二次選考開始




「な、なんで…」


はいいろにはじょうのセリフが信じられなかった。


「待って!その子の覚悟は本物だわ!ここで落とすのは早計よ!」


プリンセスも思わず声を上げてしまった。しかし、じょうの決断は揺るがなかった。


「不合格と言ったら不合格だ!!厳正な審査の結果だ!!文句言うな!!」


じょうの気迫に押されてプリンセスは口をつぐむ。

窮地に陥ったはいいろはとっさに自己紹介の続きを話しはじめた。


「あ、アイドルといえば歌ですよね、私歌います。歌も好きですから。」


そう言うとはいいろは、先ほどプリンセスに見せてもらった石積みの歌を歌い始めた。

決してうまいとは言いがたいが、頑張っている様子は十分伝わってくるいい出来だ。成長も見込める。ひと通り歌い終えた後はいいろは再びじょうを見つめる。


「い、いかがでしょう?」

「はいいいろ。不合格だ。台から降りろ。」


じょうは非情であった。じょうだけに。

はいいろは目に涙を浮かべ、唇を噛んで立ち尽くしている。

そのうちじょうはいつまでも降りないはいいろに痺れを切らして、彼女を台から引きずり下した。

床に転げ落ちたはいいろは絶望の表情を浮かべ、しくしくと泣き始めた。


「泣いたって何も変わらんぞ!前を見ろ!!」


じょうははいいろが被っていた帽子を脱がすと雑に床に投げ捨てた。

帽子を必死に拾い上げ即座に被りなおすはいいろ。

けなげな彼女をよそに、じょうはプリンセスに話しかけた。


「はい次!お前名前は!!?」

「え?ロイヤルペンギンのプリンセスです……」

「プリンセス!合格だ!!次の部屋に進め!」

「ちょっと待ってください。」


プリンセスは流れを遮り、はいいろのもとへ向かった。


「はいいろ……ごめんなさいね……」


プリンセスは不安そうな表情を浮かべ、はいいろに話しかける。

はいいろは帽子を目深にかぶり、下を向いたまま首を振った。


「えっと……レトリバーが言ってたわ。もし試験にとおらなかったら、会場の入り口で待っていてって。そこから絶対に動いちゃダメだって。絶対よ。会場の入り口だからね。」


プリンセスはいつになく真剣な顔でやたら念押すと、はいいろの肩をポンと叩いた。

次の部屋への扉を開いてじょうが待っている。じょうがプリンセスを呼ぶと、プリンセスは小走りでじょうのもとへ向かった。


じょうがいる扉の向こうからは楽しそうな笑い声が漏れて聞こえる。

プリンセスが後ろを振り返ると、先ほどまでにぎわっていた大きな部屋の中で小さいフレンズが独りぽつんと座りこんでいた。

プリンセスはしばらく見ていたが、じょうにせかされて次の部屋に入る。

バタリ、ガチャリと音を立てて閉まるドア。漏れ聞こえてきた楽しげな声は途端に聞こえなくなった。


はいいろは一匹ぼっちになってしまった。


ゆっくりと立ち上がり、はいいろは閉まったドアの方へ向かう。ノブを回してみたり、ドアを上下左右に動かしてみたりするがピクリとも動かない。どうやら鍵がかかっているようだ。はいいろは自分だけがアイドルへの夢から締め出されたという現実を物理的にも理解できた。


