第3話

女祈祷師は、そのしわだらけの顔を、人懐っこくねじ曲げた。


「商売のつもりはないの、人助けのつもりでやってるから」


「でたな、人助け! こいつにつける薬があったら、こっちが知りたいわ!」


「そんなことないって」


大体、人間の世界の出来事を、猫になんか分かるわけがない。


「俺のこと、バカにしてる?」


「バカになんかしてませんよ! そこまで私を信じないならね、ほら!」


女祈祷師は、カラフルなみの虫衣装の下から、名刺を取り出した。


「あたしはね、キチンと教育を受けた、本物のスピリチュアルカウンセラーなんだよ!」


「私は魂の指導者だ!」


「そっちの方が怪しいだろ!」


俺は、膝の猫に向かって叫んだ。


猫はムッとした顔でうずくまる。


俺は猫に向かってそう言ったつもりだったのに、目の前の祈祷師も、猫と同じようにムッとした態度になってしまった。


「あなた、幸せになりたくないの?」


「おまえは、魔法使いになりたくないのか?」


目の前の不思議な祈祷師と、膝上のしゃべる猫が、一斉にたたみかける。


一人と一匹から投げかけられる、強い視線。


修行してなる魔法使いと、与えられる幸運、答えは決まっている。


俺は、膝上の猫を畳に下ろした。


「幸せになりたいです!」


正座状態から、女祈祷師にていねいに頭を下げる。


「おい!」


「だったら」


わめき散らす猫の横で、ほっとした祈祷師が、肩から斜めにかけていた鞄から、水晶と書類を取り出した。


「この幸運を招く水晶を五千円で買って、様子をみてちょうだい。効果がなかったら、電話してきて。後日、全額返金します」


なんていい人だ。


俺は、こんな風に誠実な対応をしてくれる善人に、生まれて初めて出会った気がする。


「おい! そっから芋づる式に……」


俺は、やかましく騒ぐ猫の口を塞いだ。


「本当に、全額返金してくれるんですか?」


「もちろん!」


「本当に?」


聖女は、大きくうなずく。


「後できちんと連絡が取れるように、名前と住所と電話番号、間違いのないように、しっかり書いておいてくださいねぇ」


ほら、やっぱりいい人だ。

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