「act02 クイズ大会! そして」

 受付を済ませてしばらく待つこと数十分、エントリーを締め切ったとのアナウンスと共に参加者はアリーナへと向かうように指示を受けた。


 向かってみれば舞台が整えてありそこには参加者用と思われる席が八個用意してあった。


 やがて参加者が揃ったようで司会の人間が拡声魔法でもって、


「レディィィスアンジェントルメェェン! 遂に始まります武闘大会。司会はこの私、Mr.Jがさせていただきます! ではでは早速ですね、参加者の皆様のご紹介をさせていただきましょうか! ではエントリーNo.1から順番に自己紹介をどうぞ!」

「ロー・イーファンだ、よろしく頼む」


「これは力強いスタートだ! 続きまして二番の方!」

「ミラ・サーフスよ。盛り上げてみせるから見ておきなさい!」


「元気のある女の人、私とても好きです! まだまだ三番!」

「クラッセ・アングラー、先に言っておくけれど負けるつもりはないから」


「強気ミステリアス、いいですね! 折り返しの四番!」

「アーニャ・トライデンターです。一位はなんとしても私がもらうんだぞ☆」


「おっと、参加者の中では一番若く見えるがその実年齢や如何に! もっといけますよ五番!」

「鬼剣 双刃、勝つ」


「遠くの東からわざわざ来てくれてありがとうございます! 最後も見えてきた六番!」

「ヒート・マルチキャパニアスだッッッッ!! この大会を熱く盛り上がるものにするために!! 根性で、全力で、やるぞ!」


「な、なんとも熱い! 今回の目玉でしょうか七番!」

「マリン・ガブリエラ、目玉と言われるのは悪い気はしないわね。やるからには優勝目指していくから覚悟しておきなさい」


「そして最後八番お願いします!」

「ウリア・マスカレイドだ。それなりに頑張るからヨロシクゥっと」


 全員の自己紹介が終わったと同時に参加者の後ろからモニターが出現、そこにはルールが記されてあった。ルール違反や回答を三回間違えた人はその場で失格退場となる。


 ガブリエラは間違える心配もないと思っているが問題の内容によってはもしかしたら、もあるかもしれないと腹をくくる。


 それとは別に少し気になることもあった。あのウリアとかいう男だ。


 何故かどこかで会ったことがあるような気がしてならない。しかも雰囲気がガブリエラの兄であるユゥサーに似ているような気がする、と意識していると顔までそう見えてくるから思いこみというのは不思議である。


 第一問! と司会者の大きな雄たけびが聞こえ現実に引き戻される。


 兎に角、目の前のことに集中しなければ。こういう時にエドガーの言葉は役に立つ。


 わからないことは気にしない、だ。


「現在熾天使いは中五枠埋まっているわけですが、その中でも一番位の高いのは誰でしょうか!」


 ――ウソ、


「ルシフェル」


 ぶっぶー、と人の不快感を煽る効果音が流れる。間違えたのはウリア。


「ミカエル、ね」


 答えたのはガブリエラ。正解だったようで会場からは拍手喝采、良いスタートダッシュをきれたみたいだ。

 ――釈然としない。


「第二問! 魔法の属性は火、水、地、光、闇、これらは第五属性と呼ばれていますがそのいずれにも該当しない属性がありますがそれは一体何!」

「っ……!? また――」

「特異属性」

「正解! ウリア選手に一点! 先程から凄まじい勢いで回答していくこの男、一体何者なんだぁ!」


 確かに魔法の属性には五大属性の他に特異属性と呼ばれるカテゴリの魔法も存在している。だがその存在は熾天使いのみ閲覧できる書物に記されている程度で他の魔法使いは存在すら知らないはず。努力で行使できるようになるようなものではなく、生まれながらの才能が必要となる本当の本当に希少な魔法なのだ。


 確認されているだけでも歴史上三名のみ。それとは別に確証はないがガイナのそれもだろう。


 当然だがじっと考える時間もくれないようで次々と問題が出されたがその尽くをガブリエラが得点、一番に予選通過を決めた。


 ――こんな簡単な問題はどうでもいい。今は黙って考えられる時間が欲しいの!


 勝ち上がったガブリエラは休憩と称して舞台の裏へと向かう。


 ステージはかなり盛り上がっているようで多少の声は聞こえているが考え事をするならこれくらいがちょうどよい。無音だと、不安になる。


 ガブリエラは頭を横に振り雑念を排除して考えを整理する。


 まず一問目、熾天使いの枠の話だ。最初に七枠しか存在しないという話をしたのは覚えているだろうか。これまた一つだけ例外があり、魔法協会直属の部隊の長及び熾天使いしか知らない枠、というものが存在している。


 一般人どころか普通の魔法使いですら知らないことなのに、それを問題では八枠と言い切った。それを知っていたウリアはおそらく直属の部隊の長であるという予想がここでたてられる。