そのうちはいいろはドアにもたれかかると嗚咽をあげて泣き始めた。


~~~~


次の会場は選考を通過したフレンズ同士の会話で賑わっていた。

そんな中レトリバー達が不安そうに待っている。


「はいいろちゃん遅いわね...なにかあったのかしら?」

「問題ないですよぉレトリバーさん。あいつもすぐ来ますって」


やけに機嫌がいい814番に励まされるレトリバー。

しばらくすると扉が開き、プリンセスとじょうが入ってきた。


「はい!今から二次選考に入ります!!」


じょうが手を叩きながら叫ぶと、会場が一瞬で静まり返った。静寂の中じょうは続ける。


「二次選考の内容はこれだ!!」


じょうがいつの間にか手に持っていたくす玉を割ると、紙吹雪とともに達筆な文字が現れた。


『四匹五脚』パンパカパンパンパーン


しかし、漢字が読めるフレンズなどほとんどいない。困惑しざわつく会場。じょうが咳払いをし、説明を開始する。


「今からお前たちには自由に四匹組を作ってもらう!!その4匹の足同士を紐で結ぶ!!結んだままの状態でさばんなをお題にしたがって走るんだ!!ゴールに早くついた上位2チームが決勝の歌選考に進めるというルールだ!!分かったな!!まずチームを作ったら俺のところに来い!」


説明を聞いたフレンズたちはすぐさま移動を開始した。それぞれがそれぞれと合いそうなフレンズを探し始めるが、レトリバーと814番はすぐさまプリンセスの元へ向かった。


「プリンセスさん。はいいろちゃんは?」

「え、えーと…あの子は特別にそのまま決勝に行けることになったのー。だ、だからあなた達も勝たなきゃダメよー。」


レトリバーの問いに、挙動不審で答えるプリンセス。814番は嘘を信じ込んで地団駄を踏んだ。


「はあ!?アイツだけ特別扱いなんてズルい!」

「まあまあ814番ちゃん…」


いつものようにレトリバーがなだめるが、なぜか814番はもじもじしている。どうやら何か言いたいことがあるようだ。


「あの、レトリバーさん?私のこと814番って呼ぶと身元がバレちゃうかもしれませんよ…?」

「…確かにそうね。」

「ここでは偽名で名乗りません?」

「ええ。そうしましょうか。」

「だ。だから。あ、あたしのことは、コ、コロネって呼んで下さい。」


814番は顔を真っ赤にして言った。


「分かったわ。」


冷静に答えるレトリバーに、コロネは早口で続ける。


「これはあたしがこう呼んで欲しい訳ではなく仕方なく!ですからね。」

「ふふ。そうね…私も仕方なく、『あ』を名乗ることにするわ。」


ひとしきり会話が終わったのを見計らって、プリンセスが二匹に尋ねた。


「『あ』、コロネ。せっかくだし、3匹でチームにならない?」


断る理由はないし、他に信用できるフレンズもいなかったので、イエイヌ達は提案を受け入れることにした。


そうなると後一匹を見つけなければならない。プリンセスは仲間選びの指針を示した。


「いい?まずは足が速い子よ。たくましい子を見つけるの。あとは、さばんな出身の子ね。地形がわかっているほうが有利だから。これはさっきの自己紹介で大体把握できているわ。」


納得し、感心するイエイヌたち。


「行きましょう」


プリンセスは二匹を引き連れ、フレンズが多く集まる会場の中心部へ向かっていった。


そのうちプリンセスは黄色いフレンズの前で立ち止まり、声をかけた。


「あなた、サーバルよね?よかったら私たちと組まない?」

「いいよ!」


その黄色いフレンズは即答したが、隣にいた赤茶色のフレンズがこれを許さなかった。


「ちょっとサーバル!私と組むんじゃなかったの?!」

「うん!カラカルとも組むよ!」


黄色いのは笑顔で答えたが、カラカルは頭を抱え、ため息をつきながらこう言った。


「あのねぇサーバル?じょうは四人組を作れって言ってたわよね?今ここにいるのは何人?」


サーバルは周りを見渡しながら指折り数え始めた。


「えーと、誘われたのが3人だから、カラカルも入れて4人!やっぱりちょうどい

いじゃない!」

「自分も入れなさいよ!まったくもう!」

「あ!そっかー!」


思わずツッコミを入れるカラカル。サーバルは舌を出して頭をかいている。

これを見たプリンセスは誘う相手を変えることにした。。


「えっと...カラカルもさばんなのフレンズだったわね?サーバルとより、私たちと組んだ方がいいんじゃないかしら?」

「はあ?べつにアンタたちと組む気はないわ。」


カラカルは即答した。しかしプリンセスは食い下がらなかった。


「残念ながらアイドルはある程度頭がよくないとなれないわ。だからサーバルと組んでいるようじゃアイドルになれないと思うわよ?」


カラカルは眉間にしわを寄せ、明らかに不機嫌な表情に変わったが、プリンセスはそれに気づかず説得を続ける。


「それに引き換え私は頭がいいわ!これを見なさい!」


プリンセスは胸をはり優良フレンズのあかしを見せつけた。サーバルとカラカルはまじまじと見つめる。


「すっごーい!『あかし』だ!初めてみたよー!」


サーバルはぴょんぴょん飛び跳ねて言ったが、カラカルは苛立っているようだった。


「もういいわ!行きましょサーバル。あんなのつけてるやつ人間共の奴隷なんだからうらやましくもなんともないわ!」

「ああちょっと...」


カラカルはサーバルを引っ張って向こうに行ってしまった。


もう一人の仲間を見つけるのは難航しそうだ。

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