おーでぃしょん開幕




「ワタシはショウジョウトキ!こうざんエリアから来たんですけど!アピールポイントはこの赤くてキレイな羽ですけど!(ドヤァ)」


ショウジョウトキはそのきれいな羽を揺らめかせてじょうに見せつけた。じょうはショウジョウトキの羽をちらりとみて、プリンセスが持っていたのと同じような端末に何かを打ち込んだ。作業を終えて顔を上げるとじょうは雄叫びを上げる。


「ショウジョウトキ!合!格!だ!!!!!おめでとう!!!隣の部屋に進めぃ!!」

「やった!」


じょうは部屋の奥にある扉を指さした。ショウジョウトキは小躍りしながら壇上を降りると次の部屋に進んでいった。


「次やりたい奴出てこい!!」


じょうが叫ぶやいなや、お立ち台の周りにフレンズたちが殺到し詰め寄った。

次々に始まる自己紹介。会場の熱気に未だ対応できていないイエイヌたちはただ見ることしかできなかった。


「わたし、コツメカワウソ!じゃんぐるから来たんだ!たのしーことと歌が好きだよ!聴いて!らーらーららーらーらららー♪しょーしゅーりきー♪」

「コツメカワウソ!合格だ!!」

「サーバルキャットのサーバルだよ!さばんな産まれなんだ!特技はねー…狩りごっこ!うみゃ!」

「サーバル!合格だ!!」

「...ゆきやまのキタキツネ...げぇむが得意だよ。」

「キタキツネ!合格だ!!」

「スナネコです。さばくから来ました。特技は特にありません。」

「スナネコ!合格だ!!!」


自己紹介したフレンズ達は次々に合格していった。


選考とは名ばかりで実際は出場者を確認しているだけなのだろう。つまりは誰でも受かるのだ。プリンセスはそう言ってイエイヌたちを落ち着かせた。

イエイヌたちはプリンセスの言葉を信じて深呼吸すると、お立ち台への列の最後尾に並んだ。

そんな中見覚えがあるフレンズが自己紹介を始めた。


「秋田犬です!パークセントラル出身で、『待て』が得意です!よろしくお願いします。」

「秋田犬!合格だ!!」


レトリバーはあっけにとられた表情で秋田犬をみる。対して秋田犬はレトリバーをちらりとみると、すぐに目をそらし次の部屋に進んでいった。


レトリバーは明らかに動揺していた。自分たちの身の上を知っているフレンズがいる。この事実が自分たちにどのように働くのかとても不安だったのだ。

不安を感じ取ったのだろうか。すぐ前に並んでいたフレンズたちがレトリバーに話しかけてきた。


「大丈夫か?顔色悪いぞ?」

「お腹すいてるのー?」


急に話しかけられて驚く一同。話しかけてきたフレンズたちは若干プリンセスに似ていたが髪型などがところどころ違う。

適切な言い訳を考えていたレトリバーはしばらく固まっていたが、そのうち814番が叫び声を上げた。


「ギャア!噛まないでよ!」


なんと先ほど空腹を心配してきたフレンズが814番の大きなお耳に噛みついている。

大きいほうがあわててそのフレンズを814番から引き離した。


「ふるる!何てことしてるんだ!」

「あー。この子のおみみが『コロネ』に見えちゃったからーついー。」


大きいほうは一応叱責したものの、ふるると呼ばれたフレンズはあまり反省してなさそうだ。814番は噛まれたお耳をさすりながらふるるをにらみつける。

対するふるるは特に気にせず居眠りをしていた。これを見た814番の顔は怒りで赤くなってゆく。

空気が張り詰めてくる。ここでプリンセスが声を上げた。


「ほらあなたたち!順番来てるわよ!」

「お、おっと」


いまにもケンカを始めそうなフレンズたちにプリンセスはじょうが待っていることを伝えた。

大きいほうのフレンズが慌てて壇上に上がり、自己紹介を始める。


「コウテイペンギン、ちほーの、ペンギンの、コウテイだ!ゆきやまちほー、にぉ、う、海沿いから来ました!我慢じゅ、ちゅ、強いと、お、思います!」

「コウテイ!合格だ!!」


コウテイは先ほどまでの会話からは考えられないほどセリフを噛んでいた。それでもじょうから合格をもらってホッとした表情を見せると次の部屋に進んでいった。

次にふるると呼ばれたフレンズが壇上に上がり、自己紹介を始めた。


「ふるるーだよー。よろしくねー。」

「ふるる!合格だ!!」


ふるるに至っては出身も特技も言わなかった。しかしじょうは何の躊躇もなく合格にした。やはり何も見ていないのかもしれない。


「はい次!次の金髪!」

「は、はい!」


レトリバーはいつもの穏やかな表情をつくり前のフレンズたちに倣って自己紹介を始めようとする。


「えーと、ゴールデンレトリバーの……あ。」


しかしレトリバーはここで口をつぐんだ。ここで本当の名前を言っては身の上がバレるリスクにつながる。偽装した自己紹介ではじめからやりなおそうとしたとき、じょうがこれを遮った。