 そのあと五枠しか埋まっていないと言っていた。確かにルシフェルは現在はいない。からだ。そしてそれはまだ公表されておらずガブリエラ一行しか知らないはずだ。


 ルシフェルの存在を知っていたとしてそれならば埋まっているのは六枠と言うはず。


 次に二問目、これも一部の人間しか知らない事実であるというのにそれをこの一般人も参加する可能性のある大会で出題してきた。


 疑問をまとめるとこうだ。


 何故一部の人間しか答えられないような問題をこんな一般人の参加する可能性のある公の舞台であえて出題したのか、だ。


 ――

 ――――

 ――――――

 ――――――――

 ――――――――――

 ――――――――――――わからん。


「あぁもう何なのよ!」


 彼女は豊富な知識をその物事に当てはめての問題解決はできるが、経験がない、前例がないこととなるといくら考えてもわからないことが多い。元々考えることが苦手であり初めて見るパズルはもうお手上げ状態になる。探偵には不向きである。


「ならそこにヒント、ってか考える材料を一つ加えてやろォか」


 ガブリエラに声をかけてきたのは黒髪に血を連想させる程に赤い瞳、長身とはいえないが小さいともいえない中肉中背を体現している身体、一見恐ろしいように見える表情でもどこか優しさも垣間見える、そんな人。


 ――やっぱりどこかで見たことあるような。


「自己紹介、は必要ないな

「アナタ……」

「おっと、オレの正体なンてのは訊くンじゃねェぞ。今はンなこたァどォでもいいことだ。重要なのはこの不可解な問題も出し方だ」


「何故一般人が絶対に答えられないような問題を出したか、よね。少し聞いてた感じだとしばらくもそういった問題ばかり出題されていたわね」

「その通りだ。ンでオレがあがった後にも当然普通の人間なら知らねェような問題が出たわけだが、これも当然誰も回答できなかった」


 するとだ、とどこから出したのかアメを一つ口に放りこむ。この匂いはストロベリー、ガブリエラの好きな果物である。


「その次からは魔法使いなら誰でも解ける問題が出題された。ここから導き出される推論は?」

「……………………………………………………………なるほどわからないわ」


 盛大に倒れた。今どき珍しい程に盛大にだ。


「あ、あンた熾天使いだよなァ!? ほンとにわからねェのか!」

「えぇ、自慢じゃないけれどワタシ、膨大な知識量でカバーしてるだけでそこまで地頭が良いってわけじゃないのよ」

「マジで自慢じゃねェな……。じゃあ今までは解けない問題を出す必要があったわけだが解ける者がいなくなったから出す必要が無くなったと判断したンじゃねェか?」


 ――知識を持つ者を勝たせたかった、もしくは分けたかった?


 ウリアはようやっと満足そうに頷く。おらよ、と投げ渡されたのは先程口にしていたのと同じと思われるアメ。頑張って考えたご褒美といったところか。


 ――ワタシは子供か。


 そうこうしている間にどうやら次の本戦に出られるメンバーが決まったようだ。


「なァ、ここで提案なンだが共闘ってヤツをしねェか。オレはバーニアスにちょいと訊きてェことがあンだ。オレが勝ち抜いてそれを訊く、と同時にあンたの望みもきいてもらう。悪くねェ話だとは思うが」

「いいわよ」

「なンだあっさりと――」

「ただし! ワタシが勝ってアナタのそれを叶えてあげる。さ、アナタの望みを言いなさい」


 まるで予想外とでも言わんばかりに口をあんぐりと開けていると思えば声を大にして大きく笑い始めた。そんなにおかしなことを言っただろうか。


「確かに確かに確かに! そうすりゃあオレの正体にも近づけるかもしれねェなァ、ハ、ハハ、ハハハハ! こンなに笑ったのは久しぶりかもしれねェ! 互いに譲れねェもンがあるってわけだ。なら違うな、間違っているぜ。最後まで勝ち残った方がこの条件を呑む。それでいいか」


 問題ないわ、とガブリエラ。彼女から握手を求めるとそれを快く応じてくれる。


「あンたの手存外温かいな。氷を操るのならもっと冷たいかと思ってたぞ」

「アナタは妙に冷たいわね。生きてる?」

「正真正銘生ものだ。と、決まったからにはあンたの魔法を知っているオレが有利になっちまうから一部だけご紹介」


 と言った直後ウリアの姿が空気に溶けていく。そして瞬く間に最初からそこにいなかったかのように空気が流れている。


 ガブリエラも見たことはないがおそらくは特異属性魔法空間転歩イマジナリーウォーカー。現実空間の裏側に存在していると言われている見えない空間、虚数空間を自由に行動できる、と書物で読んだことがある。


 これでウリアが特異属性のことを知っていることにも合致がいった。なんのことはない、自分がそれを使えるのだ。


 しかし珍しいこともあるものだ。歴史上三名しか確認できなかった魔法を操る人間にこの短期間で二人も遭遇できるなんて。観測できていない、あるいは資料に残っていないだけで実は結構いるものなんだろうか。


「ちなみに特異属性魔法じゃねェぞ」


 ありゃ違った。


「ここから先は自分で考えな。では検討を祈るぜお嬢さン」


 姿を消したまま現れない。既にどこかへ移動したのだろうか。


 まあいい。なんにせよこの大会に勝つ、やることは最初から変わらない。


 ――もうすぐ答え合わせだ。

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