レーススタート
しゃべり終わった秋田犬がマイクをじょうに渡す。
「はいそれでは!!彼女たちには今から四匹五脚で速さとチームワークを競い合ってもらいます!最も力を発揮して、一番二番になったチームには次の歌選考に進む権利を得ます!」
じょうが先ほどの説明を繰り返す。
「ルールはこうです!!まずは彼女たちには3本ずつひもを支給します!各自足を結わえた後、トラックを一周し出口から外へ出てもらいます!外へ出たら看板に従って移動してもらい、最後にこのドームに戻って来るというものです!!なお!場外の様子はすべてスクリーンに投影されます!!はいそれではいよいよスタートです!!号砲は当園の所長が!!実況は私じょうが!!解説は飼育員のしんがきおにいさん(とうきょう)がお送りします!!」
じょうはマイクをもったまま実況席に移動した。
各チームにひもが支給される。全員がスタート地点に立つと、お立ち台に所長が登った。
『あ』とコロネはあからさまに視線を逸らす。
「はいそれでは皆さんがんばってくださいね。」
所長は手前にいたぺぱぷを一瞥し、適当な一言を発した。
すると会場が静まり返る。所長は号砲を天に向け、スタートの合図を出す。
「位置について……用意……」
ぱぁんっと乾いた音が鳴り、わっと歓声が響く。
フレンズたちはひもを手に取り、それぞれの足を結び始めた。
「さあ!、フレンズたちは一斉に紐を結ぼうとします!ですが、うまくいかないチームが多いようです!!」
「そうですね。結び方は、いろいろありますが、何も知らないフレンズが、あの、多いようです。そうなるとやっぱり、新しく結ぶ方法を考えないといけません。必要なのは、空間認識力ぅ…ですかね。あと若干ゃ手先の器用さも求められます。」
長い割に分かりにくい解説のさなか、一つのチームが勢い良く飛び出した。しかし彼女らはすぐに転倒してしまう。
「おおっと!早くも全員結び終わったチームが出てきたようですよ!抜けだしたのは、チーム『じゃんぐるすたあ』だ!!ジャガー、コツメカワウソ、ミナミコアリクイ、オカピの四匹組!」
「結んだのはコツメカワウソですね。コツメカワウソは、あの、手先がとても器用で遊び好きです。おそらくひもで遊んでいる最中に、結び方を会得したと思われます。すごいです。」
しかし息が全くあってないためぜんぜん進まない。じゃんぐるすたあは2メートルほど進んでは転び、また進んでは転びを繰り返していた。会場内からかすかに笑い声が聞こえてくる。
「しかしまだまだゴールまでの道は遠いようです!!」
『あ』のチームもひもの扱いに時間をかけていた。というのも、プリンセスが出しゃばっていたからだ。
彼女は優良フレンズは緊急時に備えて包帯の巻き方を知っていると言って、コロネと『あ』の足をひもで結ぼうとしているがうまくいっていないのだ。
「おかしいわね……ここをこうしたら結べるはずなんだけど……」
「プリンセスさん……私もっと簡単な結び方知っていますよ……?」
レトリバーは言うがプリンセスは無視して続ける。
「黙ってなさい…ほら…!できたわ!」
プリンセスはできたと言いはったがコロネが少し足を動かすと紐はすぐに解けてしまった。
「何してんのよもう!」
プリンセスは地団駄を踏む。しかし悪いのは明らかにひもの結び方である。ふてくされるコロネ。
これを見たカラカルは一つ提案をした。
「ねえ『あ』。あなたのいう簡単な結び方であたしとコロネの足を結んでみてくれない?」
「そんなことしても時間のムダだわ!私に任せなさいよ!」
プリンセスは反対したが、『あ』がカラカルの言うとおりやってみると十数秒でひもは結び上がった。
カラカルは立ち上がりひもがしっかり結ばっていることを確認すると、彼女は『あ』の背中を叩いて言う。
「やるじゃない『あ』!」
これに対し『あ』は少し照れながら謙遜した。
「これはカラスさんが……ハシボソガラスさんがしっぽを隠すときに使っていた結び方で……たまたま覚えていただけですよ。」
ここで解説のマイクから驚きの声が漏れる。
「お、ぷりんしぇ…プリムズ、の結び方は、クラブヒッチぃ…ですね、これは。これは解けづらいですが、解きやすい結び方です。なんでイエイヌが知っているのかは、謎です。」
解説の人に褒められたのを聞いたプリンセスは、ひもと足を『あ』の方へ差し出した。
「『あ』……あの、さっきは悪かったわ。私の足も結んでくれないかしら。」
ひもを差し出された『あ』はプリンセスの方を見る。
「以外と素直なんですね。プリンセスさん。」
「早く!」
『あ』はコロネとプリンセスの足を結び、自分とプリンセスの足を結んだ。
こうしてようやくPrincess and prismのスタートの準備が整った。プリンセスはすぐさま統率を取ろうと声をあげる。
「せーので進むわよ!せーの!」
掛け声に合わせて全員で一斉に足を出すが、左右が合わず四匹は盛大に転倒してしまった。じょうの言うとおり道のりは長そうだ。
〜〜〜
一方はいいろはフェネックと二人でドームの廊下を歩いていた。
「フェネックさん…本当にこっちにアライさんがいるのですか?」
はいいろが訝しげに尋ねる。
「もうすぐ来るんじゃないかなー。」
「えぇ……?」
フェネックの憶測に驚くはいいろ。フェネックにとってアライさんは大切なものではないのだろうか。大切なものは常に大事に持っておかなければ取られてしまう。かつて814番にじゃぱりまんを取られた過去をもつはいいろにはフェネックの回答が不思議でならなかった。
そう思った矢先、何か足音を聞いてはいいろは顔をあげる。見ると、アライさんが何かを連れて走ってきた。
「おーいフェネックー!!迷子を見つけたのだー!」
はいいろは困惑したが、フェネックは落ち着いた様子だ。
迷子と呼ばれた少女が息が上がって苦しそうなのを見て、フェネックはようやく口を出した。
「アライさーん。その子はどこで見つけてきたのー?」
「ふっふっふー。向こうのお部屋の中なのだ!」
アライさんは迷子の腕を掴み得意満面で答える。が、当の迷子は不服そうに腕を振り払い言った。
「違う!!コイツに無理やり連れて来られたんだ!!」
迷子は息が上がっていた割りにはやけにでかい声を発した。これには驚く一同。元気そうなのでいろいろ質問してみると、いろいろ返ってきた。
「私は丈子!じょうこだ!!パパが忙しいから控室で待っててと言われたところを、そいつに無理矢理連れ去られた!!全く酷い話だ!!」
じょうこは腰に手を当て、やれやれと言った感じでため息をついた。しかしアライさんは悪びれずに言い返す。
「いーや!お前は『パパに会いたい』って言っていたのだ!!アライさんの耳は誤魔化せないのだ。」
「それは……」
じょうこは先ほどまでの威勢を失い言葉を詰まらせる。
「とにかくお前を父親に会わせるまで離さないのだ!黙ってアライさんについてくるのだ!フェネックとはいいろも!」
アライさんはじょうこの腕を引っ張り連れて来た方へズカズカと戻っていった。
さっきから困惑しっぱなしのはいいろにフェネックはニヤニヤしながら声をかける。
「ふふ……やっぱりアライさんって面白いよねー」
「え……?あ、はい。」
はいいろの空返事を聞いていたのかいないのか。フェネックはすでにアライさんを追いかけて行ってしまった。はいいろも一匹になるのは嫌なので、仕方なくフェネックたちを追いかけていった。
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