「あ!合格だ!!」

「ちょ、ちょっと待ってください!」


合格と言われて困惑するレトリバー。自分はまだ自己紹介していないと主張するが、じょうにはそれが通らなかった。


「合格と言ったら合格だ!あ!台を降りて次の部屋に進めぃ!!時間が押してるんだぞ!」


じょうはレトリバーの手を引っ張り、台から降ろした。

レトリバーはあまり納得していなかったが、言われたとおり次の部屋に進むことにした。去り際、レトリバーは2匹の子犬に忠告した。


「814番ちゃん、はいいろちゃん。次の部屋で待ってるわ。二人なら大丈夫よ。…あと、偽名はしっかり考えておいたほうがいいわ。」


『あ』は複雑な表情になりながらこう言うと、小走りで次の部屋に進んでいった。


「はい次!あと三匹だな!来い!どんどん来い!!」


じょうがフレンズたちを急かすと、次に並んでいた814番が壇上に上がった。

マイクを受け取ると814番は自己紹介をはじめる。


「あ、あたしは。あたしの名前は……」


先輩の失敗をこの目で見た手前、しっかりと偽名を決めたいものだ。しかし、814番は決めかねていた。どんな名前にすればいいのか。さきほどのコウテイみたいに種族名がわかりやすいのがいいのか。ふるるのように可愛いのがいいのか。それともはいいろのように自分自身を表せるものがいいのか。


「どうした?!早く言え!!」


急かすじょう。

ここで814番の頭に浮かんだのは、先ほどふるるに言われたあの言葉だった。


「こ、コロネ!コロネです!パークセントラルから来ましたコロネです!よろしくお願いします!」

「コロネ!!合格だ!!」


コロネは顔を紅潮させ、恥ずかしそうに次の部屋に進んでいった。

プリンセスはそれを微笑ましく見送ると、はいいろの背中を押した。


「行って来なさい!」


激励されたはいいろはじょうからマイクを受け取り壇上に上がった。プリンセスに教えてもらったようにマイクを持ち変えると、なるべく明るく元気な声と、慣れない作り笑顔で自己紹介を始めた。


「ぱ、パークセントラルから来ましたはいいいろです!ぜったいアイドルになりたいです!よろしくお願いします!」


はいいろはペコリとお辞儀をし、じょうの方に熱い眼差しを向けた。


しかし。じょうは言い放つ。


「はいいいろ!不合格だ!」


~~~~


―ドーム外苑


「なんでなのだ!!せっかくこはんからここまで来てやったのだ!!道を開けるのだ!」


頭にアルミホイルを被り、ラベンダー色の衣装に身を包んだフレンズがスタッフに突っかかっている。


「そんなこと言っても、もう受付は終わってしまったから参加はできないよ。」


スタッフは困り顔で言うがそのフレンズは引き下がらなかった。


「うるさいうるさいうるさいのだ!!アライさんはなぁ!人気者なんだぞぉ!だからアイドルにふさわしいのはアライさんなのだ!アライさんがアイドルにならないで誰がアイドルになるっていうのだあー!ばかああああー!」

「まあまあアライさーん。」


半泣きになりながらスタッフをポカポカと殴るアライさんを制止したのは、おみみの大きな、ピンクを基調とした毛皮を持つフレンズだった。


「アイドルになったところでアライさんが人気者なのは変わらないよー。なにもしなくても人気者なんだからわざわざアイドルにならなくてもいいんじゃなーい?」


説き伏せられたアライさんは掴んでいたスタッフの襟首から手を離した。そして少し考えると捨て台詞を吐き出す。


「フン!フェネックの言うとおりなのだ!別にアライさんはアイドルにこだわってないのだ。アライさんはアライさんなのだ。行くのだフェネック!手がかりはここにもあるはずなのだ。」


ドームを回り込む方向にアライさんはずんずんと進む。フェネックは頭を下げてスタッフに謝罪するとアライさんについて行った。

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