第27話

千里がお腹減ったっていうから、ご飯をつくって食べた。


それから片付けをして、なんとなくクセでテレビをつける。


明日はなにをしよう、なにをすればいいんだろう。


テレビ画面の中は、とってもにぎやかで楽しそうだけど、俺には完全に無関係な世界が広がっている。


とりあえず、菜々子ちゃんちに行ってみようかな、どこにあるのか、知らないけど。


千里はのんきに鼻歌を歌いながら、風呂上がりの髪の毛を拭いていた。


「ねぇ、千里」


「なに?」


お父さんいなくて、どうだったとか、お母さんいなくなって、さみしかったとか、だけど、今さら聞くのもバカらしい。


「なんでもない」


「キンモッ!」


千里が二階にあがっていくのを、俺はなんか安心して見上げた。


またなんとなく次の日の朝が来て、なんとなく店のシャッターを上げている時だった。


ふと横に目をやると、そこには香澄が立っていた。


「まだこの本屋さん、続けてたんだ」


「うん」


俺は、なんとなくそう答える。


お腹は大きくなっていても、それ以外は俺の記憶のそのままで、こうやって香澄の方から話しかけられるのも、不思議な気がする。


「菜々子から聞いたんだけどさぁ~」


香澄は、にこにことにやにやの、中間で笑っている。


「結婚って、してないんだ」


黙ってうなずく。


「私と同い年だから、三十だよね、独身かぁー。彼女とか、つき合ってる人とか、いないの?」


俺は、黙って首を横に振る。


彼女はそれを見て、楽しそうに笑った。


「はは、そうなんだ。じゃあ、本当に本屋は、一人でやってるんだね」


そうかそうかといいながら、香澄は店の外観を見て回る。


「まぁ、悪くはないわよね」


香澄とは、中三の時に同じクラスになった。


その時には、同じクラスに彼氏がいた。


その彼はとってもいい奴で、俺はほとんどしゃべったことはなかったけど、俺にもいじわるなんて、してくるような奴じゃなかった。


クラスの人気者で、キラキラしてるタイプだった。


俺は香澄のことが好きだったけど、そいつにはかなわないって、最初から分かってたから、なにも言わなかった。


「私のこと、まだ好き?」


そんな彼女に、なぜか一度だけ告白した。


どうしてそんなことをしたのか、その時の自分の行動が、今になって考えてみても、よく分からないけど、とにかく何かのタイミングで、ふたりきりになったとき、何を思ったのか、俺は彼女に好きだと言った。


「まぁでも、あれから何年も経ってるもんね、私も今、こんなだし」


香澄は、大きなお腹を抱えて笑う。


あの時もそうだった。


彼女は、俺のシンプルな告白を聞いた校庭の隅で、何の冗談かと笑っていた。


そうなることは、簡単に想像出来たのに、よく分かっていたのに、俺はそのまま立ち上がって、黙ってその場を後にした。


彼女は、そのまま彼氏の所に走っていって、何事もなかったように、それからの日々を過ごした。


「人間、どうなるか分かんないよね~」


菜々子ちゃんは今、学校に行っている。


平日の午前中、さびれ果てた商店街に、人影はまばらすぎた。

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