衝撃だがそれでもまだ割れる事はない。
「だから無駄だと言ってるでしょうが」
地面から造られた氷の槍が少年へと襲い掛かるが、それを見向きすらせずに、まるで砂埃でも払うかの如く右手を振るう。それだけで氷の槍は砕けその足を止めてしまったが、勿論そんな簡単に壊せるようなものでもない。
「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
するとその氷にも少しのヒビが入ったのを感じ取る。
そんなバカな、と叫びたいところだが事実も事実。これで詰みとでも言わんばかりに再び何かを殴りつけると無数の龍が現れヒビから侵入、どうやら中から食い潰そうとしているようだ。
一つ舌打ちを挿みさせまいと駆け出すが足元の氷を龍が食い破りそのままガブリエラごと丸呑みにしてしまう。
とりあえずこの状況から脱するために自分を覆う水を凍らせようと試みるが、
――凍らない!? なんで、
しかも、
「ごぼっ! がばっ、ぼっばっ!?」
――このワタシが水中で息ができない!?
ガブリエラは水の扱いに長けており、水中でも呼吸する方法も心得ているのだがこの水は何故か凍らない上に何故か呼吸もできない。
――何か、何か対策を……。
ふと周りを見れば地面の氷は粉々に砕けており、ヒートは腕を組んでただガブリエラを見据えていた。
――何か、な………………。
呼吸ができないガブリエラの拳は力なく開かれ、身体はぐったりとして龍の形をした水の中でぷかぷかと浮いているだけとなってしまっていた。
やがて水は壊れガブリエラは当然の如く地面に叩きつけられるが目を覚ますことはない。しばらく放っておいても意識が戻る気配がないので流石に周囲がざわつき始める。
だが普通に考えれば、
「単に意識がないってだけだろ。ほら心臓動いてるし、呼吸が止まったのと同時に解放したんだから死んでないって、つかお前ら聞けよ! あー、わかったわかった。人工呼吸とかなんとかすればいいんだろ。水を扱ってるんだ、蘇生方法くらい心得てるって、お前ら本当に人の話聞いてんのか!」
ヒートはやれやれとガブリエラの元へと歩み寄り、顎を上に向け口を見ると――
――氷が張られて中に水が、ってまさか!
気づいた時には既に遅く、お得意の
吐き出した水は目に直撃だったらしくその場に倒れ込み目を押さえてのたうち回っている。
すかさず氷の短剣を構え駆ける。油断もない。しているほど余裕の相手ではないからだ。油断していたわけではないのだが、
「―――――」
辺りが大爆発を起こして炎を巻き上げ始め、それに巻き込まれたガブリエラは氷の柱を自分に向けて伸ばし強引に炎から脱出する。服が焼け焦げ、肌も火傷を負っているが熾天使いにとってはこの程度は致命傷になどなりえない。
自分の魔法で服と火傷の修復を行うとやがて治まった爆発の中心地を見やる。
ゆっくりと開かれた少年の瞳は先程の澄んだ青とは違う、真っ赤の、炎のような瞳へと変貌していた。
どこか雰囲気の変わったその少年は静かに立ち上がり、静かにこう言う。
「第二ラウンド、これからは本気も本気だ。もっともっともっと一緒に熱くなろうぜ」
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